【経済学】 平成27年度一次試験 第11問

 

こんにちは、 Xレイ です。

前々回、前回に引き続き、経済学です。

前々回は、平成25年度の第13問で異時点間の消費
前回は、平成26年度の第13問で労働需要曲線
ここ3年の出題から、正答率の低そうな設問の関連領域をみてきたつもりですが、今回で最終回。

平成27年度の第11問。
新古典派の経済成長理論、ソロー・モデルと呼ばれるものです。

平成25年度第11問
もほぼ同じような設問ですが、過去問題集でこれらを詳しく解説しているものはないと思います。別段、どういったものか知らなくてもいいので当然です。

にもかかわらずあえて題材として取り上げたのは、設問のグラフを導く際に、生産関数やその他若干のマクロ経済学知識を使うのですが、そこをみておくのはどうかと思ったからです。

特に生産関数
中小企業診断士テキストでは、費用最小化問題(等量曲線)、生産要素市場といった領域を詳しく扱っていないので、どうしても生産関数に対する理解が甘くなってしまいます。
主催者側はもちろんそれを承知で、平成27年度の第16問のような出題をしてきます。

前半、その生産関数に触れています。
中盤以降は数式も多く、少々ややこしくなりますが興味のある方は。この設問は、なかなか面白い結論を導き出しています。

 

平成27年度経済学 第11問

昨今、外国人労働者の受け入れの是非が議論されている。

2種類の生産要素、資本$K$ と労働$N$ を用いて、生産$Y$ が行われる。

資本と労働、そして生産との関係を、労働 1単位あたりの資本と労働 1単位あたりの生産との対応関係である、次の生産関数で表す。
$y=f(k)$
ここで$k=K/N$は資本・労働比率を、$y$ は労働 単位あたりの生産量を表している。

また、労働供給は一定率$n$で増加し、常に完全雇用が実現しているとする。また人々は、所得の一定割合 $s$  を常に貯蓄するとする。

新古典派の経済成長モデルの下図を参照した上で、外国人労働者の継続的な受け入れによる労働成長率の上昇が、定常状態における資本・労働比率と労働 1単位あたり生産量に与える影響に関する記述として、最も適切なものを下記の解答群から選べ。
ただし $k1$ は、定常状態の資本・労働比率を表している。

〔解答群〕
ア 資本・労働比率は上昇し、労働 単位あたり生産量は減少する。
イ 資本・労働比率は上昇し、労働 単位あたり生産量は増加する。
ウ 資本・労働比率は低下し、労働 単位あたり生産量は減少する。
エ 資本・労働比率は低下し、労働 単位あたり生産量は増加する。

————————————————————————

 

さて、これは一体何かと言いますと、
“長期的にみた一国の経済成長の問題” です。

この部分が問われているのですが、要するに、
『労働人口の増加率が、その国の労働者1人当りの資本ストックと生産量に、どのような影響を及ぼすのか考えてみましょう。』ということです。

補足して言い換えると
『一国の労働者1人当たりの生産量、すなわち、労働1単位当りのGDPは、その国の豊かさを表し、労働1単位当りの資本ストックによって決まるのも仮定する。その国の経済が成長し、それが年々増加していく方がもちろん望ましいが、労働人口の増加率が一体そこにどういった影響を及ぼすのか考えてみましょう。』
といった感じです。

すなわち根底にあるのは、
労働1単位当りのGDP(生産量)で経済成長を考えよう
ということです。

と言われても・・・ですね。

 

設問文の赤字部分

まず、
2種類の生産要素、資本$K$ と労働$N$ を用いて、生産$Y$ が行われる
と書いてあります。

これは
$Y=F(K,N)$ ・・・
という生産関数を仮定しているということです。

①ですが、$Y$、$K$、$N$はすべて一国全体の値で、マクロ生産関数と呼ばれます。この国の生産量が、国全体の資本ストックと労働量の2つの要素で決まるということです。(ちなみに資本ストックとは“設備の量”のこと)

次に、
資本と労働、そして生産との関係を、労働 1単位あたりの資本と労働 1単位あたりの生産との対応関係である、次の生産関数で表す。
と書いてあります。

これは、上の①式を基にして、
“労働1単位当り(労働者1人当り)の資本ストックと生産量の関係”
を導き、考えていきたい、ということです。

例えば、一国全体のGDPが2%増加したとしても、労働人口が3%増えたのなら、結果、労働1単位当りのGDPは減少してしまいます。そのような考察をするよりも、あらかじめ労働1単位当りで考えた方が話が早いということです。繰り返しますが、いま、労働1単位当りのGDP(生産量)で経済成長を考えようとしています。

それでは、やってみます。

設問文には書かれていないのですが、このモデルにおける生産関数は
1、規模に関して収穫一定
2、資本、労働の限界生産力逓減
という2つの性質を満たすと仮定しています。
要するに、①の生産関数がこの2つの性質を満たします。

ここでは、1、規模に関して収穫一定 という性質を使います。

これは、任意の$λ$($λ$>0)に対して
$λY=F(λK,λN)$
が成り立つということです。
(この条件を満たす関数を一次同次関数といいます)

要するに、資本$K$ と労働$N$をそれぞれ2倍にすると、生産量$Y$も2倍になる。例えると、設備の量とそれを使える労働者が共に2倍になると、生産量も2倍になる。これが、規模に関して収穫一定ということです。

そこで、$λ$($λ$>0)は任意、つまり、正の数なら何でもいいといっているので、$λ=1/N$として、①式を変形してみると
$Y/N=F(K/N,1)$
となります。この、
右辺の$K/N$が、資本・労働比率(労働1単位当りの資本)
左辺の$Y/N$が、労働1単位当りの生産量
を表しています。

そこで設問文に
$k=K/N$は資本・労働比率を、$y$ は労働 単位あたりの生産量を
と書いてあるので、その通り$k=K/N$、$y=Y/N$と置き換えると
$y=F(k,1)$

独立変数は$k$ひとつとなっているので関数自体を書き換えて
$y=f(k)$ ・・・

この②式が、設問文の生産関数で、当初の目的、労働1単位当り(労働者1人当り)の資本ストックと生産量の関係を表すことに成功しています。

②式を先の 2、資本、労働の限界生産力逓減 という性質を使って図示してみると

図1

このような形状となります。(前回を参考にして下さい)
これは、言うまでもなく設問のグラフの一つ $f(k)$ のことです。

まずはここまでが設問文の赤字部分です。

 

ちなみに、①のように資本と労働を2生産要素とする生産関数は、経済学では頻繁にでてきます。そして、コブダグラス型で表されることも多いのですが、そのコブダグラス型というのは
$Y=K^aN^b$
という型をしている関数です。

その関数式で、$a+b=1$(0<$a$<1,0<$b$<1)となっているとき
1、規模に関して収穫一定
2、資本、労働の限界生産力逓減
という2つの性質を同時に満たします。

冒頭で触れた、平成27年度 第16問 の生産関数がそれです。
その設問は、別段計算させたい訳ではなく、この知識を知っているかといっています。

 

設問文の青字部分

しつこく繰り返しますが、いま、労働1単位当りの生産量で経済成長を考えようとしています。
つまり、一定期間における労働1単位当りの生産量の増加量を経済成長として考えよういうことです。

前段の②式や図1で確認したように、労働1単位当りの生産量は資本・労働比率によって決まります。
ということは、いま考えるべき労働1単位当りの生産量の増加量も、資本・労働比率の増加量によって決まるということです。

ならば、その一定期間における資本・労働比率の増加量を考えてみましょう。

先ほどもみたように設問の赤字部分では、資本・労働比率を
$k=K/N$

と表していました。
これから以下の式が近似的に成り立ちます。
$Δk/k=ΔK/K-ΔN/N$ ・・・③ ($Δ$は変化量を表す)
(これは大変便利な公式のようなものです)

式の各項は変化率(増加率)を表しているのですが、
左辺の$Δk$が、一定期間における資本・労働比率の増加量を表しています。

なので、③を変形し最終的に$Δk=$・・・とすることができれば、
一定期間における資本・労働比率の増加量がどのように決まるのかが分かります。(いま、両辺に$k$をかけてもイマイチよく分かりません)

それでは、設問文の青字部分を使ってやってみます。

まず、
労働供給は一定率$n$で増加し
と書いてあります。
これは要するに、労働成長率が$n$だと言っています。

労働成長率とは労働人口の増加率、つまり、$ΔN/N$のこと。
これは、式の右辺第2項そのままです。
よって、式の右辺第2項は
$ΔN/N=n$ ・・・
と置き換えられます。

次は、③式の右辺第1項の変形です。
人々は、所得の一定割合 $s$  を常に貯蓄する
と書いてあります。
要するに貯蓄率が$s$だと言っています。

ならば、貯蓄を$S$とすると、
$S=sY$
また、財市場が均衡しているとき、貯蓄$S$と投資$I$は等しいとされるので
$S=I$
さらに、投資$I$は資本ストックの増加量$ΔK$と等しいとされるので
$I=ΔK$
以上より
$ΔK=sY$ ・・・
(ここは少々知識が必要ですが、中小企業診断士テキストでも所々で説明している範囲内だと思います)

このを使って、③式の右辺第1項$ΔK/K$を変形してみます。

まずは、$ΔK/K$に⑤をそのまま代入して
=$sY/K$
分子と分母を共に$N$で割ると
=$(sY/N)/(K/N)$
それに、$y=Y/N$、$k=K/N$
を代入して
=$sy/k$
さらに、②式$y=f(k)$を代入して
=$sf(k)/k$
よって、③式の右辺第1項は
$ΔK/K=sf(k)/k$ ・・・
と置き換えられます。

 

さてそれでは、今一度③式。
$Δk/k=ΔK/K-ΔN/N$ ・・・
これを変形します。

右辺に④、⑥を代入し
$Δk/k=sf(k)/k-n$

両辺に$k$を掛けて
$Δk=sf(k)-nk$ ・・・

当初の目的、$Δk=$・・・と表すことに成功しています。
つまりこの式が、一定期間における資本・労働比率の増加量を表していて、それは、共に$k$の関数である$sf(k)$$nk$の差に等しいといっています。

そしてこれから、一定期間における資本・労働比率の増加量が分かれば、②式や図1からそれに対応する労働1単位当りの生産量の増加量も分かる。それを経済成長として考えようということです。

 

それでは、一定期間における資本・労働比率の増加量、つまり、⑦式をグラフで考えてみましょう。

図2

これが、設問のグラフ$sf(k)$$nk$です。

図3

例えばいま、資本・労働比率がk’の状態にあったします。すると、次の期間までに赤線の分だけそれが増加するということになります。

図4

すると次の期間の資本・労働比率は、赤線の分だけ右に移動しk”となります。
そのまた次の期間はどうでしょうか。今度は図4の青線の分だけそれは増加し、さらに右へ移動します。

と進めていくと

図5

いずれ$sf(k)$$nk$の交点$k$1で資本・労働比率は変化しなくなります(定常状態)。

これが設問文の最後
$k1$ は、定常状態の資本・労働比率を表している。
の意味するところです。

 

そして、その定常状態のときの労働1単位当りの生産量も分かるように、図1と図5を併せて描いてみると

図6

設問のグラフそのものです。

すなわちこのグラフは、$sf(k)$$nk$が定常状態の資本・労働比率$k$1を決定し、その$k$1$f(k)$からそのときの労働1単位当りの生産量を読み取る、という図式となっています。
なので、縦軸の「労働1単位あたりの生産量」というのは$f(k)$のみに対応するもので、他の2曲線(直線)に関しては、強いて言うならば
「投資(量)」となるものと思います。($sf(k)$が労働1単位当りの投資、$nk$が現状の資本・労働比率を維持するのに必要な投資)

 

解答

以下は、文章のみで簡潔に。

結果このモデルは
“一国の経済は長期均衡する”
といっています。

先のように、この議論での経済成長とは、労働1単位当りのGDPの増加量のことで、それは資本・労働比率の増加量に依存する。その資本・労働比率は、いずれ定常状態から変化しなくなる。ならば、労働1単位当りのGDPも変化しなくなり、経済は均衡してしまう

よって、そこからさらに成長したいのであれば、技術進歩によって生産関数を上方にシフトさせるしかない。($f(k)$が上方シフトすると$sf(k)$も同じく上方シフト。よって$nk$との交点は右に移動。)

ということになるのです。

これが、新古典派の経済成長理論、ソロー・モデルです。
(一つ注意するのは、均衡するのは労働1単位当りのGDPです。国全体のGDPは、労働成長率に伴って増加していきます。)

ちなみに、「技術進歩がなくても永続的な成長を示せる」というのが、前回も触れた内生的成長モデル(AKモデル)。それは「資本の限界生産力を一定」と仮定することによって説明を可能としているのですが、それらの点がソロー・モデルと決定的に違うところなので、AKモデルではまずはそこを問われるはずだと指摘をしました。

 

ともかく、本設問では「労働成長率$n$の上昇によってどうなるか」というのですが。

あとは関数の問題です。
$nk$の傾きが急になるので、$k$1は左に移動。
よって$f(k)$の値は減少する。

すなわち、
【答え】ウ 資本・労働比率は低下し、労働 単位あたり生産量は減少する
ということになります。
結局、以上の知識を全く知らなくても解答は導けます。

さておきまして、これは、他の条件が同じならば定常状態では「労働成長率の高い国ほど豊かではない」といっています。

そして本設問は、
昨今、外国人労働者の受け入れの是非が議論されている』けれども、このモデルが正しいのならば『外国人労働者の継続的な受け入れによる労働成長率の上昇』は、いずれ日本国民一人当たりのGDPを減少させてしまうのではないですか?
と言いたいわけです。

 

最後は余談ですが、このモデルは、戦後の日本の高度経済成長を説明できる、とも言われています。

つまりこのモデルによると、戦争によって短期間に大量の資本ストックを失い資本・労働比率が一度大幅に低下すると、そこから再び定常状態に向かうとき、貯蓄率が高いほど瞬間的に大きな経済成長を経験できる、ということになります。

設問のグラフでいうと、仮に戦前は定常状態の$k1$だったとして、戦争で大量の資本ストックを失い資本・労働比率が一度大きく左に移動する。もちろんそこでは、一旦著しく生活水準が低下することは言うまでもありません。しかしその後、再び定常状態$k1$に向かうとき、途中非常に大きな資本・労働比率の増加すなわち単位当りGDPの増加を経験できる、ということになるのです。

要するに、高度経済成長は起こるべくして起こったものだと。

 

長くなりましたが、以上です。

それでは、また。  Xレイ

 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です