【実録】リアル事例Ⅲ&運営管理の世界~後編~
こんにちは! 等身大の独学ストレート生・金型屋のかーなです!
前回までの記事はこちら。
本日は、前回に引き続き、【実録】リアル事例Ⅲ&運営管理の世界~後編~をお届けします。
「二次試験の事例Ⅲ(生産・技術)が苦手で、もう少し背景を知りたい」という方向けに書いてみました。
前回(前編)はこちら。
こちらは得点に直結する試験対策というよりは、「事例Ⅲに対する心理的なハードルを下げる」「診断士になった後を視野に入れ、製造業の理解を深める」目的でお届けしております。
改めて、こんな方におすすめ&この記事のトリセツです。
【こんな方におすすめ】
・事例Ⅲの世界観や背景を、なんとなくイメージできるようになりたい方
・「C社って、なんであんなにダメダメなの?」とモヤモヤしている方
・事例Ⅲで書く解答が「当たり前のこと」すぎて自信が持てない方
【トリセツ・注意点】
・試験では与件文を何よりも優先してください。(与件文がカミサマ。設問文がホトケサマ)
・私の個人的な体験と一般論に基づいておりますので、あくまで世界観をつかむための参考としてください。
では、後半いってみましょー。
匠の技と生産管理
事例Ⅲで毎年出題されるテーマとして、「生産管理」というのがあります。
よく言われることですが、「生産管理」は「生産計画」と「生産統制」に分解できます。
要はムリ・ムダ・ムラのない計画を立て、その計画に沿ってせいせいと作業を進めていきましょうね、という話です。
そんなの別にわざわざ言うほどのことじゃないじゃん、と思うかもしれませんが、C社のような中小製造業だと、これがけっこう難しいんです。
どういうことか、生産計画→生産統制の順に見ていきましょう。
まずは生産計画です。
以下、事例Ⅲによくある大企業の下請けの中小企業を前提に話をしていきます。
製品にもよりますが、例えば金型のような「受注生産で、毎回違うものを作る」業態だと、そもそも正確な生産計画を立てることができません。
極端な言い方をすると、「初めて作る製品の生産計画を立てる」ことになるからです。やってみないとわからない。
さすがに実際は、長年の経験やノウハウの蓄積があるため、過去の類似事例や製品の特徴から、およその加工内容や必要工数は想定できます。
できますが、蓋を開けたら…ということは往々にして起こります。これについては後述します。
また、中小企業に発注される仕事は、多品種少量生産の、いわば手間のかかる仕事が多いです。
そういった仕事に対応するため、例えば金属加工の(=工作機械で金属を切削して加工する)会社であれば、少しずつ種類や能力の異なる機械を、何台か保有していることが一般的です。
そこで、生産計画を立てる時も、「この加工は機械Aでも機械Bでもできるけれど、機械Aの方が切削速度は速いんだよな。でも深い場所の切削があったら、機械Aは不向きだなぁ」とか「機械Cは古くてマニュアル操作が多いから、ベテランの人じゃないと扱えないんだよな」とか、個別の事情が多々あって まぁめんどくさい。
生産計画担当者としては、もっとスマートに計画作れないかと思うものの、変数が多すぎて難しいんですよね。
ちなみに、現場の作業者も生産計画が完璧でないことは、経験上なんとなくわかっています。
とにもかくにも生産計画を作り、それに従って作業を始めます。
そして、生産統制。
実際に生産を始めてからの話です。
見積もりや生産計画の段階で予想はしていたけれど、いざ正式に受注してみたら、いろいろと「計画と違うこと」が起こります。
詳細な設計図を書いたら予想より複雑な構造になったとか、加工する場所が狭すぎて、一気に削れると思ってたけど少しずついかないと無理だったとか……。
「計画が狂ってきた……これ来週の納期までに終わらないかもどうしよう……」みたいな状況になります。
青ざめている生産管理担当者のところに、この道何十年のベテランがやってきて言います。
「いいから、急ぎの仕事とやっかいな仕事、全部こっちに回して。なんとかするから」
!!!
すみません! おっ、お願いします!!!
こんな感じで、混乱した現場はたびたび腕利きの職人によって救われています。
通常なら機械Aを使って自動で加工する工程だけど、古いタイプの機械Cしか空いてないのでベテランさんがほぼマニュアル操作で加工する(ただし技術が必要だし、会社としては自動化を目指しているので緊急時しかやらない)みたいなことがあるのです。
また、予想外に難しい加工だったけど、匠の技に助けられてなんとか収められた、というパターンもあります。
品質面だけでなく、納期面でも、匠の技に支えられているんですね。
現場がバタついても、最後の最後には匠が回収してくれるなら良いね! と思うかもしれませんが、企業として安定的な利益を出すことを考えると、そんな綱渡りは よろしくないですよね。
しかもこれには弊害があって、
匠の技が助けてくれて、いつも結局なんとかなる。
喉元過ぎればなんとやらで、生産管理がなかなか仕組化できない。
でも、せっかくの匠の技は現場の混乱を収拾する(マイナスをゼロにする)ためではなく、より高付加価値なモノを作って顧客に訴求する(プラスにする)ために使うべきなんです。
生産管理は、システム化できる部分もたくさんあります。
生産計画を立てるスパンを短くしたり、仕事を流しながら少しずつ計画とのズレを修正したりすれば、そこまでの大惨事にならないことだってあるんです。
診断士に求められるのは、「うちの業界に生産管理は不要」とか「システム化なんて絶対無理」と思っている社長さんの話を聞いて、できることは「できる」と、やるべきことは「やるべき」と、伝えることだと思います。
建て増し、建て増しの第一工場
創業から数十年経っているような会社だと、最初は小さな工場から始めて、会社が成長するにつれ、次第に工場を増築していくことがあります。
最初は小さな機械を数台並べただけのガレージみたいだった工場が、少しずつ、顧客からの信頼を積み重ね、受注する品目が増えたり、新規顧客を獲得したりして、そのたびにできる限り生産設備を充実させ、敷地を拡げて工場を拡大し、5年経って、10年、15年経って、がむしゃらに働いてきた日々を思い、ある日あらためて工場を仰ぎ見て社長はつぶやきます。
よくここまで大きくしたなぁ
あと、よくここまでツギハギな建て増ししたなぁ
冷静に考えたら工程②の隣は工程③にした方がいいけど工程④になってるし、
資材の搬入路もせまくて不便だし、
全然最適な配置になってない。
いや、でも仕方ないんだよな、当時を思い出すと、たしか現在の工程③の場所には数年前に処分した別の機械があったんだ。
搬入路だって、今ならもっと広くとれるけど、当時はまだ隣が民家だったから、こっちの方向に伸ばすしかなかったんだ。
そうなんです。歴史があるんです。
少しずつ、少しずつ手元資金を増やして工場を広げたので、その都度最善の投資判断をしたけれど、ふと立ち止まってみると全体としてまとまりがない。作業効率が悪い。いわゆるSLPになってない。
(某リフォームのテレビ番組でも、そんな物件ありましたよね。増築の結果、キッチンの隣が脱衣所なくていきなりお風呂、洗濯機置き場はその向こう側、みたいなやつです)
社長だって、これが工場として正解と思っているわけではないのです。
事実、建て増しのせいでレイアウトにところどころムリ・ムダ・ムラがあるし、気になる点はいくらでもあります。
将来にむけて改善したいこと、今だったらこうするってこともたくさんあるんです。
だから、令和元年度のように「新工場を建てる」となれば、社長が張り切るのは当然ともいえます。
新しい工場には、まるごと新しい機械を入れられる!
今までできなかった、直線的で効率的なレイアウトにできる!
などなど、夢が広がるんですよね。
一棟目の工場は、どうしても建て増し、建て増しになりがちですから。
職人、背中で語る
最後に、技術・技能の継承について少しだけ。
今まで見てきたように、C社のような製造業の会社は、熟練の職人さんの持つ技術が強みになっているところがあります。
ですが、「熟練の職人しかできない仕事」「〇〇さんしかできない仕事」みたいなこともあり、助言として「作業を標準化、マニュアル化し、作業員教育を徹底する」系のフレーズもよく出てきます。
当社の話になりますが、工場の管理職に「次世代に技術・技能を伝えるために、もっと体系的に教育して下さい」と言っても、なかなか着手してもらえないことがありました。
最初は、「自分の技を教えてしまうのが嫌なのかな?」なんて思ってましたが、話を聞いてみると、皆、教育の大切さは感じていました。
なのになぜ進まないのか聞いてみたところ、「自分がちゃんとした(体系的な)教育を受けてこなかったから、教え方がわからない」という答えが。
自分は先輩から「とにかく慣れろ」「技は聞かずとも見て盗め」「みんな先輩の背中見て育ったんだ」式に育てられたので、人に教えるにも、何からどう教えていいかわからないそうです。
標準化、マニュアル化という言葉の意味はわかるけど、「標準化といっても、標準の示し方がよくわからない」という声もありました。
その後、作業手順や限度見本を作ったりして、若手の作業員に「これでわかる?」とか聞きながら進めていったわけですが、改めて「作業ができる」ことと「人に教えられる」ことは別物なんだと思った次第です。
「背中を見て育った」人たちが「背中で語る」から「対面で教える」ようになるためには、標準化、マニュアル化が不可欠です。
「標準化って、そんなに意味ある?」と思うかもしれませんが、標準化すれば、誰でも「何をすればいいか」がわかるようになるので、大事なことです。
例えば料理をするときに、「肉を適当な大きさに切る」とか言われても、慣れていない人は「適当ってどれくらい?」ってなりますよね。焼くと縮んだりするし。
標準化により「縦〇センチ以内、横●センチ以内の大きさに切る」という指示にすれば、初心者でも迷うことなく求められるアウトプット(大げさだな…)をつくることができます。
工業製品は完成品の規格や仕様が決まっていますから、設計書通りに作るためにも標準化は必要なのです。
最後に、9代目だいまつによる、道場の事例Ⅲ対策名物記事のご紹介です。こちらもぜひ。
工場のイメージをビジュアルで見たい方には、さいちゃんの記事がおすすめです。
【中小企業診断士試験】プラスチック加工&中小企業の活躍事例~気になるけど調べる時間がとれない話題~
いかがでしたか?
冒頭に書いたとおり、あくまで一般論なので、くれぐれも無理に事例企業にあてはめないようにして下さいね。
この記事を読んで「C社、困ってそうだし、事例Ⅲの勉強もうちょっと頑張ってみるか」と思って下さる人が一人でもいれば、執筆者冥利に尽きます。
今後ともC社をよろしくお願いします。
ではでは、引き続き、一緒に勉強がんばりましょう~^^
☆☆☆☆☆☆☆
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私は製造業で、生産管理と営業を経験しましたが、まさに現場の「わかっちゃいるんだが、なかなか改善できない」を、これだけ分かりやすく伝えられている文章、なかなかないと思います。素晴らしい文章力です!自分の経験も整理されました、ありがとうございます。
MINATOさま、コメントありがとうございます!
経験者の方にそう言って頂けると嬉しいです。励みになります。
私自身、診断士の勉強を通して製造業特有の苦労を整理できたところがあるので、MINATOさまの言うこともよくわかります。
今後とも道場ブログをよろしくお願いします^ ^
私も中小企業メーカーの営業なので、事例3の模範回答を読んでたら、わかってるし、やりたいけど、出来ないんだよ!とか
事例3の企業はいいよなー技術があって(あるいは少なくとも社員にやる気があって)ウチはQCD全部悪くて人間対応面だけで生きてるよ とか色々考えてしまいます。
ふぞろいでもかーなさんの記事と考え方が好きでいつも読んでます。応援してますので頑張ってください!(お前が頑張れよ
ひこにん様、コメントありがとうございます。
そして、お疲れ様です!!
ついつい事例Ⅲに自社を重ねてしまいますよね。
試験は試験として割り切る必要がありますが、気持ち分かります。
ふぞろいブログ、そしてセルフツッコミまで含めてありがとうございます^ ^
お互い頑張りましょう〜。
すごいですね。よく理解できました。
工場のイメージがどうしてもつきにくかったので、助かります。
知識やパターンだけでは限界があるため、本当に理解できる(=高得点が取れる)ためには工場のイメージがついていないと厳しいように感じています。
このような、「工場のイメージ」シリーズの記事や本などが他にあればぜひ教えていただきたいです。
サトシ様、コメントありがとうございます!
そう言って頂けると嬉しいです^ ^
「工場のイメージ」シリーズ、道場の記事ですとさいちゃんの渾身シリーズがおすすめです。
2020年5月19日と、6月1日の記事です。
リンクを追加しておきますね。
書籍は、ちょうどいいのがなかなか無いんですよね…。
夏セミナーでTomatsuが紹介していた「ザ・ゴール」はマンガ版も出ているのでさっと読むのに良いと思います。
ちなみに私は、Twitterで町工場の社長さんたちをフォローしてます。
こんな感じでいかがでしょうか。
なかなかいい記事でした。
匿名さま、コメントありがとうございます!
今後ともよろしくお願いいたします。