アニメ映画「KING OF PRISM」の異常なマーケティング戦略 by AZUKI

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はじめに

こんにちは、AZUKIです。

○○さん(あなたの名前を入れてください)、普段映画を観ることはありますか?

昔だったらVHSやDVD、今だとネトフリやAmazonで割と手軽に観れますよね。

では、映画館に直接観に行くことはありますか?

・・・なるほど、確かに観に行かない人は全く行かないですし、好きな人はしょっちゅう行ってますよね。

ではでは、同じ映画を観に映画館に通い詰めたことはありますか?

おそらく、よっぽど気に入った映画でないと、わざわざ何回も映画館まで行くことはないと思います。

実は、今日紹介する「KING OF PRISM」というアニメ映画は、観に来ている人のほとんどがリピーターで、しかも1回,2回のレベルではなく、数十回リピートしてる人がゴロゴロいる映画なんです。

この映画は、リピーター獲得のために普通の映画とは異なる異常なマーケティングを行っていました。マーケティング戦略の一例として、診断士目線で時間つぶしに聞いていただければと思います。

本編

KING OF PRISM、通称キンプリですが、アイドル的な男の子たちが、歌って踊ってパフォーマンスして大会優勝を目指す的な映画です。1作目は2016年公開で、現在、5作目が公開されています。

「キンプリってあのアイドルグループと同じだね!」

え?・・・ああ、そうなんですよ(笑) 実は、アイドルグループの方のキンプリも、2015年結成で、2016年は下積みを頑張っていた時代なんです。なので、SNSのトレンドにキンプリが上がっていると思ったら、もう片方のキンプリだった、ということがお互いよくありました。
元々のバックの違いもあって、今では天地の差がありますが、あっちのキンプリも無事人気になってよかったなーと、勝手に思ってます(笑)

・・・話がそれましたね。キンプリ、僕も1作目の公開当時から通い詰めていて、なんやかんやでシリーズ累計30回は映画館に行っていると思います。1日に3回観たこともありました。

もちろん、面白くなければわざわざ何回も映画館まで足を運びません。キンプリには、観客をリピートさせるためのさまざまな仕掛けがあります。しかし、そもそもが観客をヘビーリピーターに育てる戦略を取らざるを得なかった作品なのです。

キンプリのコンセプト

キンプリには前身となる作品があり、そちらの作品は女性キャラクターを中心とした構成です。キンプリはその作品に登場する男性キャラクターたちに主軸を当てた、いわゆるスピンオフ作品です。


元の作品もマイナーなのですが、観た人からの評価は軒並み高く、語らせると長くなるような熱量の高いファンが多いのが特徴です。診断士風に言うと、顧客ロイヤリティが物凄いんですよね。
また、女性キャラクターが主軸でありながら、登場する男性キャラクターたちも同じかそれ以上の人気を誇っていました。

放送終了後も根強いファンからの声に応えるため、キンプリの監督やプロデューサーは、男子を主役にしたスピンオフ作品を作りたいと思い、企画を上層部に提案しました。しかし、マイナーな作品のさらにスピンオフということで、黒字になる見込みがなく、企画が全然通らなかったそうです。


企画を通すため、1000人に10回観てもらうことを前提に計算したり、前身となる作品のイベント来場者数や反応を記録したりと、地道に根拠となる数字を積み上げていきました。また、偉い人に作品のライブシーンを見せたり、続きを要望するファンの声をまとめたりと、数字だけでなく感覚に訴えることも続けました。そして企画が通ったのは、最初の構想から2年越しだったそうです。

ただし、企画が通っても厳しい戦いになることは目に見えていました。1000人が10回観たとしても、そんなに大した興行収入にならないことは分かりますよね。

なお、僕たちファンはもちろんこのような裏事情を全く知らず、新作の公開を楽しみにしていました。前売り券が5枚綴りで販売され、「5枚は多くない? 集金すげー笑」みたいな感じで、能天気なことを言っていました。

ファンが作品の置かれている状況を理解したのは、公開日の2週間前に行われた公開記念のライブ配信でのことです。ここで監督から直々にファンへの手紙が読み上げられました。

「ここまで順風満帆だと思っているファンの方もいると思います。しかし、現実はいつも崖っぷちでした。本当は大赤字の新作で、関係者はクビを賭けて頑張っています。今回の映画は、当初描こうと思っていた大会の前でストーリーが終わります。続きは、今回結果を残さなければ描くことができません。再び、僕たちは崖っぷちに立たされています。どうか、劇場に足を運んでください。

他にも、全然スポンサーがついておらず、テレビ局の支援や関連商品のタイアップなど、通常のプロモーション活動が困難であることも告げられました。僕が覚えてる限りだと、監督と映画公式のTwitterアカウントでの宣伝くらいしかなかったんじゃないでしょうか。前売り券が5枚綴りであるのも、少しでも興味のある友達を誘ってぜひ見に来てほしいからとのことで、なりふり構っていられない状況であるのが、ひしひしと伝わってきました

このように、非常に閉じたコンテンツだった上、プロモーションのための予算が全然なかったため、「1000人が10回観てくれる」ことをコンセプトに作られたのがキンプリという映画なんです。

厳しい現実

暗雲立ち込める中、2016年1月9日に封切りがされました。

僕は特急サンダーバードに乗って、福井から大阪の映画館に遠征しました。移動中、ある心配がずっと頭を巡ります。

そもそも、面白くなかったらどうしよう?

まあ、別にどうもこうもないのですが(笑)、やはり作品が好きだからこその心配がありました。あと、片道5,000円の電車代も学生にとっては大きな出費でしたし(笑)

無事映画館に着き、予約したチケットを受け取り、シアターに入り、座って上映の刻を待っていました。ただアニメ映画を観るだけなのに、異常な緊張を感じています。

そして、映画泥棒が出てきて・・・

・・・

心配は杞憂に終わりました。

素晴らしいライブシーンや楽曲、そして目まぐるしい展開に、脳が爆発しそうなくらいの衝撃を受けました。また何と言っても、エンディングの後に流れた、1分程度の次回予告がこれまた衝撃的で、強烈に印象に残ったのです。

映画を観終わったあと、杞憂は確信へと変わりました。

この映画は面白い。絶対に人気が出るはずだ。

僕たちファンは、映画を観たときの衝撃を、Twitter上にレポートや漫画といった形で、ひたすらにアップし続けました。何のフィーもないのに、続きを観たいという一心だけで、ファンたちが口コミを超えて、自主的にプロモーション活動を行ったのです。僕たちは感想を観て興味を持った新規の方が来てくれると信じて、プロモーション活動を続けました。

しかし、現実は非常に厳しかったです。

公開4日目には、観客動員数が初日比13%となっていました。新規顧客が全然入っていなかったのです。2週目で打ち切りになってしまった映画館もあり、3週目には公開館数がわずか9館まで減りました。まさに風前の灯火のような状況です。

あの次回予告は、予告のままで終わってしまうのか。

ファンが今まで目を背けてきた現実が、突きつけられようとしていました。

しかし、ここで奇妙なことが起こります。観客動員数が、3週目にして初週を上回ったのです。

キンプリを語る上では外せない、応援上映の存在が認知され始め、興味を持った新規の観客が一気に流入してきたのです。

応援上映による起死回生

○○さん、応援上映はご存じでしょうか?

発声可能上映や絶叫上映と呼ばれていることもありますね。通常、映画館では音を立てない、声を出さないことがマナーとなっていますが、応援上映では、ペンライトやサイリウム、応援うちわ、さらに声援がOKとなっています。

近年、応援上映は洋画・邦画・アニメ問わず人気の上映スタイルとなっていますが、この応援上映、実はキンプリが火付け役なんです。キンプリが出てきた2016年を境に、応援上映を行う映画が明らかに増えました。

普通の映画は、座って静かに見る前提で作られており、応援上映はイベントとして単発で開催されることが多いです。しかしキンプリは、観客が応援上映を通じて作品に参加することにより、初めて完成するように作られており、応援上映がスタンダードとなっているのです。ここが普通の映画とは一線を画す、最大の差別化ポイントです。

例えば画面上にセリフが表示されて観客がそのセリフをアフレコするシーンや、キャラクターのセリフの後に意図的な間が設けられたシーンなど、観客が映画に参加できる仕掛けが施されています。

「面白いね! アフレコって、こんな感じ?」

そうです!○○さん上手ですね、才能ありますよ!

それで、上映が続くにつれて、ファンが公式のお膳立てしている部分以外で、独自の応援をするようになり、応援上映がどんどん進化していきました。キンプリは、ファンと映画が一体になることで、キンプリ以外では体験できない価値を提供する映画となっていったのです。

応援上映の楽しさをファンがSNSで発信し続けることにより、キンプリの真骨頂ともいえる応援上映の評判は徐々に広がっていきました。そして、応援上映の噂が広まると共に、2か月目に新たに13館追加、3か月目に更に33館追加と、公開館数も急激に拡大していきました。

そして、映画のクオリティと応援上映の合わせ技に魅了され、応援上映中毒となるファンが続出します。

その結果、上映形態が非常に独特になりました。公開されて2週間程度で通常上映は終了し、応援上映の回だけが何週間も残り続けるという、他の映画では聞いたことのないような状況が、キンプリでは当たり前となっていたのです。

ファンが劇場に、「この作品は応援上映が人気なので、それを中心にスケジュールを組んだほうがよい」とアドバイスした事例もあったようです。映画の関係者じゃなくて、ファンがですよ?普通あり得ないですよね(笑)

公式も、このようなファンの熱気に負けじと、監督が毎週全国の劇場を巡り上映前にトークショーを行ったり、キャラクターの誕生日に合わせたイベントを企画し新規映像付きの上映を行ったりと、ほとんど予算がない中で、ファンを最大限楽しませる工夫を惜しみませんでした。

「すごい! でも、同じ映画を何回も観て飽きないの?」

まあ、正直、多少の飽きはあったんですが(笑)、それでもなお、面白さの方が上回っていましたね。この映画、上映時間が60分と短めなのですが、そのうえ半分以上が歌や踊りといったライブシーンなんです。それもあって、映画というよりは、好きなミュージックビデオを何度もリピートしている感覚でした。60分という時間も絶妙で、観終わったあとに「また観たい」と思わせる長さだったんですよね。

加えて、応援の仕方が毎回微妙に変わって、それが新鮮なんです。声援だけでなく、ペンライトを振りながら作中のキャラクターの動きをマネしたり、ペンライトで文字を作ったり・・・。「こんな応援、前はなかったぞ!?」みたいな感じで、みんなの工夫に毎週驚いてた気がしますね。たまに、「これ、応援か?」みたいなのもありましたけど笑

また、Priceの面だと、通常上映と応援上映の料金が変わらなかったんですよね。当時、1,600円の一律料金での上映だったのですが、1,600円でライブに行けると思うとめちゃくちゃコスパ良くないですか?

これらの要素が合わさった結果、応援上映中毒者が続出し、最終的にキンプリは延べ100館以上で上映、興行収入8億円超、238日連続上映という超ロングラン作品となり、無事次回作の製作が決定しました。

このように、クリエイターとファンが共に作品を作り上げ、ファンの体験価値を高める戦略を、コ・クリエーション(共創)戦略と言うらしいです。今年の事例Ⅱでも感覚価値観念価値など、製品そのものではなく製品を使うことにより生まれる価値、また製品自体の歴史やストーリーを重視したマーケティングがテーマになっていましたし、今後の事例Ⅱは、より顧客の体験重視の路線になっていくような気がしますね。

超余談なんですが、あのワンピース作者 尾田栄一郎先生も、キンプリの応援上映に影響を受けているんですよ。・・・いや、マジです(笑)
尾田先生は、知り合いに連れられてキンプリの応援上映に参加したところ、めちゃくちゃ感激して、「ONE PIECEでも同じようなことがしたい!」と思ったそうです。
そしてその想いは、「ONE PIECE FILM RED」で実現することになります。
僕たちがFILM REDを作らせたんだとまでは言いませんが(笑)、きっかけを作れたという面では、非常に嬉しいですよね。

おわりに

ここまでキンプリのマーケティングについて喋ってきましたが、振り返ってみると異常なのは僕たちファンの方だったかもしれません(笑)

今公開されている5作目も総集編なのですが、応援上映に特化した構成となっており、公開3か月で4億円と総集編とは思えない数字をたたき出しています。また、日本アニメ映画初のScreenX上映を行ったり、スペシャルPVや特典を付けて全国128館で上映するファン感謝祭を開催したりと、今作も、何回も観てもらうためにファンをとことん楽しませようという姿勢が一貫しています。

また、他にもすごいところがたくさんあって、例えば、ピンポンパンポン

「お待たせいたしました。まもなく、13時50分より3番シアターにて、『KING OF PRISM -Dramatic PRISM.1-』応援上映が始まります。」

・・・おっと、そろそろ始まる時間のようですよ。いい感じに時間を潰せましたね。

「今日は、誘ってくれてありがとう!」

いえいえ、こちらこそ一緒にキンプリを観に来てくれてありがとうございます。応援上映についてはバッチリ理解できましたね?

では、行きましょうか!

(某日 某映画館にて あなたと)

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アニメ映画「KING OF PRISM」の異常なマーケティング戦略 by AZUKI”へ4件のコメント

  1. テセ より:

    こんばんわ!
    熱い記事ありがとうございます!

    記事からAZUKIさんの愛がひしひしと伝わってきました!
    図ったように育休中なので、アニメ大好きな妻と見てみようかと思いました!

    1. AZUKI より:

      テセさん、コメントありがとうございます!

      診断士試験のブログなので、趣味に寄りすぎないようにと思って書いたつもりだったのですが、15代目メンバーからも熱量が凄いと言われ、無意識のうちに愛が載ってたんだなと思いました笑
      1本60分の映画なので、育児の休憩にぜひ観ていただければと!(たぶん休憩にならないと思いますが笑)

  2. にっく より:

    すごい熱気でしたね!
    応援上映、癖になりそうです笑
    帰ったらXで宣伝しないと!
    診断士としての勉強にもなりました!
    ありがとうございます!
    にっく

    1. AZUKI より:

      にっくさん、コメントありがとうございます!

      応援上映は、ハマる人はとことんハマるコンテンツだと思います笑
      コ・クリエーション戦略は、今後診断士として大事になる単語かなと思うので、ぜひ覚えてもらえればと!

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