財務・事例Ⅳの頻出論点「NPV」を、企業買収の流れと共に学ぼう! byひでまる

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ひでまる
ひでまる

本日は「ひでまる」がお送りします。
今回も「プワァ~」と音が鳴る音符さんと一緒にお送りします!
よろしくお願いします!

プワァ~(今回はNPVやDCF法を解説するよ!)

音符さん
音符さん

中小企業診断士の1次試験(財務会計)・2次試験(事例Ⅳ)において超頻出論点ともいえるのが「DCF法」や「NPV」ではないでしょうか?DCF(Discounted Cash Flow)法やNPV(Net Present Value)はほぼ毎年出題され、中小企業診断士試験攻略のためには本論点をマスターすることが必須ともいえる論点です。
本記事では企業買収(M&A)におけるビジネスデューデリジェンスの流れを追いながら、DCF法やNPVが実際に使われる現場を見ることでイメージをもってこれらの概念を理解することを目指します。

ひでまる
ひでまる

具体的な現場の流れを見ながら、とっつきにくいDCF法やNPVの考え方を学びましょう!

NPVっていつ使われるの?

時は2025年5月、とある執筆者と音符さんの会話である。

とある執筆者
とある執筆者

とある執筆者だよ!いつも記事のネタを考えながら過ごしているんだ!
今回はどんな企画がいいかな?

プワァ~(診断士で最も重要な科目の一つと言われる、財務会計・事例Ⅳの論点がいいね!)

音符さん
音符さん
ド本命に挑戦!
ド本命に挑戦!

だったら、DCF法、NPVはどうだろう?
毎年出題される重要論点だよ!先代でもトロオドンさんが毎年のNPV等の出題傾向を分析してくださっていて、相当な点数がこの論点に割かれているとわかるね!
しかも、これらは簿記1級の論点だから大半の受験生(簿記2級までは持っていても1級を勉強している人は少ない)にとっては目新しく、難しいと思う人も多い論点だよね。

トロオドンさん記事より引用

プワァ~(確かにこれらは重要論点だよね!いいね!でも何か懸念でもあるの?)

音符さん
音符さん
先人は偉大
先人は偉大

既に先輩方がたくさん解説しているんだよ…!重要な論点だからね。
先輩方が十分な解説をしてくれてるから、その記事を紹介するだけで十分じゃないかな…。

プワァ~(でも、ひでまるは企業買収に携わっていたとき、DCF法を実際に使って業務をしていたことがあるよね。具体的な現場がわかると、概念の理解も進むんじゃないかな?)

音符さん
音符さん
実体験を語るよ!
実体験を語るよ!

確かに!それだったら新しい視点でNPVに触れるきっかけになるね!

筆者は中小企業診断士の試験勉強を始める前、企業買収や出資案件にいくつかかかわっておりました。その現場ではDCF法やNPVが実際に使われて、出資する側と出資される側の交渉にてなくてはならない物となっておりました。筆者自身は財務担当者ではなかったのでその現場で実際の計算を行ったりはしていなかったものの、財務担当者とのやり取りを通じてDCF法やNPVのイメージを感覚的につかむことができました。筆者はそのおかげで、診断士の勉強を始めたときスムースに勉強を進めることができました。

そこで本記事では、実際の企業買収の流れを一緒にたどることで、DCF法やNPVのイメージを具体的に持ってもらおうという試みでお送りします。

企業買収プロセスにおけるビジネスデューデリジェンスの立ち位置

企業買収のプロセスは以下のような6つで構成されています。

このうち、企業価値の算定を行うのが③デューデリジェンス(DD)、特にビジネスデューデリジェンスです。ビジネスデューデリジェンスでは、市場・顧客・競争環境分析や、買収対象の事業計画や事業モデルの評価、そしてM&Aによって生まれる両社のシナジー(相乗効果)の評価を行います。そして、事業計画から企業価値を算定して価格交渉を行っていきます。

本記事では、事業計画の評価、そしてインカムアプローチ(DCF法)を用いた企業価値算定の流れについて学んでいきます。

買えばもっと儲かるから買う、それだけよ!

企業買収というと金額も大きいですし、一般的なモノの売買とは違ったものに感じるかもしれません。法律上は企業は法人であり、人のように見なされることもありますし、特別な感じがします。しかし、企業買収の現場からすれば企業もただのモノです。つまり、モノの価値が払うお金に対して見合ったものであるなら買うし、そうでなければ買わない、という単純な判断で企業は取引されるということです。

皆さまはモノを買うとき(お金を払って何かをするとき)どのような判断をされているでしょうか?

ひでまる
ひでまる

例えば、ディナーを食べにレストランに行くというシチュエーションでは、料理のおいしさやレストランの雰囲気といった、多様な要素を踏まえて判断します。

プワァ~(加えて記念日といった特別な日は奮発してしまおう~と思ったりしますね。)

音符さん
音符さん

このように、モノを買う時、人間は複雑な思考を行って決断を行っています。時には非合理的な選択をすることもあるでしょう。

一方で、企業買収の理論、とくにインカムアプローチにおいては合理的な基準で売買が進められることになります。それは、この会社を買うことで将来的に払った額より儲かるから買収するということです。
※なお、現場においては、買収価格は割と恣意的に決められることもあり、事業計画評価のプロセスで帳尻を合わせて恣意的な価格付けを正当化しようとしたりすることもあるかもしれません。ただし、運用方法が恣意的であることで結果的に合理性が欠落するだけであり、あくまで理論的にはDCF法は合理的な考えで構築された手法です。そもそも未来のことを占って価格を決めている以上、恣意性から逃れることは不可能であり、それがDCF法の限界だと言われたりします。理論的には完璧だが、実用的ではない、ということです。

企業買収において、会社とは金の卵を産む鶏です。鶏は金の卵(いわゆるインカムゲイン)を飼い主に提供してくれると共に、鶏そのものの価値も値上がりしていざという時に鶏が高値で売れる(いわゆるキャピタルゲイン)こともあります。逆に言うと、それ以上でもそれ以下でもありません。会社は、利益という形で毎年お金を淡々と生んでくれるのでありがたい存在です。一方で、特別な感情を持って接するものではありません。その会社が行っている事業に思い入れがあっても、インカムアプローチにおいて理論的にはその会社の価格は上がりません。(ただし、マーケットアプローチにおいては、マーケットを動かす人の心によって値付けがされるので思い入れが影響することがあります。)

そのため、買収価格よりも、その会社が将来生んでくれるキャッシュの方が大きければ、将来的に自分は得することができるので会社を買いたいと思いますし、そうでなければ自分は将来的に損をするので買いたくないと思うわけです。
ここで、判断の基準は「利益」ではなくキャッシュフローになっていることに注意します。会社を買収するときに買い手が売り手に払うのは現金(または現金相当分の自社株式等)であるわけですから、その現金を同じく現金で回収しないといけません。そのため、利益ではなくて、キャッシュフローで評価することで、買うために支払うお金と、買った後に手に入るお金を比べるという合理的な判断が可能です。

ひでまる
ひでまる

将来的にお金が増えるのだから買う、とても合理的で単純です。

こう考えると、人が生活においてモノを買うとき(ディナーを選ぶときなど)と比べて、非常に単純なロジックで動いているのですね。

事業計画評価のプロセス

先ほどは、会社を買う基準は「その会社を買うことでもっと儲かるかどうか?」であると説明しました。では、その会社がどれだけ儲かるかをどのように評価するのでしょうか?それがビジネスデューデリジェンスで行うプロセスの1つである、事業計画評価です。

ここで作成する事業計画により、会社がどれだけのキャッシュフローを創出するのかが明らかになり、ここから企業価値が計算できます。事業計画において評価される計画は、今から5年程度が一般的かと思いますが、特に期間の定めはありません。期間が長ければ長いほど、未来のことを占うことになりますので評価はより難しくなりますが、企業価値の算定はより正確になります。

では、実際にどういう風に事業計画を評価していくか見ていきましょう。あくまで一例ではありますが、以下の図で示すようにマネジメントケース、ベースケース(スタンドアロン)、シナジーケースという順番に事業計画が精査されていきます。

まずは、売り手が自分たちが考える事業計画を作ります。これをマネジメントケースと呼びます。当然ですが、売り手は高く会社を売りたいのでマネジメントケースは楽観的な計画になりがちです。

次に、ビジネスデューデリジェンスにおいて買い手が買収対象を精査して事業計画が本当に実行可能であるのかを確認し、買い手が考える事業計画であるベースケース(スタンドアロン)を作成します。スタンドアロンというのは、後に説明するシナジーがない、個社単体での事業計画という意味です。
例えば買い手は売り手に対して「△年後に☆☆個も商品が売れるという計画になっているけどそこまでいかないだろう」であったり「コスト削減努力で今は○○円で仕入れている部品を××円まで安くすると書いてあるけどそんなにうまくいかないだろう」であったりと、色々な指摘をします。その指摘に対して売り手が納得できる回答ができれば事業計画の変更はありませんが、買い手が納得しない場合、「もっと商品販売個数を下げよう」「コスト低減効果を小さくしよう」といったように、事業計画上の数値(パラメータ)を変更して、事業計画を変えていきます。その結果として、買い手が精査した事業計画であるベースケース(スタンドアロン)が生まれます。

そして、最後にシナジーケースを作成します。これは先ほどのベースケースをベースに、買い手と買収対象が一体化することで発生する相乗効果(シナジー)を鑑みた計画です。相乗効果としては例えば、仕入れを共通化することでスケールメリットを活かせてコスト低減できたり、買い手の販売網や顧客基盤を活用して買収対象の商材を効率的に販売することで売上増が狙えたりします。これらはスタンドアロンの事業計画では考慮されていないものですから、新たに評価して数値化することで、事業計画に加えることになります。
シナジーが積み重なることで、一般的にはベースケース(スタンドアロン)よりも高い売上や利益が実現できるようになり、それだけ買い手側からすると高いお金を出しても買う意味が生まれることになります。これが、買い手が買収対象会社に高い値付けをする(プレミアムを付ける)根拠の1つとなり、買収案件が成立しやすくなります。

最終的に作成される事業計画は、成長企業ならば上記のようにスタンドアロンもシナジーも右肩上がりになりますし、成熟企業ならばスタンドアロンは変わらず(時には事業規模縮小の計画となり)シナジーだけが積み上げられるといったこともあります。これは、本当に様々です。

また、計画は一つではなく様々なもの(楽観的なもの、悲観的なもの)を作ることが多いです。私の経験上はこれの呼び名は様々で、ブル・ベアと呼ぶ人であったり、ベストシナリオ・ワーストシナリオ(リスクシナリオ)といった言い方をする人もいたりしました。これらを作ることで、企業価値の算定において計算結果に幅を持たせ、「この価格ならば思ったより会社が成長しなくても出資金を回収できるな…」「あの価格だと相当よいシナリオではないと損してしまうぞ…!」といった判断ができるようになり、価格交渉において柔軟な対応ができるようになります。

キャッシュフローの計算を分解する

事業計画評価が終われば、とうとう企業価値の評価が可能です。先ほどのベースケース(スタンドアロン)やシナジーケースを用いて、企業価値の算定をインカムアプローチに基づいて行っていきます。

そのために、まずは各年のキャッシュフローを計算します。このプロセスは中小企業診断士の試験でもおなじみですね。なお、診断士の2次試験では企業買収ではなく新規設備投資が問題になることが多いですが、今までの説明の通りこれらの論点は「払った額以上に儲かるなら買う」というだけですので、本質的には同じ論点です。
なお、繰り返しとなってしまいますが判断の基準は「利益」ではなくキャッシュフローになっていることに注意します。会社を買収するときに買い手が売り手に払うのは現金であるため、会社の評価もキャッシュフローベースで行う事で、帳尻を合わせています。

キャッシュフローについては先代のトロオドンさんがこちらの記事でわかりやすいイラストを作ってくださっているので引用します。

トロオドンさん記事より引用

キャッシュフローそのものを直接計算できれば問題はありません。しかし、事業計画は売上・費用・利益ベースで評価することが多いため、これらをキャッシュフローベースに置き換える必要があります。この論点が中小企業診断士の試験ではよく出題されます。

利益からキャッシュフローに置き換えるには以下の計算式を活用します。

営業利益を起点とするフリーキャッシュフローの計算

フリーキャッシュフロー
 = 営業利益 × (1 – 法人税率) ・・・①
 + 非現金支出費用 ※主に減価償却費 ・・・②
 - 運転資本増加額 ・・・③
 - 設備投資額
 ・・・④

①が上記の図でいう黄緑の「利益-税金」、それ以外がオレンジの「現金収入-現金支出」を表しています。
では、この計算を一つずつ見ていきましょう。

①営業利益 × (1 – 法人税率)
利益が出ているということは、お金が儲かっているということです。よってキャッシュイン(お金が増える)と言えますね。ただし、営業利益は税金を考慮していないので、税金を支払った後の営業利益(NOPAT)にする必要があります。

②非現金支出費用
基本的に「費用が発生する」=「キャッシュアウト(お金を払う)」であるわけですが、時にはそうではないときがあります。それが非現金支出費用です。そこで、お金を払っていないのに費用として出ている分を足し戻す処理を行う必要があります。
非現金支出費用は以下のようなものです:

  • 減価償却費、のれん償却費、無形固定資産償却費
  • 資産の除却損・売却損など

代表的な例である減価償却費について考えてみましょう。減価償却費は、既に購入した固定資産について段階的に費用化していく過程で発生する費用であるため、減価償却費を計上するときには1円もお金は払いません。そこで、減価償却費分余計にお金を払ってしまう計算にならないように、この項で足し戻しておくということですね。

③運転資本増加額
これは、会社が事業を行うにあたって必要なお金を保持しておくために行う処理です。例えば、会社の事業が拡大していくと、仕入れ額も増えたりしますので、一時的に大きなお金を支出する必要が出てくるため、運転資本が増加します。運転資本が増加すれば、必要になるお金が増えてフリーで使えるキャッシュは減ってしまうので、ここでの計算は「マイナス」がつくことに注意します。

ひでまる
ひでまる

減価償却費・除却損による非現金支出費用、そして運転資本増加額については2次試験の事例Ⅳでは頻出論点になります!

④設備投資額
これは、事業拡大などにともなって新しい設備を導入したりするときのキャッシュアウトを示しています。先ほど非現金支出費用の説明で言及したように、固定資産は買った瞬間にお金を払っておりますが、費用化は減価償却費によって段階的に行われます。そのため、費用化タイミングとキャッシュアウトタイミングがずれるため、それを補正するためにここで設備投資額を引くことになります。

なお、上記のトロオドンさんの図では回収できていない売掛金なども考慮した図になっております。これらは日々の実務ではよく出てきているものですが、企業買収レベルになると無視してしまうことが多いです。

割引率、WACCって?

やっと、キャッシュフロー計算が終わりました。それでは、とうとう企業価値の算定に移ります。

ここで注意点があります。基本的に企業は継続的に事業を営むことを原則としますが、その原則に従うと、毎年のキャッシュフローがプラスであれば未来永劫まで考えると無限にお金が手に入るということになります。それならばどんな会社でも買ったほうがよいという結論になってしまいますね。

しかし、DCF法では上記のような結論にはなりません。それは割引率という概念があるからです。この記事をお読みの読者の方であればご存じ、現在の1円は将来の1円より価値が高い、という概念です。今の価値(現在価値)に直すことを、現在価値に割り戻すと言ったりします。

そして、企業買収の場合はその割引率はWACC(Weighted Average Cost of Capital)を用いるとされています。現金を調達する方法は株式(エクイティ)と社債(デット)があるため、WACCは「株主資本比率×株式資本コスト+負債比率×借入利回り」と加重平均の式であらわされます。ここで加重平均を行うのは、株式と社債では資本コストが違うため、株式で多くを調達したならば株式資本コストにWACCが近づくように、社債で多くを調達したならば借入利回りにWACCが近づくようしたいからです。※節税効果を考慮する場合は少し式が複雑になりますが、ここでは省略します。

ひでまる
ひでまる

では、なぜ割引率はWACCなのでしょうか?

プワァ~(企業買収のために、買い手はお金を調達しなくてはいけないからではないでしょうか。)

音符さん
音符さん

企業は必要以上にお金を遊ばせておくわけにはいきません。事業を行ってお金をさらに稼ぐか、配当などで株主に還元することが求められます。一方で、企業買収を行う場合は株式交換でもない限りは現金が必要です。ということは、企業買収を行うにあたって、どこかから現金を調達してくるというのが基本になります。現金を調達するにあたって株式と社債どちらを使った場合でも、お金を出してくださった人にはお金を上乗せして返さないといけません。この上乗せ分が加重平均資本コスト、いわゆるWACCと呼ばれるものになります。つまり、a円のお金を調達した場合、1年後に返す額は(1+WACC)×a円となります

これを逆に考えてみます。ある企業を買収し、その会社の事業で1年後にb円儲かったとします。しかし、企業を買収するにあたって現時点でお金を調達しなくてはならず、1年後には1+WACC倍でお金を返さないといけないですから、1年後のb円は現在の価値ではb/(1+WACC)円相当になります。これが、現在価値に割り戻すという計算になります。

このように、企業がお金を調達する資本コストを考えることで、1年後、2年後の1円の価値が現在価値に割り戻すことになり、結果として永久に継続する企業を買収したとしても、得られるキャッシュフローは現在価値に割り戻すと無限ではなく有限の値に落ち着きます。

複利現価係数で計算が楽に

では、割引率を用いて将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻す計算を行いましょう。前章で、1年後に稼いだお金(キャッシュフロー)の価値は現在価値に直すには1/(1+WACC)倍する必要があるとわかりました。よって、t年後に稼いだお金(キャッシュフロー)の価値は以下の通りになります。ここで、FCFは稼いだお金(Free Cash Flow)のこと、PVは現在価値(Present Value)のことです。

ここで、1/(1+WACC)をt乗するなんて計算を自分で行うのは大変です。そこで、中小企業診断士の試験ではこの値をすでに計算して用意してくれています。これが、複利現価係数や、年金現価係数です。複利現価係数は1/(1+WACC)tそのものの値、年金現価係数は1年後からt年後までの複利現価係数を足し合わせた値のことです。この係数表を使うことであまり1/(1+WACC)tという複雑な式を意識しなくても計算することが可能です。ただし、背後にこのような式があるのだと知っていた方が応用力が高まるでしょう。(実際、令和6年の2次試験で複利現価係数や年金現価係数を使う問題が出たときは、少し式を整理しないとうまく係数が使えない一ひねりがありました。このような時に応用力が試されることがあるでしょう。

平成28年度 2次事例Ⅳ 第2問(設問2)より引用

ターミナルバリューの公式は導出できる

ここで以前の章(事業計画評価のプロセス)にて、ビジネスデューデリジェンスでは今後5年程度の事業計画を評価することが多いと述べました。よって、1年目、2年目…5年目までに稼いだ額を現在価値に割り戻す計算は簡単に行う事ができます。一方で、企業が予測期間後も永続的に事業を継続するという前提において、事業計画がない6年目以降のキャッシュフローはどのように評価するのでしょうか?

予測期間終了後(ここでいう6年目以降)のキャッシュフローの価値は、ターミナルバリュー(継続価値、残存価値)と呼ばれます。ターミナルバリューの計算において、もっとも簡単な仮定が5年目のキャッシュフローがそのまま未来永劫継続するという仮定です。これは保守的な仮定とみなされており、企業買収の対象になるような会社は成長企業であることも多いにもかかわらず6年目以降は成長しないということを意味します。実際は、企業の寿命がさして長くない中、永久にキャッシュフローを生み出し続けるという仮定はいささか楽観的なのではないかと筆者は思ってしまいますが、業界的にはこれがスタンダードです。

この時、6年目以降は5年目と同額のキャッシュフローを生み出し続けますから、5年目のキャッシュフローをFCFn円とおくと、6年目以降のキャッシュフローはFCFn/(1+WACC)6+FCFn/(1+WACC)7+FCFn/(1+WACC)8+FCFn/(1+WACC)9…と永遠に足し算が続きます。これがいわゆるターミナルバリュー(TV)と言われるものです。しかし、ターミナルバリューは無限和となってしまい、いささかとっつきにくいです。

さらに悲しいことに、上記より複雑なパターンとして、永久成長モデルというものもあります。これは、先ほどの仮定(5年目のキャッシュフローがそのまま未来永劫継続する)よりもさらに楽観的な仮定であり、6年目以降も永久成長率gだけキャッシュフローが成長し続けるという仮定です。

この場合は、6年目以降のキャッシュフロー(ターミナルバリュー)はFCFn(1+g)/(1+WACC)6+FCFn(1+g)2/(1+WACC)7+FCFn(1+g)3/(1+WACC)8+FCFn(1+g)4/(1+WACC)9…と、先ほどと同じような形の無限和で、各項に(1+g)の形をした掛け算がさらに追加されます。先ほどよりもっと複雑になってしまいました。この計算結果は以下のようになります。2つの式があり、1つ目はターミナルバリューを計算する式、2つ目はターミナルバリューを現在価値に割り戻す計算です。PV(TV)というのはTV(ターミナルバリュー)のPV(現在価値)という意味です。(PV×TVという意味ではないのでご注意ください!)

ひでまる
ひでまる

この数式、ぱっと見とても難解に感じてしまいますし、暗記で覚えようとしてもnが何だったのかすぐにわからなくなります。上記の例ならば、nは5だったっけ…それとも6だったっけ…となってしまいます…!!!!

プワァ~(でも、教科書にはポンっと公式が載っているだけなんだ…!)

音符さん
音符さん
ひでまる
ひでまる

難しい数式ですよね…。
しかし悲報です…これを使う問題が令和6年度の1次試験財務会計で出題されました

問題を解くために、このような複雑な数式を丸暗記しないといけないのでしょうか?

正直、試験対策としてはこの論点を捨ててしまうのも手かもしれません。しかし、この論点もきちんと点を取ろうという読者さまに対しては、筆者のオススメは元の無限和を計算して自分で公式を導くことです。

公式の導き方については、先代のTomatsuさんが非常に分かりやすい解説をしてくださっています!

この記事でも簡単に導出方法を説明します。※ただし、Tomatsuさんの記事の方が100倍わかりやすいので、そちらを参照いただくことを推奨します!

ターミナルバリューの公式導出方法

この計算は、無限に足し合わせる無限和の計算となっており理系しか学ばない高校数学の範囲となっていますが、厳密性を無視すれば文系も学ぶ等比数列の総和計算をつかって計算は可能です。では、計算してみましょう。

ひでまる
ひでまる

計算の要は、元の式から両辺に(1+g)/(1+WACC)を掛けた式を引くことで無限和をなくすことです
この式変形さえ覚えておけば、本番で公式を思い出せなかった場合でも、自分で公式を導けます
導出方法を覚えるほうが、公式そのものを覚えるよりも覚えやすいでしょう。

プワァ~(nは5だっけ?6だっけ?と悩む必要もなくなります!)

音符さん
音符さん

永久成長モデルの公式の導出

まず、求めるべき和を見やすいように簡易的にS=PV(TV)とおきます。
n年目のキャッシュフローFCFnを用いてS=PV(TV)は以下のように表せます:

S = FCFn(1+g)/(1+WACC)n+1+FCFn(1+g)2/(1+WACC)n+2+FCFn(1+g)3/(1+WACC)n+3+FCFn(1+g)4/(1+WACC)n+4…・・・①

ここで、両辺に(1+g)/(1+WACC)を掛けると、右辺は初項が第2項の形に、第2項が第3項の形に…と一つずつ形がずれていきます。

(1+g)/(1+WACC)×S = FCFn(1+g)2/(1+WACC)n+2+FCFn(1+g)3/(1+WACC)n+3+FCFn(1+g)4/(1+WACC)n+4…・・・②

後は、①から②を引けばFCFn(1+g)2/(1+WACC)n+2+FCFn(1+g)3/(1+WACC)n+3+FCFn(1+g)4/(1+WACC)n+4…の部分は同じ形をしていますから、打ち消されてなくなります。これで無限和が消えました。

S – (1+g)/(1+WACC)×S = FCFn(1+g)/(1+WACC)n+1

残りは式変形をするだけです。次に、左辺を整理すると以下のようになります。

S – (1+g)/(1+WACC)×S = (1+WACC)/(1+WACC)×S – (1+g)/(1+WACC)×S = (WACC-g)/(1+WACC)×S

後は、S以外を左辺から右辺に移せば、求めるべき和Sが計算できます。

S = (1+WACC)/(WACC-g) × FCFn(1+g)/(1+WACC)n+1 = FCFn(1+g)/(1+WACC)n/(WACC-g)

先ほどの公式の形に直すならば、以下のように変形します。

TV = FCFn(1+g) / (WACC-g)
PV(TV) = S = TV / (1+WACC)n

企業価値の計算

ここまでくればあと一息です。先ほど求めた、事業計画を算定した部分(1~5年目)のキャッシュフローと、ターミナルバリュー(6年目以降)のキャッシュフローを、それぞれ現在価値に割り戻して足し合わせれば、企業価値が算定できます。

第一項の総和計算(シグマ計算)はt=1からt=nまでの総和です

実際に計算してみましょう。問題を解くときには以下のように表形式にしてみるとわかりやすいです。
以下では、キャッシュフローが1年目1,000百万円、2年目1,200百万円、3年目1,500百万円、4年目1,800百万円、5年目2,000百万円、WACCが8%、永久成長率が2%の事例を載せています。

ひでまる
ひでまる

この例でもわかる通り、企業価値のほとんどがターミナルバリューによって構成されています。


余談になりますが、企業価値のほとんどがターミナルバリューによって構成されていることはDCF法の罠であり、最終年度のフリーキャッシュフローを大きくするだけで簡単に企業価値を増大させることができてしまいます
一番予測できない最終年度の事業計画ですから、割と恣意的に大きくしたり小さくしたりすることが可能です。これが、事業計画評価のプロセスで帳尻を合わせて恣意的な価格付けを正当化するときに使われることがあります。これは、理論的にはDCF法は合理的な考えで構築されているが、実務上は理想論とは程遠い運用がされているのでは?と批判される要因の一つになっています。

プワァ~(ここで企業価値の計算は終わりです。)

音符さん
音符さん
ひでまる
ひでまる

ただし、株式価値を計算するためには企業価値から有利子負債(負債価値)をさらに引く必要があることに注意します。企業価値はお金の貸し手である債権者に帰属する分と、出資者である株主に帰属する分の合計であります。株式価値はその後者だけであるため、前者に相当する有利子負債(負債価値)を取り除く必要があるのです。

終わりに

本記事では、企業買収の実務を通じてDCF法やNPVの計算方法を学ぶことをテーマにお送りしました。

DCF法やNPVは頻出論点であり、特に二次試験事例Ⅳでは毎年出題される論点です。二次試験ではターミナルバリューまで出題されることは多くはありませんが、出題実績もあります。計算が煩雑になったりと難しい論点であり、捨ててしまう方も一定程度いらっしゃいますが、少しでも試験本番で点をもぎ取れるように本論点への理解を深めておきたいところです。本記事がその一助になれば幸いです。

このような金融系の領域については、さくらやなつが詳しいです。さくらの前回の記事(デリバティブの解説)も参考にされてください!

ひでまる
ひでまる

明日はお休みです!
明後日の担当はダーヤスです!
ポエム撲滅!どんな秘訣が登場するのかな…?お楽しみに!!!

期待してくれよな!

ダーヤス
ダーヤス

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