【渾身】英文契約書諦めてませんか?(経営法務)

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先週より各メンバーより渾身シリーズと題して、様々な科目の論点にフォーカスして解説するシリーズをお届けしております。

今日のテーマは経営法務の「英文契約書」です。

英語が苦手な方など捨て問にすることも多いと聞きますが、海外との取引については中小企業白書でもポジティブに描かれているように今後中小企業にとっても欠かせないテーマの一つです。今回のコロナのようなインパクトもありますが、逆にそんな状況だからこそ、取引する際の契約についての重要性は高まっていくと考えられます。
また、近年は配点も7点〜10点で推移していますので、何とか食らいついて頂きたいテーマです。

いきなり過去記事の紹介になりますが、まずはこちらのTOMの記事をご覧ください。

英文契約書の対応について、覚えるべき英単語集英文解釈のポイントなどがとても読みやすく纏まっています。このTOMの記事でチャレンジ出来そうな方はぜひこちらで攻略していただくことをおすすめします。

今回は「それでもやっぱりこんなに単語覚えられない」「時間がない」というかた向けに、”諦める前にこれだけ読んでみて” という位置づけで書いてみたいと思います。

この英文問題、英語が得意でなくても十分得点できる可能性が残っています。そもそもこの試験で診断士に求められているのでは本格的な英語力ではなく「英文での契約書を見かけてもビビらず、ポイントだけは理解しておいて」という主旨だと考えています。

市販過去問集の解説では、問題英文の和訳のみしか書かれていないケースが多いので、今回は過去11年分の英文問題の内容の整理と、問題の取り組み方についてご紹介します。
※実際に問題解いていきますので、時間があるときに読んでください。

1.英文問題の出題傾向と分類
まず平成21年〜令和元年度までの過去問を整理しました。

※クリックで拡大します

【出題数/配点】
ここ7年は毎年2設問の出題となっており、配点も7点〜10点と大きいです。

【正答率】
過去AやEの年度もありますが、基本的はB〜Dになることが多いようです。決してみんなが捨てている訳でなないので、捨てようとされている方はぜひ食らいついて頂きたい問題です。

【出題内容】
秘密保持契約、売買基本契約、貿易(インコタームズ関連)、ライセンス契約といったあたりになります。このあたりは実務でもよく出会いそうな契約書がテーマになっています。

【解き方、必要とされる英語力】
各問の「解き方」を簡単に記載しました。この解き方をもとに、
少し乱暴ですが私の主観で必要とされる「英語力」について3つのレベルで分類してみました

「なくてもOK」:日本語や、契約書の一般知識のみで解ける。
「少し必要」:英文全体を読めなくても、いつくかの単語の意味がわかれば解ける。
「必要」:英文全体を解釈する必要がある。

集計した結果がこちらです。

 

過去11年の出題のうち、50%は「英語力なくてもOK」問題です。
また、いくつかの単語の意味がわかれば解ける問題も含めると、約9割の問題には対応できます。(仮にわからない単語があっても選択肢を絞れますので、正解確率が上がります)
また、英文全体を読み解釈が必要な問題は2問のみで、どちらも正答率Eになってますので、このレベルが出たら適当にマークしてもOKです。

2.問題の取り組み方について
解き方としては、基本的には下記のステップで進めます。
(1)問題文の日本語部分を読む⇒どんな契約書の話かを確認。
(2)選択肢を確認。(選択肢が日本語のことが多いです。)
※ここまでで解ける問題も多々あります。判断がつかない場合は(3)に進みます。
(3)自分がわかる英単語から、選択肢と照合し選別していく。
※英文の契約書が最初にデーンって出てくる場合もありますが 果敢に読もうとせず、まずは落ち着いて日本語の部分から確認していきましょう。

では、実際に過去問を解いてみます。

令和元年度

※クリックで拡大します

まず「英語力なくてもOK」の筆頭としては貿易関連。昨年出題されたので、2年連続は出ないかもしれませんが、出題されたら確実に取りたい論点です。

(設問1)正答率 D
「危険負担」と「所有権」がどのタイミングで移転するのか、という問題です。「危険負担」とは簡単に言うと「輸送中などに何か事故があった際にどちらが面倒をみるか」の取り決めです。(民法で出てくる内容です)
ここでは、移転のタイミングとして「引渡時」と「支払時」を選ぶのですが、この契約書自体が売り主側から提示されているものと考えると、売り主側の責任の範囲を限定するような書き方になっていることが一般的です。
その前提で考えると、支払いを受けていない時点で所有権だけ先に渡すとは考えにくいため、下記のような主張だと推定できます。
・商品引き渡した後は、輸送中に何かあった場合そっちで面倒見てね。
でも商品の所有権は、お金貰うまでは渡さないよ。
ここまでで、選択肢をイとウに絞ることができます。

次に、問題の日本語文中に空欄Cについては「インコタームズに規定がある」とされています。
インコタームズでは「危険負担」の移転について規定している、と知っていれば難なく選べますが、仮に知らなくても「CIFとかFOBとか何やら運賃や保険のことを言っていたな…」レベルの記憶があれば、保険のことを話しているので、危険負担が対象であると判断することが出来ます。
よって、空欄Cには危険負担が入ることになり、正解はと選ぶことができます。

(設問2)正答率 B
こちらは単純なインコタームズの知識です。CIFの内容がわかれば即答出来る問題でした。
インコタームズ (現在はIncoterms2020が最新)とは、売り主の工場から買い主の倉庫に到着するまでの一連の流れの中で、「売り主」がどこまでの費用や危険負担を見るかという点を決めたパターンです。運賃や保険代などの範囲を決めますので、コストに直結し「FOB$150」のように、取引価格を提示する際にも使われます。(これを建値といいます)
あくまで、売り主側からみてどこまで含まれるのか、という視点です

インコタームズはE型〜D型まで、大きく4つの類型に分けられます。

E型
EXW(Ex-Work) :売り主の工場渡し。
⇒運賃も保険も何も含まない。
⇒危険負担も同時に移転

F型
FOB (Free On Board)  船に乗せるとこまで。
FCA(Free Carrier) (買い主指定の)運送業者に渡すところまで。
⇒輸出地側での費用のみ。海上運賃や保険は含まない。
⇒危険負担も同時に移転

C型
CFR (Cost and Freight)  輸入地までの運賃まで。
CIF (Cost, Insurance and Freight)  輸入地までの運賃+保険
⇒輸入地までの運賃は含む。保険は含む/含まないがある。
(注意)危険負担は、F型と同じ輸出地で移転

D型
DDP (Delivery Duty Paid) 買い主の倉庫までお届け
⇒運賃も保険もすべて含む
⇒危険負担も同時に移転

それぞれ、元となる英語が分かっていれば内容は推定できるのですが、図にすると整理しやすいので、こちらでイメージ掴んで頂ければと思います。

※クリックで拡大します

このように、令和元年は英文を読まなくても知識とロジックで十分回答できる問題でした。

次に平成30年を見ていきます。こちらは設問1は「なくてもOK」設問2は「少し必要」(簡単な英単語で解ける)の問題です。

平成30年度

※クリックで拡大します

平成30年は英文の契約書がかなりの長文になりました。見るだけで嫌になりそうです。先程の解き方のステップでも書きましたが、英文の契約書が最初にデーンって出てきても、果敢に読もうとせず、まずは落ち着いて日本語の部分から確認していきましょう。

今回はどのような情報が秘密情報になるか、「開示の仕方」「除外される場合」について、それぞれ設問ごとに問われています。

(設問1)正答率D
「開示の仕方」に関する出題です。まず選択肢を見ていきますと、

は一見正しそうですが、現実的に考えてみると会議などで口頭で伝えた情報で「これ秘密情報ね」と言うだけで対象になるという扱いであれば、後で「言った/言ってない」の話になり厄介です。よって口頭での開示の場合には、後で(〇〇日以内など期限を設けて)書面で秘密情報だと通知することが一般的です。よってこの選択肢は可能性が低いと判断できます。

口頭で開示した情報は秘密情報とはならない、とまで完全否定で書かれると現実的にキツイと思いますので可能性は低いです。

「書面で開示した情報はすべて秘密情報」というのも乱暴です
秘密情報はその保護のために、厳重に保管するや関係のない従業員には知らせない等の制約も課せられますので、書面で渡したものすべては少し言い過ぎ感があります。

よって、「書面開示と口頭開示とで扱いが異なる」が正解になります。(上述のように、口頭開示は記録に残すためにも後で書面で通知必要なことが多い)

(設問2)正答率D
こちらは「除外される場合」に関する出題です。選択肢ア〜エについては、いずれも秘密情報から除外されることが一般的なものばかりです。しかし、問題日本文にも書いてあるように、今回の契約ではこのいずれかが規定されていません(除外されることになっていません)。
いずれも一般的なものなので、選択肢を見ただけでは判断がつかないため問題英文を見ていき、選択肢の内容が含まれているかそれぞれ丁寧に見ていきます。

アンダーラインを引いている箇所を注目してください。まず「Confidentail Infomation …not include 」とありますので、ここに「秘密情報から除外されるもの」が書いてあると判断できます。次に各項目を順番に見ていくと、

(i)「already known to the public 」という部分から「すでにパブリック(公)に知られている」⇒選択肢ウの「既に公知となっていた情報」に該当すると判断できます。

(ⅱ)「become known to the public other than through the fault 」とあり、
「other than: 〜以外で」「fault : 過失(テニスのサーブ失敗のフォールトと同じです)」の意味が取れれば、選択肢イに該当すると判断できます。

(ⅲ)「by the third party」とありますので、「第三者から」という事で、選択肢アが当てはまりそうです。

(ⅳ)「independently developed」とあります。「Independent=独立」「develop=開発」ですので、「独立して開発された(情報)つまり「独自に生み出された情報」を指します。
これは選択肢ア〜エには含まれていません。

一方、選択肢エの「既に保有していた情報」については、上記の(ⅰ)〜(ⅳ)に出てきたキーワード「公知」「第三者」「独自に生み出した」とは合わないものになりますので、エが正解と選ぶことができます。

結果的に(設問1)は秘密保持契約書に関する一般知識から解けて英語力は「なくてもOK」レベル、(設問2)は丁寧に見ていくと簡単な英単語の意味だけで正解が導き出せるので「少し必要」レベルの問題です。

同様に、H29年の(設問1)についても、契約を解約できる場合の一般的な知識から、ア「事業譲渡があった」イ「支配権の移転」ウ「破産の申立て」があったなどは解約条項でよくある条項になりますので、問題文読まずとも、選択肢エが最も怪しいと判断できます。

このように、英文全体を読んで内容を把握しなくても正解や最も怪しい選択肢を判断することができる事が往々にしてあります。

最後に、契約書でよくある条項・内容をまとめてみました。選択肢を見ていく時の参考にして頂けたらと思います。(内容を掴みやすくするために、少し平易な言葉で書いてますので契約書の文言そのままではないです)

秘密情報は
・書類等(有形物)で開示され秘密であると指定されたもの
・口頭等(無形物)で開示され、その後速やかor〇〇日以内に書面で秘密であると指定されたもの
など

下記の場合は秘密情報に含まれない
・秘密情報を受取る前から既に知っていた。
・秘密情報を受け取った際には既に公知だった。
・秘密情報を受け取ったあと、(自ら違反することなく)公知になった。
・第三者から知らされた(第三者も合法的に入手)。
・受け取った秘密情報は使わず、独自に開発した。
※法令により開示を求められた場合は、秘密情報に該当しないor 秘密情報に該当するが開示しても違反ではない。
など

秘密情報の取り扱いについて
・業務を遂行するために必要なメンバーにのみ知らせる。
・開示する場合メンバ−にも同等の秘密保持義務を負わせる。
・秘密情報が必要なくなった場合は、返却する。
など

このような場合には解約できる(解約条項)
・破産したとき、会社更生の手続きをしたとき
・不渡り等支払いに対する不安が発生したとき
・(全体or一部の)事業の譲渡があったとき
・企業の支配権の変更があったとき
・業務停止命令などをうけたとき
・本契約や両者間の他の契約において、債務不履行があった場合
注)この時は債務不履行=即刻解除可能ではなくて、この債務不履行を指摘してもその後〇〇日間以内に改善されない場合、と猶予期間が付く場合はあります。

ライセンスについてよくある条項
・AS IS (現状ベース)の提供なので、使用する側の目的を達成するかはまでは保証しない
・定義された目的以外での動作性までは保証しない
・他社の特許や知財権を侵害しないとは保証しない
・損害が起こっても間接的な損害までは保証しない。
・損害賠償の補償額は支払われたロイヤリティの金額が上限である。
など、ラインセンサー(ライセンスする側)の責任範囲を限定する文言が多いです。

 

今回ご紹介したように、英文問題は契約書の知識や限られた英単語知識のみで得点できる可能性があります。
もちろん、英文をきちんと読むことで、確証を持って答えることが出来ますし出来るに越したことはありませんが、英語が苦手で諦めてしまおう、とされている場合は、「この試験は英語の試験ではなく法務の試験」という点も意識して、契約書に関する知識で解けないか、ぜひトライしていただければ、と思います。

明日は、自身のブログも高いクオリティの記事書いて情報発信力No.1のTomatsuです。お楽しみに!

以上、CKでした。

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【渾身】英文契約書諦めてませんか?(経営法務)”へ2件のコメント

  1. まつい より:

    インコタームズの図、とても分かりやすいですね。この図を見ながら、職場であまり話をしない海外出荷担当の人と話をしました。こういう話のきっかけができるのも診断士の勉強をするメリットの一つですね。
    いい記事をありがとうございます。

    1. CK より:

      まつい様
      コメント有難うございます!試験対策用に思いっきり簡素化して書いてみたのですが、そう言って頂いて光栄です。
      確かに、診断士の勉強すると世界が広がりますよね。私も情シスの担当と少し突っ込んだ話が出来た時など嬉しかった記憶があります。

      大変な日々が続きますが、引き続き頑張ってください!

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