製薬メーカーの開発費とは? 〜創薬はビジネスか使命か〜 byりょう

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はじめに

こんにちは!りょうです
突然ですが皆さん
薬が世に出るのまでにいくらかかるかご存じですか?
よーわからんけど、100万円くらい?


おしい!
新薬1つあたりにかかる総開発費は、数百億円から1,000億円以上とされます。
参考までに日本企業の研究開発費ランキングをご覧ください。
順位 | 企業名 | 売上高 (百万円) | 研究開発費 (百万円) | 割合 (%) | 決算期 |
1 | 武田薬品工業株式会社 | 4,263,762 | 729,924 | 17.1 | 2024年3月期 |
2 | 第一三共株式会社 | 1,601,688 | 365,200 | 22.8 | 2024年3月期 |
3 | 大塚ホールディングス株式会社 | 2,018,568 | 307,804 | 15.2 | 2023年12月期 |
各企業莫大な研究開発が費やされていますね
製薬メーカーが新薬を世に送り出すまでには、企業の命運を左右するほどの莫大な開発費と長い年月が必要です。そこには、基礎研究から臨床試験、そして厳しい承認審査を経るという、極めて過酷な道のりがあります。
本記事では、新薬開発の全体像と費用構造に加え、財務・経営戦略の視点から見た意思決定の背景、さらには日本企業の実例や昨今の供給不安にも触れながら、創薬にまつわるリアルな現場と課題に迫ります。
開発の流れと各段階の特徴
まずは、医薬品が世に出るまでの基本的な流れを見てみましょう。
新薬の研究開発から商品化に至るまでには、おおよそ10年以上の年月と、膨大な資金・人材・労力が必要とされます。開発は以下のようなステップを経て進行し、ようやく市場にたどり着くのです。
1.基礎研究(2〜5年)
大学や研究機関、社内研究所で新しい化合物を探索し、薬の候補を見つける段階です。ここでは人件費や機器、試薬代などが主なコストです。


2.前臨床試験(1〜2年)
動物実験などで有効性や安全性を検証します。GLP(適正試験実施基準)に基づくデータ取得が必要となり、委託試験機関への支出が大きくなります。
3.臨床試験(治験)(フェーズ1〜3、6〜8年)
ヒトを対象に安全性・有効性を確認。フェーズが進むごとに症例数や試験施設が増加し、数百億円規模のコストに膨れ上がります。特にフェーズ3は大規模な多施設共同試験が主となり、開発費全体の約50%以上が集中するとされています。


4.承認申請・審査(1〜2年)
PMDA(医薬品医療機器総合機構)への申請・審査対応。書類作成やコンサル費用、承認までのリスク対応コストがかかります。ここでは全体の5〜10%程度の費用がかかるとされます。
5.市販後調査(フェーズ4)
販売後の副作用調査や適正使用のモニタリング。製造販売後調査として義務化されており、販管費に計上されます。年間数億〜十数億円規模の費用が継続的に発生します。
治験とは
「治験」とは、新しい医薬品の効果や安全性を「人」を対象に確認する臨床試験のことです。
開発された薬が実際に患者に使われるまでには、いくつかのフェーズ(第I相〜第III相)に分かれた段階的な試験が行われ、それぞれで安全性、適切な用量、有効性などを慎重に評価していきます。
第Ⅰ相試験
少人数の健康な成人志願者あるいは患者に対して、ごく少量から少しずつ「治験薬」の投与量を増やしていき、安全性を調べます。また、「治験薬」がどのくらい体内に吸収され、どのくらいの時間でどのように体外に排出されるかも調べます。
第Ⅱ相試験
少数の患者に「治験薬」を使ってもらいます。
次に、効果が期待できそうな少数の患者について、本当に病気を治す効果があるのか、どのような効き方をするのか、副作用はどの程度か、また、どの程度の量や使い方が良いかなどを調べます。
第Ⅲ相試験
多数の患者に「治験薬」を使ってもらいます。
最後に、より多数の患者について、効果や安全性を最終的に確認します。
引用:国立育成医療研究センター
「人」を対象とする臨床試験である治験には、極めて厳格な基準と管理体制が求められます。治験薬の投与によって有害事象(副作用)が発生した場合には、被験者の治療にかかる費用や、場合によっては慰謝料を含む補償費用が、原則として治験を実施する製薬企業(治験依頼者)によって負担されます。
また、治験は医療機関との連携のもとに行われるため、治験協力施設(治験実施医療機関)には、被験者の対応、データ収集、モニタリング対応などに要する人的・物的コストをカバーするための「治験費用」や「施設使用料」等が支払われます。
治験の規模や対象疾患、必要な検査項目にもよりますが、1つの治験で1施設あたり数千万円の費用が発生することもあり、臨床開発においてはこの治験関連費用が開発費全体の多くを占める要因の一つとなっています。

健康被害があったら大変だもんね
巨額投資による製薬企業の挑戦
成功事例
事例:中外製薬の日本市場投入事例
日本でもよく知られるインフルエンザ治療薬「タミフル」は、もともとスイスのロシュ社によって開発され、日本の中外製薬が販売を担っています。開発の初期段階では、果たして本当に市場に受け入れられるか不透明な中で、ウイルス研究と安全性試験に多大なコストが投じられました。SARSや新型インフルエンザ流行時には一気に需要が拡大し、一時は政府による備蓄対象薬にも指定されるなど、リスクとリターンの象徴的な例といえます。
- 成功確率の低さ(約2〜3万個の候補化合物から1品目)
- 長期間にわたる人件費・外注費・施設費
- 試験データの信頼性確保に必要な品質管理コスト

このように、製薬業界における高コスト構造を生み出しています。
インフルエンザ治療薬に関しては現在、吸入タイプや1回飲み切りで済むものもありますが、タミフルは最初に登場したインフルエンザ治療であることから使用実績があり、現在でもよく処方されています。
新薬は通常、改良型なので有効性は高いのですが、未知の副作用が潜んでいる可能性もあり一概に新薬のほうがいいとも限らないのです。
失敗事例
新薬開発のリスクの高さから、過剰な研究開発投資が企業経営を圧迫するケースもあります。
事例:アステラス製薬の「マイクロバイオーム関連開発」撤退
アステラス製薬は2019年に米国の企業を買収し、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)を活用した新たな治療法の研究に注力しましたが、臨床試験の進捗が芳しくなく、数年で事業から撤退。数百億円規模の損失が発生しました。
- 買収により開発費が一時的に急増
- 成果が出ないまま開発中止→減損処理へ
- 財務上の負担となり、株主の批判を受ける

このように、成果が見込めないプロジェクトへの投資は、研究開発費という名の下であっても、経営の柔軟性を損なう可能性があるのです。
キャッシュフローの観点
新薬開発は投資回収までに10年以上かかるケースが多く、長期的なキャッシュアウトが継続します。そのため、製薬企業にとっては以下のようなCFマネジメントが極めて重要です。
- 基礎研究・前臨床段階:人的・設備投資が中心で比較的規模は小さいが、長期間にわたり継続的な支出が発生。
- 臨床試験段階:特にフェーズ3では巨額の外注費・モニタリング費用が発生し、最もキャッシュ流出が集中するタイミング。ここでの資金繰り悪化が経営を圧迫します。
- 承認・市販後調査:法的要件やリスク対応のため、突発的に費用が発生する可能性もある。
このため、企業は事前に資金調達や収益源の確保(ライセンス収入、共同開発)を並行して進める必要があります。
財務会計の観点
製薬企業では、開発費の大半が「費用」として即時処理されるのが通例です(研究開発費)。
- 日本基準では、「研究段階」は原則費用処理。「開発段階」は要件を満たせば資産計上可能。
- IFRS(国際会計基準)では、より積極的に資産計上される傾向。
- 費用処理が多いため、損益計算書(PL)に大きな負担として表れ、経常利益を圧迫します。
これにより、企業は研究開発費の水準と損益のバランスに悩まされることになります。
これは簿記1級レベルの論点・・・!

薬価制度との関連性
新薬の開発には巨額の費用がかかるため、その投資を回収できるかどうかは薬価の設定に大きく左右されます。薬価(薬の公定価格)は、医療保険制度において国が公的に定める価格であり、製薬企業が保険者から受け取る金額のベースとなります。
日本では、薬価(薬の公定価格)が厚生労働省により設定されており、開発費の回収可能性に大きく影響します。
- 薬価設定では、費用積算方式(開発費+製造費+利益)や類似薬効比較方式が用いられる。
- 高額な開発費を反映させるには、革新性・画期性のある新薬であることが重要。
- 一方で、1年ごとの薬価改定により価格が引き下げられるリスクも高く、投資回収期間の短縮が経営戦略上の課題になります。
このため、企業は市場投入後数年以内に売上を最大化するマーケティング戦略を徹底し、収益回収のスピードが経営の鍵を握るのです。
~~~とある薬局での一幕~~~

御社の製品、これだけ高薬価(1カプセル数万円)ですと
希少疾患のように対象患者が少ないんでしょうか
おっしゃる通り、当初は全国でも100名程度を見込んで市場投入しました。
しかし、見込みを超えて1000名近くに適応が可能となり、
それを受けて当初の薬価の1/5まで下がってしまったのです。

(え・・・今より五倍も高かったの・・・?)
開発費の回収が見込めるなら、それほど高い薬価を維持する必要はない
という判断のもと、薬価の大幅な引き下げが行われることもあります。
一方で、開発費に見合う薬価が設定されなければ、製薬企業の創薬意欲を損ないかねません。
そのため、患者利益と製薬企業の持続可能性とのバランスが、薬価制度において常に求められているのです。
医薬品供給不安と経営戦略
ニュース等で「風邪薬がない」「抗生物質が入荷しない」といった報道を見かけたことはないでしょうか。これは一部の製品にとどまらず、幅広い医薬品において供給不安が慢性化しています。よって、薬局なのに薬が卸から入ってこないことが頻繁に起きています。
薬がない?ここは薬局じゃないんか?


ヒエー(たまにそう言って怒る患者さんがいます)
この問題の発端は、大手ジェネリックメーカーの品質不正問題です。その後、コロナ禍における原材料供給の停滞が拍車をかけ、業界全体に混乱が広がりました。ところが、事件から数年が経過した現在もなお、供給不安が続いている背景には、経済性の問題、すなわち「不採算による撤退」が関与している点が要因のひとつとして挙げられます。
ジェネリックメーカーの「構造的ジレンマ」
ジェネリックは医療費削減の切り札とされてきましたが、薬価制度の設計上、一定の市場競争を前提に上述でも挙げた通り薬価は段階的に引き下げられます。競合が多ければ価格は下がり続け、一定のシェアを持たない企業は採算割れに陥りやすくなります。その結果、メーカーが撤退し、残った企業に需要が集中することで、供給能力を超えた注文が殺到し、結果的に供給不安が生じるという「負の連鎖」が生まれます。
医薬品製造とCVP分析
経営戦略において、製品の供給継続には一定の損益分岐点を上回る売上が必要です。ここで重要となるのが、CVP分析(Cost-Volume-Profit analysis)です。これは、売上高・変動費・固定費の関係を分析し、企業の損益構造を明らかにする手法であり、経営判断の根幹を支えるものです。事例Ⅳでも超重要論点ですね。
特にジェネリック医薬品のように価格が抑えられた製品では、以下のような構図が生じます。
- 販売単価の継続的な薬価引き下げ(売上単価↓)
- 原材料費の高騰や※GMP対応コストの増加(変動費↑、固定費↑)
- 結果として、損益分岐点を超える供給量が確保できず赤字に転落

※GMP (Good Manufacturing Practice)は、製品の製造管理及び品質管理に関する基準
このような状況では、メーカーは撤退を余儀なくされます。特に医薬品の製造は一度設備や人員を整えても、生産量が減れば固定費負担が増大し、損益構造は悪化します。

儲けがなければいくら製薬メーカーといえどね・・・\プワァ~/
製造効率の戦略的選択とリスク
企業がこの構造を乗り切るには、次のような戦略的対応が求められます。
- 製造ラインの柔軟化・共通化による固定費削減(製造効率の改善)
- 複数品目の同時製造による稼働率向上
- 高付加価値ジェネリック(OD錠・配合剤など)へのシフトによる限界利益の増加
- 外注・委託製造(CMO)との提携による資本投下リスクの分散
とはいえ、医薬品は安易に生産を外注できる業界ではなく、品質・承認プロセス・GMP対応という重い規制がかかるため、迅速な対応は難しいのが実情です。
ジェネリックメーカーによる差別化、高付加価値化
先発薬にない剤型や規格を市場投入して差別化や高付加価値化を図るジェネリックメーカーもあります。
例えば、先発薬「ザイザル錠5mg(成分:レボセチリジン)」は錠剤(5mg)とシロップ製剤のみが存在します。
しかし、ジェネリックには「レボセチリジン錠2.5mg」や「レボセチリジンドライシロップ」などがあり、特に小児に向けた飲みやすさの工夫が施されています。
このような取り組みによって、自社製品を選んでもらえるよう工夫する企業努力がなされています。
某ジェネリックメーカーのドライシロップは桃の香りでとても香しい・・・

まとめ
私たちが何気なく手にする一錠の薬。その背後には、何年にもわたる膨大な研究開発費と、数多くの専門家たちの努力、実験動物による非臨床試験、そして患者の協力によって成り立つ厳格な治験のプロセスが存在します。特に新薬の開発には、1,000億円単位の費用と10年以上の歳月が必要とされ、「創薬は社運をかけた挑戦」とも称される所以です。
一方で、昨今のジェネリック医薬品を中心とした供給不安は、私たちの医療現場に大きな影響を与えています。不正や事故に端を発した問題は、単なる一企業の責任にとどまらず、薬価制度や経済性、製造効率といった構造的課題を浮き彫りにしました。企業が利益を追求しすぎれば不正や事故を誘発し、国が過度な価格抑制をすれば企業は撤退する、そんなジレンマに、今なお医薬品産業は直面しています。
薬は、単なる「商品」ではありません。人の命と生活を支える社会インフラです。そしてその安定供給のためには、現場・行政・企業がともに合理性と倫理を両立させる視点が求められています。医薬品が「あるのが当たり前」ではなく、「あることが奇跡的」であるという認識が、今改めて必要とされているかもしれませんね。

明日はかえるです
光について語っちゃうよ!

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興味深い記事ありがとうございます。ここまで記事化できるりょうさんの知識はすごいなあと同業として感じました。
よく社員にはPPMについて話をし、売上と利益双方上げる重要性を説いています。
しまんと1号さん、温かいコメントありがとうございます!
同業の方にそう言っていただけるなんて、とても励みになります。
PPMを社員の皆さんにきちんと伝えているのは本当に素晴らしいですね。
売上だけでなく、利益まで意識できるチーム作りは、経営の土台として欠かせないと私も常々感じています。
今後も、実務に役立つ視点をできるだけわかりやすく発信していきますので、ぜひまた覗いていただけたら嬉しいです!