あのとき歴史が動いた ~労働法規の変遷その2〜 by 一蔵
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まずはTHE DANKAIのお知らせから!
6/15(土)、本日21:00より2回目の座談会を開催します!
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おやっとさぁ
みなさんこんにちは。一蔵です。
今回は、前回につづいて2019年に施行された「働き方改革関連法案」を題材としていきます。
「働き方改革」については、14代目Takeshiさんの「2023年問題・2024年問題とは?~中小企業の労働時間と賃金について~」で取り上げられていますが、この2024年4月の施行が働き方改革の総仕上げとなっています。
今回の記事では、最終的には2024年4月1日に施行された内容を押さえることを目的としていますが、働き方改革に至るまでのこれまでの労働基準法の改正を振り返りながらストーリーベースで理解を深めていきたいと思います。
前回は1993年の改正まで見ていきましたので、その次の1998年の改正から進めていくわけですが、今回は1998年の法改正をネタにしょっぱなからちょっと深掘りタイムに入ります。
ほれほれ
ほりほり
なぜか?
今日の深掘りは診断士試験的にはノンコアもいいとこの話になりますが、以前15代メンバーの「せーでんき」こと、本名「オボ・エナイ」がいいことをいってましたね。
たとえば(自分なりに)”制度の趣旨”などを把握し「趣旨に沿って考えたらどうか」を選択肢を見てその場で考える
15代目せーでんきこと「オボ・エナイ」
これはぼく(本名「オボエ・ラレナイ」)がパレート学習法とともに大事にしている「学習スタンス」と同じことを言っていると思っています。
ぼくの学習スタンスとは、
①(時代)背景、②プレーヤー、③力学構造を意識する、ことです。
人間社会のことでなくても、擬人化して上記3つの視点でものがたり化します。
これを押さえることができれば”制度の趣旨”の理解につながり、対応力が1段階、2段階上がると考えています。
今日の深掘りは、”制度の趣旨”的なイメージを提供することで、読者の皆さんと労働法規との距離を縮めたいという試みになります(途中で飽きてしまったら、そっと画面を閉じてください)。
それでは、さっそくいってみましょう!
戦略的青天井の改正(1998年)
この年の改正は個人的にとても面白いと思っています。大きく2つの改正がありました。
改正内容
- 労働時間の延長の限度等に関する基準(限度基準告示)
- 企画業務型裁量労働制
面白いと感じているのは「労働時間の延長の限度等に関する基準(限度基準告示)」を示したこと。
今回はこれをネタにして、少し話を深掘りしていきます。
時間外労働のルール
「限度基準告示」に触れる前に、時間外労働のルールをおさらいしておきます。
- ルール1:法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間まで。
- ルール2:「労使協定」を締結すれば、法定労働時間を超えて働かせることができる。
ついでに「労使協定」も確認しておきます。
労使協定
使用者(会社)と労働者の過半数で構成される労働組合(または労働者の過半数を代表する者)とが締結する協定
この辺少し分かりにくいので、使用者と労働者の契約にかかわるものを整理してみましょう。
効力関係
- 法律:そのままズバリ労働関連法規のことです。法律は”最低限”のことを規定しています。
- 労働協約:使用者と労働組合との間で労働条件等について合意した協定のこと。
- 就業規則:労働者が就業するにあたって遵守すべき職場規律や労働条件に関する規則類を定めたもの。
- 雇用契約:使用者と労働者が個別に交わす契約のこと。
労働協約と労使協定て、よく分からにゃい
(他は分かるっていうんかい)
労働協約というのは、プレーヤーが「労働者」ではなく、かならず「労働組合」であることが重要です。
労働者が団結して交渉力を持つことで、対等(に近い)な立場で定めるルールのことを言います。
決めた以上は労使ともに守らなくてはいけません。
さっき(上)の図の位置関係に注目してください。
法律は最低限のルールで、それを土台にして労働契約が締結されることになりますから、労働契約は法律を下回るものであってはいけません。
もし、法律を下回る内容であった場合は、その規定は無効となります。
これを「強行的効力」と言います。
そして、無効となった部分は法律の規定が適用されることになります。
これを「直律的効力」と言います。
労働協約は使用者と労働組合の協議で決定されるものですが、就業規則は使用者が(勝手に)定めるものですね。
ですから、原則としては好き放題に規定することができます。
なので、労働協約の方が下に位置付けられており、就業規則は労働協約と同等以上の規定でないといけないという関係になっています。
最後の個別の労働契約も同様で、
気に入らないヤツだからこいつだけは低い条件にしてやろう。
使用者がこんなことを考えたとしても、就業規則の定めを下回る個別契約は無効となり、就業規則の定めに置き換えられることになります。
また、労働協約は団体交渉の結果定めたものであるため、「規範的効力」という特別な効力が認められています。
就業規則や個別の雇用契約の内容が労働協約と異なるものであった場合、使用者は労働協約の規定を遵守しなければなりません。これが規範的効力です。
労使協定
さて、ここまでを踏まえて「労使協定」に戻ります。
労使協定は先ほどの図に出てきてませんよね。
そうです、労使協定はちょっと異なる性質の子なんです。
どういうことかというと、労使協定は「法律で決められたルール」を逸脱することを目的として労使で協定を結ぶものなんです。
みなさん36協定はご存知ですよね。労使協定は知らないけど、36協定は知ってるよという方もときどきいらっしゃいますが、36協定は労使協定の一つです。
法律上は1日8時間までしか働かせてはならないんだけど、「それ以上働かせる必要がある場合に36協定を結んでおけば法律違反にしないよ」というものです。これを「免罰的効力」といいます。
労使協定を締結しておけば、労働基準法違反になってしまうことも罰せられなくなるよ、ということなんですね。
ここは一つポイントです。
労使協定は罪に問われなくする効力しかないため、労使協定を結んだだけでは、労使それぞれにその取り決めを遵守させる力はありません。
1ヶ月単位の変形労働時間制なんかがいい例ですね。
労使協定を締結すれば、所定の時間を変えても罪には問われないけど、実際にそういう働き方をさせるためには、別途、就業規則で「1ヶ月単位の変形労働制を適用して勤務させるよ」と規定しておかなければなりません。
効力関係のおさらい
ここまでで効力のおさらいをしておきましょう!
(覚える必要はないので、読み流してください)
効力の整理
- 強行的効力:ベースとなる規定を下回る部分を無効にする効力
- 直律的効力:無効とした部分について、ベースとなる規定を適用する効力
- 規範的効力:労働協約の規定が就業規則や個別労働契約に優先される効力
- 免罰的効力:法律に違反しても罪に問われなくなる効力
今日って、効力関係がテーマなんだっけ?
ハッ!?
限度基準告示の話をする(←これが目的)ために労使協定に触れておく(←これはプロセス)必要があっただけなのに、すっかり効力関係が主役になってしまいました。。。
限度基準の告示
これが本日の主役です💦
1998年の改正で示された「時間外労働の上限」です。
労働時間に関する原則的なルールとしては、1日8時間、1週間40時間までという上限がありますが、36協定を締結すれば、それ以上働かせることができましたよね(免罰的効力ですよ)。
実は、1998年の「限度基準」が示されるまでは36協定さえ締結すれば、そこから先は青天井だったんです。
一応、1982年に「適正化指針」として月間45時間、年間360時間という上限の目安を作りましたが、あくまで目安に過ぎなかった。
長時間労働と過労による健康被害の関係性が分かってきたものの、ただの目安では行政指導の法的根拠にならないということから、「厚生労働大臣による限度基準」の告示という形で法的根拠を持たせることにしたのです。
特別条項
もう一つ、「特別条項」って聞いたことありますか? これは36協定とセットになるものですが、実はこれも1998年の改正で「限度基準」と一緒に生まれた手続きです。
「限度基準」によって時間外労働の上限を定める一方で、その上限を超えてしまう「特別な事情」について36協定とともに定めておけば、限度基準を超えてもいいよ、という手続きを同時に作っています(骨抜き)。
要は「36協定においてきちんと手続きのうえ宣言すれば、青天井で働かせていいよ」ということになりますよね。
今回の記事のテーマはまさにここです。
目的はいずこ
ここまでの話を聞いて、皆さんも何か変だなと思いませんか?
せっかく1日8時間まで、週40時間までと規定していながら、36協定を締結すれば青天井になる。
そこで1982年に36協定の「適正化指針」として目安を示したものの、あくまで目安であってなんの効力も持たせなかった。
さらに1998年にわざわざ法律を改正して目安を「限度基準」に位上げしたにもかかわらず、同時に用意した「特別条項」を使えば結局は青天井になる。
意味あるの?
って思いますよね。
行政指導による労働環境の是正
ここから先はぼくが勝手に理解していることになりますが、いわゆる「背景」や「力学」を考察するという話になります。
世の中、そもそも36協定も締結しないまま時間外労働をさせている会社、さらには残業代もきちんと支給していない会社ってザラにありますよね(きっと)。これをここではX社とします。
それに比べて、きちんと36協定を締結して、労基署にきちんと提出して、さらには馬鹿正直に「告示」で示された上限を超えます!って宣言(特別条項)している会社って真面目ですよね。こちらはY社とします。
さて、労基署はどちらの会社を臨検するでしょうか?
普通に考えれば、明らかにブラックなX社ですよね。
でも、恐らくY社に臨検しています。
X社のような会社は残念ながら中小企業ではたくさんあると思います。臨検してもキリがないし、是正できたとしても規模が小さいから効果性に乏しい。
その上そもそも資金力に乏しいからそんなことしたら倒産してしまう可能性があります。
だからY社に臨検するんです。
特別条項では、限度基準を超えてしまう「例外的な」事情を「具体的に」明記する必要があり、その上で労使で「会社としての上限時間(100時間未満)」を定める必要があります。
きちんと宣言してくれている会社を狙い撃ちして、臨検することにより、例外的な事象が「常態化」してしまっていないか、「具体的に」記載した理由以外で限度基準を超過していないか、「会社として定めた上限時間」を超えていないかを確かめます。
きちんと手続きを踏んでいても、事務的に行なっているわけであって、ここまで確認されてしまうとボロが見つかって「是正勧告」または「指導」を受けることになります。
きちんと手続きを踏む会社を狙い撃ちにすることで、こうした会社は少しずつ内容が伴っていくことになりますね。
経営体力もY社の方がありますから、是正に対応できるんです。
Y社のような会社を増やしていくことで、次第に労働環境のレベルが引き上がっていきます。
労働者としては過酷な環境の会社よりも法律を遵守できる会社で働きたいと思いますから、遵守できない会社は次第に採用力を失って結局は淘汰されていかざるを得なくなります。
そうならないためには努力して経営体力をつけ、法を遵守できるようになる必要があります。
無理やり規定化して罰則で縛るのではなく、悪い言い方になってしまいますが「真綿で首を絞める」ように次第に(時間をおいて)法を遵守させていくように仕組みを整備してきたんだと理解しています。
中小企業を支援する立場にある診断士としては、この辺の背景や力学を押さえておくことは試験対策としても、実地においても有意義なことだと思いますね。
企画業務型裁量労働制
もう完全についでのお話になってしまいますが、1998年の法改正では「企画業務型の裁量労働制」が導入されました。
前回お話しした1993年の改正で「専門業務型の裁量労働制」が導入されていますが、裁量的な労働ができる仕事をさらに増やしています。
この動きが、後々の「ホワイトカラー・エグゼンプション」とか「高度プロフェッショナル制度」とか言われるものにつながっていくこととなります。
ここも色々とお話ししたいことがありますので、次回お話ししたいと思います。
To Be Continued(次回につづく)
ここまでお読みいただきありがとうございました
働き方改革をテーマにしようと思って書き始めたシリーズですが、ちょっと変遷を丁寧に書き過ぎていますね。。。
「社労士目指すわけじゃないから、いらないよ」と思う人もいるかもしれないなと思いつつ、「力学として理解していることが何かしら有益だ」と思ってくれる人もいるんじゃないかとも思い、ツラツラ書かせていただきました。
(診断士めざすタイプの人は後者のような人が多い気がします)
ただし、今後お話しする本題の「働き方改革」の段階に至って、上限は規定化され、罰則も設けられていますから、ここまでの話はあくまで歴史的な動きとして読み流しておいてもらえれば十分です。
アタリにつながる情報がたくさん含まれていますので、どこかで活かされる(だろう)と信じています。。。
読者の皆さん、今日も勉強頑張ってくださいね!
明日はかます博士の日です♪
前回の中小記事からの第2弾!試験案内から中小企業経営分野の昨年と今年の内容を比較!いくつかキーワードをピックアップしてみます!
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