【渾身】ケースで学ぶ民法改正ポイント【後半】

おはようございます、たっつーです。
(過去記事はこちら

このブログでは、昨日の記事から、【渾身】シリーズが始まりました!
昨日、かわともが説明してくれたとおり、1次試験の論点について、ブログメンバーがそれぞれ得意分野を解説するものです。
(私は当然経営法務。というか経営法務以外得意分野がない。

「1次試験は合格間違いなしだから、2次試験の記事を書いてくれ」という方もいらっしゃると思いますが、1次試験で足元をすくわれないように、少しだけお付き合いください!

そうそう、「足元をすくわれない」という意味では、皆さま、試験案内にこういった記載があるのをご存知ですか?

第1次試験の合格基準は、総点数の60%以上であって、かつ1科目でも満点の40%未満のないことを基準とし、試験委員会が相当と認めた得点比率とします。
(「10.合格基準・合格発表等」の(1)①より)

1次試験の合格基準についての文章ですが、実はこの文章をよく読むと、巷でよく言われている言い方のように「1次試験は700点満点中420点取れば合格。足きりは、各科目40点」とは書いていないんですね。
あくまで、それは基準にすぎず、最終的には「試験委員会が相当と認めた得点比率」が合格点及び足切り点になるわけです。

過去何度もあった「加点調整」(全員4点or8点プラス)は、この文章(試験委員会が相当と認めた得点比率)を根拠として行われているわけですが、逆に言うと、1次試験が急激に易化したときは、全員4点マイナスといった「減点調整」がされることもありえます。
(減点調整されても、文句は言えません。)

昨年は経営法務が急激に難化しましたので、今年はその反動で急激に易化する可能性がありますよね。
そうすると、1次試験合格者が多くなりすぎてしまい、減点調整されるかも…?
せっかく40点で足切りを免れたのに、減点調整で足切りになるかも…?

ということで、1次試験は決して油断できませんので、【渾身】シリーズにお付き合いいただければと思います!

それでは今日の記事は、前回に引き続き、民法改正のポイントを解説します!
(>かわとも 渾身シリーズの存在を忘れていて、前後半構成にしてすまぬ…。)


【目次】
<前回の記事>
◆そもそもどの分野が改正されるの?
◆いつ改正されるの?
◆配偶者居住権について
◆時効期間及び法定利率について
<今日の記事>
◆契約解除について
◆定型約款について
◆瑕疵担保責任について


◆契約解除について

このケースで、買主Bさんは契約解除できるでしょうか?

まず、現行民法で考えてみましょう。
現行民法は、契約解除には、契約関係の解消という効果のほかに、債務者の落ち度を咎める意味合いも含まれているという考え方なので、契約解除には債務者の帰責性が必要とされています。
したがって、今回のケースでは、売主に帰責性がなく、契約を解除できません。

さらに、現行民法では、特定物(中古品や不動産など、量産品ではないものをイメージしてください)の売買においては、買主は、不可抗力で物を取得できなかった時でも売買代金を支払わければならないとされています。
(これを「債権者主義」といいます。不可抗力で物が滅失したときのリスクを、債権者である買主が負うからです。)

なぜ、(一見不合理な)債権者主義が採用されているかというと、民法は、「契約すれば、所有権はそのときに移転する」という考え方を原則としているので(契約時説)、「所有権が買主に移転するのと同時に、危険(リスク)も買主に移転する」からです。

でも、「売買の目的物が滅失したのに、解除できず、代金を支払わなければならない」という結論は、すごい一般的な感覚と乖離していますよね。
(普通だったら、ふざけんな!ってなりますよね…。実務的には、それぞれの契約条項で調整されています。)

なので、改正民法では、債務者(このケースでは売主)の帰責性の有無にかかわらず、買主は契約解除できるようにしました!
また、債権者主義の規定も削除されて、不可抗力で目的物が滅失した時は、買主は、(解除をしなくても、)反対債務(代金支払い債務)の履行を拒めるようになりました。
(なお、損害賠償請求については、さすがに相手方の帰責性が必要とされています。この点は、現行民法も改正民法も変わりません。)

その他、解除については、以下のような形で整理されています。

すなわち、従前は、①履行遅滞解除、②定期行為の履行遅滞解除、③履行不能解除、というように、債務不履行の態様によって分類されていたのですが、改正民法では、①催告解除、②無催告解除、というように、解除の方法で分類しています。

無催告解除は、全部が履行不能の場合や、債務者が履行を明確に拒絶しているときのように、「催告しても意味ないじゃん…」という状態のときに、認められます。

◆定型約款について

実は、現行民法では、こういったネットショップの利用規約等についての位置づけが不明確でした。
したがって、個別のケースごとに、そういった利用規約等が、当事者間の契約内容となっているのか否かを判断せざるを得ませんでした。
そこで、改正民法は、「定型約款」規定を創設し、画一的に判断することを可能にしています。

<定型約款の要件>
定型約款といえるためには、以下の1及び2の要件を満たすことが必要されています。
典型的には、預貯金の銀行約款、ソフトウェアの利用約款、電車・バス等の鉄道運送約款などですね。

なお、労働契約や企業同士の基本約款なんかは、一見、両方の要件を満たしそうに見えますが、当事者の個性に着目して契約締結しますので、必ずしも「画一的であることが当事者双方にとって合理的」とはいえず、いずれも、定型約款には該当しないとされています。

 定型取引に関するものであること
①不特定多数の者を相手方とする取引であること
②取引内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的であること
  契約の内容とすることを目的として作成された条項の総体であること

<みなし合意について>
次に、定型約款の内容について合意したものと認められるためには、以下の1又は2の要件のいずれかを満たす必要があるとされています。

1 定型約款を契約内容とする旨の合意をしたとき
→例えば、「上記規約を承諾する」ボタンにクリックすることになっていれば、この要件を満たしますね。

2 定型約款準備者が、予めその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき
→例えば、約款が表示されているページを経由しないと決済ボタンを押せないようになっていれば、この要件を満たしますね。

<不当条項規制について>
とはいえ、どんな内容の定型約款であってもいいわけではありません。

1 相手方の権利を制限又は義務を加重する条項であって、
2 取引上の社会通念等に照らして信義則に反し、相手方の利益を一方的に害すると認められる条項

は、定型約款内の条項でも、合意をしていなかったものとみなされます

今回のケースでは、「損害賠償責任は一切負わない」というブラック企業もびっくりの内容ですから、上記の不当条項規制にひっかかり、この部分は契約内容にならないというわけです。

◆瑕疵担保責任について

現行民法では、売買の目的物が特定物の場合には、たとえ瑕疵があっても、その物を引き渡せば、債務は完全に履行したことになる(債務の不履行はない)、という考え方でした。
(特定物は、世の中に一つしかないから、瑕疵があっても再度履行し直すことは不可能なので、とにかく物を渡しさえすれば履行は終わった、としてしまう考え方です。)

このことを、いわゆる「特定物ドグマ」といいます。
ドグマというのは、宗教的な「教義」の意味であり、特定物を唯一無二とするような考え方を、若干揶揄していると考えると覚えやすいかもしれません。

上記のとおり、特定物においては瑕疵があっても債務不履行はないのに、それでも瑕疵担保責任があるのは、瑕疵担保責任=法が特別に認めた責任である、と考えます(法定責任説)。
法が特別に認めるので、通常の債務不履行責任と異なり、「隠れた瑕疵」(買主にも、「善意無過失」[瑕疵について、過失なく知らなかったこと]という要件を要求)という独特の要件を課しました。
また、特定物ドグマの考え方から、引渡しさえすれば債務の履行は完了するので、たとえ目的物に瑕疵があっても、買主に追完請求権(代替物引渡請求権又は瑕疵修補請求権)は認められないわけです。

でも、この「特定物ドグマ」って意味わからなくないですか?
量産品等の不特定物だと、物が壊れてたら「修理して新しいのに交換して」といえるのに、中古品等の不特定物だと、そういった請求が一切できないなんて…。
普段から民法を使う私ですらいまだに違和感があるくらいですので、一般の方々からすると、相当違和感があると思います。

そこで改正民法では、シンプルに考えて、「売買の目的物が当然備えるべき品質を備えていることも契約内容の一部なのだから、それに適合しない物を引き渡すことは債務不履行になる」という考え方をとることにしました。瑕疵担保責任は、単なる債務不履行の一類型という考え方です。

したがって、特定物であっても不特定物であっても、債務不履行の考え方に基づき、「契約の内容に適合しているかかどうか」という要件が新たに設定され、代わりに、「隠れた瑕疵」という要件はなくなりました

その結果、特定物の場合でも、買主に追完請求権、代金減額請求権は認められることになりました。
(なお、追完請求権について、売主は、買主に不相当な負担を強いるものでなければ追完方法[新品を渡すか、壊れている部分を修理するか]を選択できます。)
また、債務不履行の一類型なので、売主に帰責性さえあれば、損害賠償も認められることになります。

したがって、今回のケースでは、①のカーナビの取り替え請求は認められ③のカーナビ分の代金減額請求も認められます
ただ、上記のとおり、売主は追完方法を選択できますので、買主は、②の車全体の取り換え請求までは出来ないということになります。
④の損害賠償請求も、売主の過失は必要ですが、認められる可能性はありますね。

瑕疵担保責任の期間制限については、現行民法では、買主は、「瑕疵の事実を知ったときから1年以内に権利を行使」しなければ時効消滅してしまうとされていましたが、権利行使までするには色々と事実関係を調べたりしなければならず大変なので、改正民法では、「不適合の事実を知ったときから1年以内に不適合の事実を通知」すれば、権利が保存されることなりました。
(この通知により権利が「保存」され、後は、前回記事で説明した5年・10年の時効期間が適用されます。)

したがって、今回のケースの⑤について、買ってから1年半経過しているが、知ってからは1年経過していないので、通知すれば権利保存され、取り替え請求等が認められるということになります。

以上をまとめると、以下の表のようになります。

いかがでしたでしょうか。
法改正については、現行ではどうだったのか、改正後はどうなのか、ということを意識すれば、頭に入りやすくなるように思います。

ではでは!

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