実務担当者が解説する価格転嫁 byヒロ

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はじめに
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こんにちは!ヒロです。
今回は、中小企業にとって重大な課題となっている「価格転嫁」についてご紹介します。
最近は食材やエネルギー価格などの物価が上がっていることを実感する場面も多いのではないでしょうか。個人と同じく、企業にとっても物価高騰は非常に大きな問題です。物価高騰に対抗するため、企業は価格転嫁が必須の状況です。
事例Ⅲでは、過去にも価格転嫁の出題実績があります。中小企業にとって非常に大きな課題であるため、来年度以降も出題の可能性が高い分野です。今回は、価格転嫁の重要性を紹介したうえで、実務的な準備と協議の方法について紹介します。
筆者は、インフラ企業で土木系発注者として勤務しています。物価高騰により、施工会社(ゼネコン)から価格転嫁の協議を受けて、担当者として実務に携わっていました。今回は価格転嫁について、診断士受験生向けに重要な点に絞って紹介していきます。実務に携わっている筆者と一緒に、価格転嫁について学んでいきましょう!
価格転嫁の重要性
値上げと価格転嫁の違い

価格転嫁と値上げってなにが違うの?
価格転嫁は、コスト上昇分を製品・サービスの価格に反映することを言うよ。
単なる値上げでなく、「コスト増加分をサプライチェーン全体で負担していきませんか」という意図で使われているよ。
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価格転嫁とは、「企業がコスト上昇分(原材料費、労務費など)を製品やサービスの価格に反映させること」です。
結果的には、製品・サービス価格の値上げとなりますが、「価格転嫁」という言葉が使われるのには意味があります。これまでは、下請け会社となる中小企業がコスト上昇分を負担することが多く、値上げは行いづらい状況でした。しかし、近年の急激な物価高騰において、価格転嫁を行いコスト上昇分を価格に反映できないと利益を確保できず、持続的な経営が不可能です。
価格転嫁には、「コスト上昇分を下請け会社がだけではなく、発注先企業を含めたサプライチェーン全体で負担していきませんか」といった意図が込められています。「取引価格の適正化」「下請け企業の利益確保」を目的としているわけです。
価格転嫁の必要性(建設業を例に)

食材とか電気代が上がって家計にダメージ、、建設業でも物価高騰の影響はあるの?
建設業でも建設資材や人件費の物価高騰が大きな課題になっているよ
たとえば、中野サンプラザの建設計画が白紙になったり、住宅価格が高騰したりしているね
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ここでは、建設業を例に価格転嫁の必要性を学びましょう。
建設業は、物価高騰による影響を大きく受けています。物価高騰による建設資材の高騰、働き方改革による人件費の高騰などにより、建設工事費は急激に上昇しています。これにより、建設プロジェクトの「価格高騰」「計画見直し」「工期遅延」「凍結」などのニュースが溢れています。
例を挙げると、
・中野サンプラザの建設計画白紙
・五反田TOCビルの解体工事を延期し、リニューアル工事に方向転換
・新築住宅建設費の高騰
などです。

(出典)一般財団法人 建設物価調査会
建設工事で使用される資材の総合的な価格動向を示した、建設資材物価指数を建設工事費のコスト上昇を確認してみましょう。この指数は、2015年を100%として作成された指数です。直近2025年5月の数値を確認すると、最も高い土木は150%近い数値となっています。これは、2015年から建設資材の価格が約1.5倍になっているということです。
建設業の大型工事は、5~10年の長期に及ぶことも多くあり、契約当初から材料費が1.5倍も増加すると施工会社(ゼネコン)は利益を確保するのが難しいです。
そのため、適正な価格転嫁を行うことは必要不可欠だといえます。
(興味ある人向け)建設業が特に物価高騰の影響を受けやすい理由
①大規模でオーダーメイドの構造物‥‥規模の経済を活かした発注が難しい
②工期が長く、契約から施工までの期間が長い‥‥契約時から材料発注までに数年レベルのずれが生じる
③多重下請け構造‥‥ゼネコンは作業員を雇用しておらず、労務費も市場価格に影響を受けやすい
これらの理由で、建設資材の効率的な調達が難しく、労務費が変動費的なため、建設業は物価高騰の影響を受けやすい事業であると筆者は考えています。
そのため、公共工事では「スライド条項」という契約条項を設けて、戦略的に価格転嫁を行っています。スライド条項とは、「賃金や物価が変動し、変動分が一定程度を超えた場合に、請負代金の変更を請求できる条項」です。事前に物価高騰時の対応をルール化し、契約に盛り込んで価格転嫁に対応しています。
一方で、民間発注者(鉄道会社や道路会社、インフラ会社、新築の注文者)などはスライド条項などを設けていない、もしくは契約には記載があるものの運用していないことが大半です。そのため、施工会社(ゼネコン)が価格の増減リスクを負担していました。工事期間の中で物価が上がることもあれば、下がることもあるデフレ時代が長く続いたため成り立っていました。コロナ騒動やウクライナ戦争等による、近年の急激な物価高騰でゼネコンは価格高騰に耐え切れず、近年は価格転嫁の交渉が盛んに行われています。
ゼネコンで構成される日本建設業連合も「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」として業界を上げて価格転嫁への理解を求めています。民間発注者は、価格転嫁の明確なルールを決めていないことが多いため、施工会社(ゼネコン)との協議は難航することが多いです。
国も価格転嫁を後押し
中小企業は、顧客離れや顧客との関係性悪化を懸念して、価格転嫁を実践できない状況が多いです。発注者に値上げを打診しても、発注量が減少したり、取引が停止すると、想定以上のマイナスが生じてしまうことが考えられるためです。
国も価格転嫁の必要性を認識し、発注者への理解を促進させるための施策に取り組んでいます。中小企業庁は、毎月9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定し、価格転嫁・価格交渉の必要性を広くアピールしたり、中小企業向けの価格転嫁資料やツールの提供、相談窓口の開設などを行っています。

(出典)中小企業庁HP 価格転嫁資料「ここからはじめる価格交渉」
中小企業診断士として、価格転嫁に悩む企業からの相談を受けた際には、これらの内容を踏まえた経営支援を行っていくこととなります。つまり、2次試験で価格転嫁について問われた際には、この内容に基づいた回答が模範解答になるはずです。
本記事では、このHPを参照して重要だと感じた点をまとめた内容になっています。さらに詳しく知りたい方は、下記のリンクからHPを確認してみて下さい。
・中小企業庁 価格交渉・転嫁の支援ツール
価格転嫁に関する様々な情報が載っています。
・経済産業庁 価格交渉ハンドブック〜価格転嫁の実現に向けた交渉準備(初級編)
中小企業の担当者向けに、価格転嫁の交渉準備について分かりやすくスライドで紹介しています。
価格転嫁の手段~準備編~
改めて、価格転嫁とは「企業がコスト上昇分(原材料費、労務費など)を製品やサービスの価格に反映させること」です。
サービスの価格に反映するには、発注者と価格交渉を行う必要でしっかりとした準備が必要です。ここでは、価格交渉前の準備について、具体的に紹介します。
①原価計算を行い製品・サービスのコストを把握する
価格転嫁に成功した企業へのアンケートでは、「原価を示した価格交渉が有効」だと回答しています。
そのため、原価計算を行い製品・サービスにかかったコストを把握することが重要です。
一般には、
・原材料(コンクリート、鋼材など)
・エネルギー(電気代、ガス代など)
・労務費(人件費など)
の3項目に分けて、製品・サービスのコストを把握します。
中小企業では、普段から原価計算を行っていないことも少なくないため、原価管理ツール、原価管理システム・ソフト等を活用することで、業務負担を軽減して原価計算を行うことも重要なポイントです。
②コスト上昇率の根拠資料を収集する
原価計算で把握した製品・サービスにかかったコスト要素ごとに、コスト上昇率の根拠資料を収集します。コスト上昇が事実であっても、自社だけのことであれば、「経営努力が足りない」と言われてしまいます。
コスト上昇が経営努力の及ばない経済情勢などによるものであることを示すために、コスト要素ごとに市場価格の推移が分かるような根拠資料を収集していきます。「市場価格は当時と比べてこれだけ上昇しているため、それが反映されてこれだけの価格転嫁をお願いしたい」と客観的に言えるような信頼性の高い公表資料が必要です。
具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
労務費:最低賃金の推移、民間企業の賃上げ状況、公共工事設計労務単価、賃金指数、消費者物価指数(CPI)
材料費:各材料の企業物価指数、価格統計
エネルギー:貿易統計、企業物価指数、全国の電気料金単価
こちらも中小企業庁がデータをまとめてくれているので、気になる方は確認してみてください。
・中小企業庁 労務費、原材料費、エネルギーコスト上昇の根拠となる公表資料(例)
③交渉資料を作成する
①②の結果を踏まえて交渉資料を作成します。
実際には、
(1)価格転嫁の背景、経緯の説明資料
(2)詳細な計算資料
(3)価格転嫁の見積書
などの資料を作成していきますが、ここでは最も重要な(3)について紹介します。(診断士試験でも(3)のみを押さえておけば十分だと思います)
見積書には、価格転嫁の見積額を記載しますが、算出方法は、
価格転嫁の見積額(円)=コストの当初単価×コストの数量×契約当時からの単価上昇率(%)
といった計算式で、価格転嫁の見積り額(コスト上昇分)を算出します。
基礎工事でコンクリートを10m3使う場合を例に考えると、
価格転嫁の見積り額(円)=コンクリートの当初単価(15,000円/m3)×工事に必要なコンクリート数量(10m3)×契約当時からの単価上昇率(50%)
=75,000(円)
といった形です。

(出典)中小企業庁 「コスト費目別価格交渉フォーマット(例)」
こちらも中小企業庁が作成しているフォーマットがあります。(中小企業庁のフォローは手厚いですね)
価格転嫁の手段~交渉編~
作成した資料を用いて、取引先と価格交渉していきます。ここでは、価格交渉を成立させるためのポイントについて、具体的に紹介します。
書面による申し入れ
価格交渉を行う際には、取引先に「価格転嫁検討のお願い」等のような文書を作成して送付します。これは、取引先も書面があった方が社内で検討しやすいし記録に残るためです。
また、こうした公的な文書を送付している場合には、企業としても適切な対応を行う必要があり、交渉を開始しやすくなります。
妥協点を意識して価格協議を行う
価格交渉は相手があることなため、こちらの要望通りに進むとは限りません。そのため、価格に幅をもって協議を進めていく必要があります。
具体的には、
提示価格・・・取引先に初めに提示する価格
目標価格・・・自社が納得できる価格
最低価格・・・これ以上譲歩できない価格
これらの価格を事前に社内で決めて、交渉を行います。価格交渉のテクニックとして、目標価格よりも高い価格を提示価格として提示するのが一般的です。
価格転嫁が上手く行かなかった場合を想定する
最低価格でも価格転嫁できない場合には、条件変更によるコスト減、提案による売上げ増を求めることも視野に入れて交渉していきます。
(条件変更によるコスト減)
・仕様の変更(スペックダウン)
・発注ロットの増加
・納期の長期化
(売上増)
・新製品、代替品の提案
・メンテナンス契約の締結
価格面以外でのコスト減や売上増を目指していきます。
価格転嫁が認められない場合には、契約を打ち切るといった選択肢もあります。しかし、取引先に売上を依存状態である場合は契約を打ち切るのは難しいです。事例Ⅲの定番パターンですが、売上依存状態の脱却は非常に重要なことが分かりますね。
(筆者は事例Ⅲで「段階的に売上依存からの脱却を目指す」がお決まりの定型文で良く記載していました。)
おわりに
いかがでしたでしょうか。価格転嫁について、ご理解いただけたでしょうか。
①原価計算を行い製品・サービスのコストを把握する
②コスト上昇率の根拠資料を収集する
この2点が最も重要なポイントですので、ここまで読んでくれた皆さんはぜひ覚えて帰ってください。
皆さんが価格転嫁の問題に向き合った際に、少しでも参考になれば嬉しいです。

明日は、ブログお休みです。
明後日はひでまるよろしく!
お楽しみに!

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