徹底攻略!!経営分析
こんにちは。wackyです。
今日は前回の記事の続きで、経営分析の攻略について記事にしてみました。
前回も書いた通り、事例Ⅳは計算問題で戦うのではなく記述で勝負だと思うのですが、その最たる例が経営分析です。
経営分析は、財務諸表と与件文をもとに財務的な観点で分析します。財務的な分析とは簡単にいうと「財務上の収益性・効率性・安全性」を分析するということです。だから問題点を指摘するのならこの3つの観点で分析する必要があります。これが大きな制約事項。
明確にこの3つの観点で分析すべしとは明記されていませんが、過去の問題を見る限りだとこの3つの観点で分析することを求めているように思えます。
ちなみに経営指標には厳密な定義はないそうですが、よく取り上げられる指標がありますので、その辺は予備校の財務・会計のテキストなどを確認しておいてください。
1.経営分析のセオリー
では、まず経営分析をどのように攻略していくかについてです。
①与件文を効果的に使う
経営分析では与件文が非常に大事です。与件文の中に事例企業が過去どうだったか、どのような施策をおこなってきたか、近年の状況が書かれており、これが経営分析を行う上でヒントになります。財務諸表から問題点を見つけて指標の選択を行っても悪くはないのですが、まずは与件文と照らし合わせて指標を選択するほうがよいと思います。
それにそもそも事例Ⅳの与件文は経営分析のためにあるといっても過言ではないので、しっかりと意味を吟味して使い切りましょう。短い与件文ではありますが、無駄なところはありませんよ。
②記述は問題点と原因、結論をワンセットで
経営分析の記述は問題により要求事項(問題点なのか、長所・短所なのか、問題点の原因なのか)が異なりますが、基本は表題の通り「問題点、原因、結論」をワンセットで考えることが重要です。
それぞれの内容を例を挙げてみると、
※収益性の場合
問題点:売上高減少や利益減少(経費増加)
原因:受注減(売上高減少)、(老朽化による故障続発による)残業対応で労務費増(経費増加)
結論:収益性が低い
こんな感じです。
あらかじめ下記のようなロジックツリーを用意しておいて、あとは与件文から問題点を拾いあてはめれば記述の完成。
原因は一つとは限らないからその辺は臨機応変に対応するとして、このようなツリー構造で問題点とその原因を与件文に探しに行けばおのずと答えは見つかるはず。そしてそれを裏付ける最も適切な指標を選択すればよいというわけ。
③勘定科目は与件文の科目名を使う
分析を行う際には、なるべく与件文の勘定科目を用いたほうが無難です。
たとえば、H20年の事例Ⅳ。設備の老朽化によるメンテナンス費用が増加とあります。設備のメンテナンス費用は一般的には「修繕費用」という勘定科目を使用すると思うのですが、ここは敢えて「メンテナンス費用」と書くほうが無難ですね。
またよくあるのが人件費。「残業対応で人件費が増加」という状況をよく見かけますが、製造原価の問題点を指摘するなら「労務費」、販管費の問題点を指摘するなら「(製造間接費という意味で)人件費」と使い分けしたいです。
まとめて「人件費」としても間違いではないですが、減点となる可能性があります。
④問題点の原因は指標の計算式から考える
ロジックツリーを活用することで問題点とその原因を抽出しやすくなりますが、原因を拾いにいくにあたり経営指標の計算式は意識したほうがよいでしょう。
たとえば、
収益性=利益/売上高
効率性=売上高/資産
安全性=資産と負債、自己資本の比率
この式と指標の大小による良し悪しを踏まえれば、なぜ指標が悪化するかの原因がわかりやすくなります。その辺の詳細は次項にて解説します。
それでは収益性・効率性・安全性のそれぞれについて解説していきます。
2.収益性
収益性の計算式はご存じのとおり利益を売上高で割ることで求められます。収益性の指標は大きいほどよい(利益率が高い=収益性が高い)ということは、「収益性が悪化している」場合は、
①利益が減少している
②売上高が増加している(が利益がさほど増えていない)
が原因と考えられます。
そこで、与件文から上記原因に当てはまりそうな記述を見つけて、先ほどのロジックツリーに当てはめれば記述の論理構造が完成です。
【ありがちな費用増加の要因】
設備が老朽化:故障がちでメンテナンス費用(管理費)がかかる
人件費が固定化:(小売店などで)客が減少しているがアルバイト・パート従業員が一定
過大な設備投資:長期借入金でまかっていれば支払利息の負担増
材料の高騰:製造原価上昇
などなど。こういった記述に敏感になるのも経営分析の訓練の一つです。
そして指標の選択ですが、収益性の場合は「利益が少ない=費用が多い」という構図から、どの費用に問題があるかを見に行けばそんなに難しくはありません。製造原価に問題があれば総利益率、販管費なら営業利益率、特別損失(支払利息)に問題があれば経常利益率が候補となります。収益性は慣れると高い確率で正解できるようになります。
3.効率性
次に効率性ですが効率性の計算式は、売上高を資産で割ることで求められます。効率性の指標は大きいほどよいということは、「効率性が悪化している」場合は、
①売上高が減少している
②資産が増加している(が売上高が変わらないか減少)
が原因と考えられます。
収益性と同様に、効率性でも上記原因に当てはまる記述を見つけに行き記述の完成です。
指標の選択は、分母の資産をどうとらえるかにより決まってきます。オーソドックスなのは、
・有形固定資産(生産設備や土地、自社ビルなど)
・棚卸資産(製品在庫、原材料など)
の2つおよび両方(つまり総資産)です。与件文からいずれかを判断したいところですね。財務諸表の数値から判断するのは非常に危険です。たとえば、H20年の事例Ⅳでは、財務諸表上は棚卸資産が他社に比べて多くなっていますが、与件文からは棚卸資産の増加はうかがえないので、記述が非常に難しくなることから棚卸資産回転率は指摘できないと判断します。
他にも売上債権回転率なんかも考えられますが、与件文から得意先からの債権回収の問題などの記述が読み取れない限りは、財務諸表の数値だけで判断するのは厳しいですね。
【ありがちな資産効率低下の要因】
設備が老朽化:非効率的な生産方式、稼働率の低下
広大な敷地:有効活用されていないと売上高増加につながらない
設備の歩留まり低下:原材料の保管増→棚卸増加
製品ライフサイクルの短縮:売れ残り増加→棚卸資産増加
4.安全性
最後に安全性です。安全性では資産と負債と自己資本のバランスをみて短期的・長期的な安全性をみようとするものです。また返済義務がない自己資本と負債のバランスをみて、資本調達の観点から安全性を見ることもできます。
まずは短期安全性。これは目先の支払い能力の高さを見るもので流動資産を流動負債で割ることで求められます。つまり1年以内に支払う負債を支払うための、現金と同等(短期換金可能)の資産があるかどうかがわかります。短期安全性が悪化している場合は、
①流動資産が減少
②流動負債が増加
が原因と考えられます。
与件文から短期借り入れが増加する要因や、多くの現金を必要とする記述があれば短期安全性を疑ってもよいでしょう。
指標の選択ですが、短期安全性の悪化の要因が現金相当資産の減少か短期借入金の増加なら流動比率、棚卸資産の増加なら当座比率でいいと思います。棚卸資産が増加するまたは過大な状況で、流動比率が100%以上で当座比率が100%未満なら当座比率でいいと思います。
【ありがちな短期安全性低下の要因】
運転資金の増加:運転資金の不足を短期借入金でまかなう
原材料費の高騰(価格転嫁できず):原材料の購入により多くの現金が必要
当期純損失を計上:不足分を短期借入でまかなう
次に長期安全性です。
長期安全性は資産と負債と自己資本のバランスをみて、長期的な安全性をみるものです。
長期安全性が低下する要因としては、
①固定資産の増加:固定比率か固定長期適合比率
②負債の増加:負債比率
③自己資本の減少:自己資本比率
が挙げられるのですが、要因と指標がセットになっているので、与件文から要因をみつけて指標を選択すればよいと思います。
【ありがちな長期安全性低下の要因】
設備導入の費用を内部留保ではなく長期借入で賄う:負債の増加、相対的な自己資本の低下
5.おまけ
最後のおまけですが、昨年の私の経営分析の再現答案を公開します。
①収益性
売上高経常利益率
積極的な技術開発と設備投資で安定的な受注を獲得し、大規模なリストラ実施で費用圧縮し収益性が高いことが長所である。
②安全性
負債比率
安定的な受注で内部留保を蓄え、設備投資を借入金で調達せず内部留保で賄い借入依存度が低下し安全性が高まった事が長所である。
③効率性
有形固定資産回転率
生産設備の生産能力余裕があるが、大規模なリストラクチャリングにより遊休資産の処分を行い資産効率性が高いことが長所である。
※指標の数値はあっていたので省略します。
うーん微妙です
以前JCがこの記事で言っていましたが、本試験の経営分析は曖昧で根拠が見えにくいのでまぁこんなもんかなと思います。要求は「長所または短所」となるのに全部長所を指摘するのは非常に勇気がいりました。収益性と安全性が長所はすぐわかりましたが、最後まで悩んだのは効率性。与件文からは短所、財務諸表からは長所が読み取れるのですが、数値が同業他社に比べてよいのに短所とは指摘しづらく結局長所にしました。
見て分かるように、記述のフレームを作ってそこにキーワードを当てはめていました。このフレームをいくつか持っておくことで経営分析の記述は安定しましたし、時間も安定(私の場合は15分から20分)して、計算問題に集中することができました。
何かの参考になれば幸いです。
6.おまけ(その2)
spy-game様からいただいたコメントが非常に興味深かったので、おまけで記事を追加したいと思います。
事例Ⅰ~Ⅲでは要求解釈が重要と言われますが、事例Ⅳでは言われませんね。それは比較的要求がわかりやすいからですが、それでも改めて経営分析の設問分を読むと意外と小難しい日本語になっていますね。
それではH22年事例Ⅳを題材に簡単に解説してみます。
H22年度事例Ⅳ 第1問
D社の平成21年度の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比べたこの企業の財務上の長所または短所のうち、重要と思われるものを3つ取り上げよ。その各々について、長所または短所の根拠を最も的確に示す経営指標1つあげて、その名称を(a)欄に示し、経営指標値を計算して(b)欄に示した上で、その長所または短所について、D社のこれまでの経営状況に照らして(c)欄に60字以内で説明せよ。
まず前半の文では、「経営分析を行い」「同業他社と比べた」「長所または短所」「重要と思われるもの3つ」がキラーワードでしょうか。経営分析を行うことが制約なので、マーケティングや経営戦略の観点で記述してはいけません。また同業他社と比べることも制約になるので、単に長所・短所を取り上げるのではなく、比較して良い・悪いを記述することが大事です。最後は3つとあるので数は守りましょう。
次に後半の文章。「長所または短所の根拠を最も的確に示す経営指標を1つ」「D社のこれまでの経営状況に照らして」「長所または短所について~説明せよ」この辺がキラーワードですね。
前半の文章に出てきた長所・短所について、これまでの経営状況(つまり過去なので与件文に記載がある)に要因を求めながら説明することが必要です。
では要求の分析ですが、まず前半の文章から長所・短所を取り上げなければならないことがわかります。ここでいう長所・短所とは、
・収益性が高いor低い
・効率性が高いor低い
・安全性が高いor低い
となります。
そして後半の文章で説明せよとなっているので記述の結論は、
「○○性が高い(低い)ことが長所(短所)である」となりそうです。
また「経営状況に照らして」が制約なので、
「(今までやってきたこと)により(長所・短所を引き起こす要因)が生じ~」
という論理構成が適切と思われます。
つまり1.②で挙げた「原因・問題点・結論のワンセット」でいうと、
原因:(今までやってきたこと)
問題点:(長所・短所を引き起こす要因)
結論:○○性が高い(低い)ことが長所(短所)である
となりますね。
ここまでが要求解釈。そして与件文を読んで、長所・短所にあたりをつけてから、経営指標を実際に計算して裏付けとなるかどうかを確認して終了です。
つまり、記述ありきの指標で、指標ありきの記述ではないのです。
とにかく事例Ⅳはまずは経営分析。多くの問題を研究してどう記述するか自分なりの引き出しを持っていてください。
長文の記事を最後まで読んでいただきありがとうございました
by wacky
ありがとうございます。
特に記述が書きやすくなりました。
>spy-gamesさん
とても興味深いコメントありがとうございました。
疑問は解消できましたでしょうか?
簡単にコメントすると、まずは与件文から長所・短所となりそうなものを見つけて経営指標で裏付けをとる。与件から見つからない場合は、財務諸表をみて長所・短所となりそうな要素をみつけて、経営指標を計算して裏付けをとるという感じでした。慣れてくると財務諸表の見るポイントがわかってきます。
ぜひ頑張ってください!!
財務が苦手で2次の範囲では経営分析、CF、CVPで稼ぎ設備投資や経済性計算、確率は出てくるなと思っている私には朗報で、参考になりました。
経営分析の記述の確認なのですが、長所・短所・問題点等に対しての根拠を最も的確に示す指標…とあるから、経営分析の数値で悪かった所より、
与件から問題点とその原因を探して、それにあう的確な指標を選ぶのが基本で、もし見つからない場合には経営分析して、悪い数値の中から、与件文で理由を探すという理解でよろしいですか?
国語の問題なのでしょうが、あまり設問の細かい日本語を理解せず、財務の問題だから、先に財務諸表を見て問題点等を探していた私は、与件に記載がある場合が前提なのでしょうが、スッキリしまだその視点で過去問解いていないのですが、経営分析が簡単な問題に感じてきました。
ありがとうございます。
>yamadaさん
ご指摘ありがとうございます。
結論から言うと記述はあっていますが、誤解を招く記載となっています。
流動比率は100%以上だが当座比率が100%を切るなら、棚卸資産の存在が安全性悪化の要因と考えられます。
そういうことを言いたかったのですが、誤解を与える記述となってしまいました。申し訳ありません。
また改めて修正します。
素早いご指摘感謝です。
安全性の個所で、流動比率と当座比率が逆だと思いますが。棚卸資産増加が当座比率となっているの個所です。私の知識が間違っていれば、ご指摘ください。合っていれば、このコメントは削除してください。