中小企業の課題と施策から、あるべき姿を考える【診断士2次試験~事例Ⅲ編】
日時:2020年8月29日(土)23:00~25:00
場所:オンライン (zoom)
・内容:独学者向けの「ユルいアドバイス」と「よろず相談会」
(相談会は6~7名/班を20~30分毎に入替形式)
・人数:約20名(※応募多数の場合は抽選といたします)
・受付期間:8月11日(火)6:00~8月21日(金)24:00
・受付方法:Googleフォームにて必要事項入力
・参加確認:8月22日(土)までにEメール連絡
(※抽選の場合、外れた方への連絡は致しかねます)
本日もアクセスありがとうございます!さいちゃんです。
今年のお盆が終わってしまいました。私の実家の方では、13日から15日がお盆の期間ですが、茨城の知り合いのところは13日から16日だそうです。地域によってお盆の期間が異なることに少し驚いたのはさておき、コロナ禍&酷暑の中、家でじっと過ごすのはある意味新鮮でしたが、来年は実家のお墓参りにいけることを強く願っています。
さて本題です。
前回の記事では診断士試験に合格するためのあるべき姿と現状とのギャップ、そして、ギャップを埋めるための課題と具体的な施策という観点で学習法を考えてきましたが、今日は中小企業の課題と施策について考えていきます。毎度ながらマクロ的な話で試験にすぐに役に立つ話でなく恐縮ですが、具体的な勉強法については他の道場メンバーの記事を参照ください。該当する記事がない場合都度リクエストをいただければ可能な限りお答えしますので、よろしくお願いいたします。
contents
中小企業のあるべき姿とは
中小企業のあるべき姿とは何でしょうか。中小企業白書に書いてあるでしょうか。定義する人の立ち位置によって、相対的なものなのかもしれません。昨今は中小企業のあるべき論が活発になっており、中小企業政策にも転換点がくるかもしれません。
当然ながら、診断士試験の合格を目指す方にとっては、中小企業庁や診断士協会が示すあるべき姿に則るべきです。
今回は、中小企業庁が発行する資料を用いて、実際の中小企業の課題と施策から中小企業庁が示す中小企業のあるべき姿を探っていきます。
活用する資料は、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」です。概要は以下の引用をご覧ください。
本書は、ITサービス導入や経営資源の有効活用等による生産性向上、積極的な海外展開やインバウンド需要の取り込み、多様な人材活用や円滑な事業承継など、様々な分野で活躍している中小企業・小規模事業者を『はばたく中小企業・小規模事業者300社』として(中略)、取りまとめたものである。
まえがきより引用
以前の記事で、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」のまとめた記事をアップするとお伝えしておりましたが、素晴らしいまとめ記事を発見してしまいました。それは、神奈川県診断士協会の湘南診断士ネットさんが紹介している記事になります。2018年度と2019年度の合計600社の中小・小規模企業の成功事例をまとめたものがエクセル化されており、誰でもダウンロードできるようになっています。
このツールの素晴らしいところは、各企業の課題と施策とその結果を検索できるところです。記事によると、成長戦略を提言する際のデータベース(DB)としての活用が主目的とのことですが、課題と施策の組み合わせが実際の企業にどのような成果を生み出しているかが理解できるツールとなります。また、取り上げられている企業は中小企業庁が関わって選定しているため、診断士試験に必要な中小企業のあるべき姿を、課題と施策の面から把握することができると考えています。
注意点としては、ツールに書かれている課題と施策のキーワード間のつながりが直接的にわかりづらい部分があるので、「はばたく中小企業・小規模事業者」の文章を読み解いて関係性を把握してみるとよいと思います。時間がない場合はそこまでの深堀は不要ですのでさらっと読みもの的に読んでみてください。
中小企業の実例から見えてくる課題と施策(事例Ⅲ編)
診断士試験に出てくるほとんどの事例企業は、その企業のあるべき姿と現状の間にギャップがあります。ギャップを埋めるための課題設定と施策の要素について、実際の中小企業の成功事例から抽出してみたいと思います。
例えば、生産性向上という課題がある場合、「はばたく中小企業・小規模事業者600社」の成功事例の中から生産性向上に関する課題の分類と施策をまとめると以下のような表になります。
表1:生産性向上に関する課題と施策一覧
課題の分類 | 施策キーワード | 関連キーワード | |
技術活用 | 外部 技術 |
IT,IoT,AI, ビッグデータ 活用 |
「DRINK」や自動化技術に関連。 |
自動化 | トヨタ生産方式は「自働化」 | ||
設備導入 | 補助金を活用している例が多い。 | ||
他企業・ 公的機関・ 地域との連携 |
工業団地、 産学官連携、 地域資源活用 |
||
先端技術導入 | 上流・下流の企業と共同開発。CAD,CAM,CAE等 | ||
アウト ソーシング |
自社の強みに 注力するための施策 |
||
内部 技術 |
経験と勘を 形式知化 |
多能工化にも関連する。マニュアル化、標準化 | |
コミュニケーション | 「DRINK」のK。~共有化 | ||
自社ネット ワークの活用 |
「DRINK」のN。 | ||
自社開発設備 | ― | ||
特許取得 | 知財戦略、ライセンス収入 | ||
独自技術 | ― | ||
顧客訴求力向上 | 売価 向上 |
高付加価値化 | ― |
一貫生産 | 熱処理と機械加工の~ | ||
人材育成 | ― | 多能工化 | 多台持ち、多品種少量生産 |
技術継承 | 標準化と関連 | ||
職人技術 | 標準化と関連 | ||
生産管理 強化 |
― | 5S | 「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」 |
TPM活動 | Total Productive Maintenance 参考 |
||
平準化 | 生産計画・ 生産統制 |
||
品質保証体制 の確立 |
QCDのQ | ||
コストダウン | QCDのC | ||
短納期 | QCDのD |
最も多いのは最新のIT技術関連のワードで、全体の約20%を占めます。流行を意識しているのかもしれません。
2番目に多いのは設備導入に関してでした。最新設備の導入による生産性向上はわかりやすい施策で、補助金の主な使い道になっているようです。
3番目に多いのは外部との連携関係です。他企業や産学官に加え、地域資源との連携に関する記述が多いです。地域の中で役割を果たすという意味合いの企業を多く拝見しました。
他に気になるワードは、5S、QCD、DRINKといった事例Ⅲの鉄板ワードに加え、高付加価値化や一貫生産といった顧客訴求力の向上施策や、知財関係、人材育成に関わるものが目立っています。
以上からわかるのは、実際の中小企業の事例で有効だった施策は、2次試験でよく使用する「当たり前のこと」ばかりです。実は「当たり前のこと」を当たり前に実行するのができていない企業が多く、そこに切り込むために診断士の存在意義があることを実感します。同様の話がかーなのリアル事例Ⅲの話にもありましたが、事例Ⅲを解くときの前提ですね。診断士は、様々な知識の組み合わせから事例企業に最適な施策を選択し、限られた時間の中でわかりやすい言葉で提言する、まさに2次試験で求められている能力が必要だと感じます。
なお、今回のDBでは余力管理や現品管理といった生産管理面についてはあまり触れられておりませんでしたが、具体的なワードの意味と使い方は、だいまつの記事を参照ください。
まとめ
中小企業のあるべき姿は、企業に応じた課題に対して的確な施策を実行して成長していくことで、各企業に寄り添った形で具現化されているようです。
施策については、まずは「当たり前のこと」を当たり前に実行して着実な成功を図るべきということが、「はばたく~」の事例企業からわかりました。「当たり前のこと」というのは、過去の成功体験を集積したフレームワークで、生産性向上を課題とする企業においては今回の表に出てくるようなキーワードになるはずです。実際の中小企業の成功事例を知ることで知識やイメージのストックが可能となり、事例を解く際の引き出しを増やすことができると思いますので、お時間があればDBを活用してみてください。
最後に、今回DBの引用を許可いただいた湘南診断士ネットさんには、改めて感謝いたします。
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ちょっと余談:比較的成功している中小企業の課題と施策
比較的成功している中小企業が実行すべき施策はどんなものがあるでしょうか。
一つの解答として、2つの著書をご紹介します。
「日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義」
「日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長」
著者はデービット・アトキンソンさん。ゴールドマン・サックスで伝説的なアナリストとして活躍されていた方です。賛否両論ある本書ですが、最新のデータを使った説得力がある内容が書かれています。(さいちゃんは、データドリブンで物事を説明する人が好きです。)
日本の中小企業に対する主な主張として、「最低賃金引き上げによる、労働生産性の向上」、「高価格・高付加価値化による収益の増加」、「中小規模でとどまるべきではない、ポテンシャルがある中小企業の規模の拡大」が挙げられています。
上記は、記事の内容からおそらくコロナ前の世界での提言でしたが、こちらの書籍によるとコロナ後も同様の趣旨の提言をされています。
最低賃金の引き上げという熱い話題は置いておいて、中小企業の規模の拡大の推進については、中小企業政策審議会制度設計ワーキンググループ等でも議論されている内容であったり、労働生産性の向上や高価格・高付加価値化は、「はばたく~」でも提示されているように(方法は別として)施策としては一般的な提言です。
比較的成功している中小企業にとっては、生産性と収益性の向上という観点で当たり前のことを実行し、規模の拡大を通じた大企業化をめざすといった施策が見えてきます。ただし、規模の拡大については、中小規模だからこそ成長できる要素があるという意見もあり、一概に規模の拡大のみが有効な施策ではないかもしれませんが、事業承継やM&Aを絡めた規模の拡大の議論もあるようです。
診断士試験で求められることとは、「当たり前のこと」ができていない事例企業に「当たり前のこと」ができるように診断する、ということだと前述しましたが、「当たり前のこと」とは定型化されているフレームワークです。フレームワークを用いて事例企業に寄り添った提案をすれば、企業が成長するべきという前提に立っています。
一方で、比較的成功している企業に対する診断は、「当たり前のこと」ができている場合が多いため、診断士試験では問題になりにくいと考えます(令和元年度の事例Ⅲは例外でした)。そのような企業に対して診断する場合は、基本的には既存のフレームワークを基に、課題を設定し施策を検討することになると思いますが、診断先の状態によっては診断士の専門性に基づくフレームワークから飛躍した支援が必要になる場合があるかもしれません。岩塩のいう守破離の離ですね。そこに診断士の面白さが眠っているはずで、私もいずれ携わりたいと思っております。今はひたすら守を身に着けるために勉強している日々です。
以上、さいちゃんの考察には解釈の飛躍が多分に含まれていると思いますので、興味ある方にはぜひコメントいただいてお話させてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。読んでいただいたみなさんに、何か気づきがあれば幸いです。
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「はばたく中小企業・小規模事業者300社」ですね。
以前から噂は聞いていましたが、僕は2次試験受験は来年で時間があるため、これを機に見てみます。
また、紹介いただいたサイトも参考にさせていただきます。ありがとうございます。こんな素晴らしい内容がまとまった記事があったんですね。
1つ質問なんですが、実例なら中小企業白書や小規模企業白書にも計30社ほど掲載されています。
先ほどの「はばたく中小企業・小規模事業者300社」と「中小企業白書・小規模企業白書の実例」なら、前者から優先してチェックしていくのがよろしいでしょうか?
よろしくお願いします。
サトシさん
コメントありがとうございます!
「はばたく中小企業・小規模事業者300社」と「中小企業白書・小規模企業白書の実例」の優先度とのこと、以下個人的な感想ですがお答えします。
「はばたく中小企業・小規模事業者300社」は、細かくチェックするのはお勧めしないです。数が多すぎますので。
記事で紹介したデータベースの検索機能を使ってみて、中小企業が抱える課題と施策キーワードの組み合わせを何となく把握される程度にしておき、
気になった課題・施策がある企業があれば本文を読まれると良いと思います。
なお、事例Ⅰ、Ⅱ関連の企業については今後まとめ次第記事でご紹介します。
他方、「中小企業白書・小規模企業白書の実例」は、いけちゃんの記事
https://rmc-oden.com/blog/archives/121495
にもある通り、30社程度にコンパクトにまとめられているため(それでも多いですが)、事例企業をイメージする読み物として、イメージがつかない、馴染みのない業種から数社読む程度で十分だと思います。
もしサトシさんに余力がある場合は、全て読んでいただいてもいいかと思いますが、それよりは問題を多く解いて、馴染みのない業種や施策が来たときに実例に戻った方が効率的に得点を取る可能性は高くなります。
また、ある程度試験問題に慣れてきたところで実例をみてみると、また違った感覚で課題や施策を眺められると思いますので、勉強の合間に少しずつ読んでみるのも良いと思います。
以上、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」と「中小企業白書・小規模企業白書の実例」は使い方が異なりますので、サトシさんの課題に応じて使い分けされるのが良いと思います。長くなってすみませんが、お答えになっていれば幸いです、