【渾身・法務】相続と事業承継

みなさん,こんにちは。 はんたです。

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1 事業承継

昨年度の二次試験事例Ⅳでは,事業承継の問題が出ました。
現在,中小企業の経営者の高齢化が進んでいて,これからの世代交代は避けられない情勢です。
また,廃業率が開業率を上回る状況が続いていて,経済活力を維持増強するためには,日本経済の基盤となっている中小企業を減らさないようにする必要があります。
そこで,事業承継問題に注目が集まっています。
昨年度の事例Ⅳでは,親族外承継の問題でした。
本日は,【渾身・法務】のシリーズとして,親族内承継で,1次試験に出題されそうな論点をまとめてみたいと思います。

 

 

 

2 相続

経営者が死亡すると,相続が始まります。
相続からみの出題のポイントは,以下の3つです。

①誰が相続人になるのか
②法定相続分
③遺留分 

①誰が相続人になるのか
まず,被相続人(死亡した人)の配偶者は必ず相続人になります。
次に,被相続人の子→直系尊属(通常は,父母)→兄弟姉妹の順番に優先順位が決まっています。つまり,子がいるときは,父母は相続人になれません。兄弟姉妹が相続人になれるのは,被相続人に子がなく,父母も既に死亡している場合です。
ただし,代襲相続という制度があります。 被相続人の子が先に死亡していた場合は,孫が相続人になれます。兄弟姉妹が先に死亡していた場合は,甥姪が相続人になれます。しかし,父母が先に死亡していた場合には代襲相続にはなりません。

具体例(自分で家系図を書くことをおすすめします)括弧内をドラッグすると答えが分かります。

ア 一郎と花子が結婚して,その間にとんきち,ちんぺい,かんたの3人の子がいる。一郎の両親の太郎と松子は健在である。一郎には,次郎という弟がいる。もし一郎が死亡した場合,相続人は,(花子ととんきち,ちんぺい,かんた)である。

イ 一郎と花子が結婚して,その間にとんきち,ちんぺい,かんたの3人の子がいる。一郎の両親の太郎と松子は健在である。一郎には,次郎という弟がいる。花子は先年に死亡している。もし一郎が死亡した場合,相続人は,(とんきち,ちんぺい,かんた)である。

ウ 一郎と花子が結婚したが,その間に子はない。一郎の両親の太郎と松子は健在である。。一郎には次郎という弟がいる。もし,一郎が死亡した場合,相続人は,(花子と太郎・松子)である。

エ 一郎と花子が結婚して,その間にとんきち,ちんぺい,かんたの3人の子がいる。しかし,とんきちは既に死亡しており,その子(一郎からみれば孫)のえいきちとえいこがいる。一郎の両親は既に死亡している。一郎には,次郎という弟がいる。もし,一郎が死亡した場合,相続人は,(花子,ちんぺい,かんた,えいきち,えいこ)である。

オ 一郎と花子が結婚した,その間に子はない。一郎の両親は既に死亡している。一郎には,次郎という弟がいる。もし,一郎が死亡した場合,相続人は,(花子と次郎)である。
②法定相続分
 次に,法定相続分です。これは,まず,配偶者の法定相続分を押さえましよう。
 2分の1→3分の2→4分の3   
2分の1から始まって,分母と分子が1ずつ増えていくと覚えましょう。
 配偶者と子が相続人になる場合       配偶者が2分の1
 配偶者と父母が相続人になる場合      配偶者が3分の2 
 配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合   配偶者が4分の3

そして,配偶者以外の相続人は,配偶者の相続分を控除した残りを平等に分けることになります。
代襲相続の場合は,被代襲者の相続分を代襲者が分けることになります。(注:嫡出子でない子の相続分は、嫡出子である子の相続分の2分の1とする定めがありますが、憲法違反とする説が強い上、診断士試験では出題されないと思いますので、無視して構わないと思います。※2013年9月4日追記:最高裁判所は,上記の定めは憲法違反であると判断しました。)
上記の具体例を前提とすると,
ア 花子が(2分の1),とんきち,ちんぺい,かんたはそれぞれ6分の1)ずつ

イ とんきち,ちんぺい,かんたはそれぞれ(3分の1)ずつ

ウ  花子が(3分の2),太郎と松子は,それぞれ(6分の1)ずつ

エ 花子が(2分の1),ちんぺい,かんたはそれぞれ(6分の1)ずつ,えいきちとえいこはそれぞれ(12分の1)ずつ

オ 花子が(4分の3),次郎は(4分の1

③遺留分

 遺言で自分の死後に自分の財産の処分を指定することができますが,一定の相続人のためには,必ず留保されなければならない遺産の割合が決められています。それが遺留分です。
まず,兄弟姉妹には遺留分がありません
そして,父母(直系尊属)のみが相続人になる 場合は,遺留分は相続財産の3分の1
その他の場合,遺留分は相続財産の2分の1
 となりますが,相続人が父母のみ(配偶者と子孫がいない)という問題が出題される確率は低いと思われますので,
 遺留分は2分の1
とおさえておけばよいと思います。
そして,各相続人ごとの遺留分は,2分の1に法定相続分を乗じた割合になります。

注意しておく場合としては,上記のオの場合,一郎が全財産を他人のものにするという遺言をした場合,花子は遺留分(8分の3)を主張することができますが,次郎は遺留分を主張することはできません

 

3 自社株の承継

 中小企業はほとんとの場合,オーナー経営(経営者が自社株を所有している)です。もし,相続人が複数いる場合に,経営者が事業承継の準備をしないまま死亡すると,自社株が遺産分割の対象となります。しかし,遺産分割になると,①上で説明したとおり,法定相続分を前提として遺産分割が行われると,後継者に自社株を集中して承継させることが難しくなる,②遺産分割でもめると,解決まで時間がかかり,その間,後継者の経営権も安定せず,円滑,迅速な承継を行うことが難しくなる,という問題点があります。例えば,上記アの場合で,一郎の財産は自社株しかなく,とんきちに事業を承継させたい場合でも,何の準備もしていなければ,法定相続分にしたがって分割されると,とんきちは,6分の1しか自社株を承継することができなくなります。

そこで,次のような事前準備の方法が考えられます。

①売買
一郎が生前に,自社株をとんきちに売買する方法です。経営権も安定するし,迅速・円滑に代替わりができますが,とんきちは,売買代金を用意する必要があります。また,代金が自社株の価値相応ならばよいのですが,低すぎると,差額分に贈与税がかかったり,後で遺留分減殺の対象となったりするおそれがあります。

②生前贈与
一郎が生前に,自社株をとんきちに贈与する方法です。 迅速・円滑に代替わりができますが,贈与税がかかります(通常,贈与税は相続税よりも高額になります。)。また,後で遺留分減殺請求の対象となるおそれがあります。

③遺言
 一郎が,自社株をとんきちのものにするとの遺言をする方法です。契約ではなくて,一郎が単独でできます。しかし,遺言の執行には時間がかかります遺留分減殺請求の対象となるおそれがあります。相続税がかかります。

結局,どうしても遺留分の問題を避けることは難しいのが分かります。そこで,

④経営承継円滑化法による遺留分に関する民法の特例
 があります。これは,後継者が先代から生前贈与された自社株式について,遺留分のある相続人全員で,除外合意あるいは固定合意をすることができるという制度です。上のアの例で言えば,一郎がとんきちに自社株を生前贈与して,花子,とんきち,ちんぺい,かんたの全員で合意をします。

除外合意とは,生前贈与された自社株式を遺留分の計算から除外すると合意することです。これによって,自社株式が遺留分減殺請求の対象から外れることになり,自社株式をとんきちに集中して承継させることができます。

固定合意とは,遺留分の計算の際に考慮する生前贈与された自社株式の価値を,合意時の時価(ただし,弁護士,公認会計士,税理士などの証明が必要)に固定することを合意することです。こうしておくと,とんきちが会社経営をうまくやって自社株式の価値が上がったとしても,遺留分の計算においては合意時の低い価値のままで計算されるので,減殺される割合が少なくなって,とんきちが自社株を持ち続けることができるようになります。

ただし,経済産業大臣の確認家庭裁判所の許可が必要であり,手続きが煩雑です。また,相続人全員の合意が必要ですから,もともと相続人の仲が良くない場合は話がまとまらずに使えないということになります。

 

4 会社法

次に,会社法上の制度の利用が考えられます。

①議決権制限株式
議決権制限株式とは,株主総会における議決権が完全にあるいは一定の事項について制限された株式のことです。上記アの例で言えば,一郎の時代にうちに,普通株式と議決権制限株式を発行しておき,とんきちには普通株式を贈与,遺言などで承継させ,他の相続人には議決権制限株式を承継させるようにすることが考えられます。こうすれば,とんきちが株主総会を牛耳ることができて,とんきちが経営権を確保することができます。

 ②相続人等に対する売り渡し請求
相続人等に対する売り渡し請求とは, 相続などの一般承継によって取得された譲渡制限株式に対し,会社が売り渡し請求をすることができるという制度です。これによって,相続などで会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐことができます。
上の例であれば,とんきちには,遺留分を侵害しない程度に,売買,贈与などの特定承継の方法によって自社株を承継させ,他の相続人には相続で自社株を承継させると,他の相続人が承継した自社株だけが売り渡し請求の対象となります。ただし,会社に自社株を買い取ることができるだけの分配可能額が必要となります。

 

5 最後に

本日は,事業承継という観点から,民法の相続と会社法の制度について,関係する論点をまとめてみました。
自分の受験時代を振り返っても,法務は,似たような言葉で,抽象的な専門用語が出てきて,覚えては忘れ,覚えては忘れを繰り返していました。
そこで,その制度がどのような場面で使われるのか,もっと明確に言えば,どのような場面で使えるのかを意識しながら学習することで,少しでも記憶に定着させる手がかりになると思います

by はんた

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【渾身・法務】相続と事業承継”へ4件のコメント

  1. はんた より:

    おと様,
    いつも道場記事をご愛読いただきましてありがとうございます。
    診断士試験は範囲が広いので,他の科目も含めて,想定外の問題が出題されることは仕方がありませんが,8割の範囲を8割正解できれば合格できます。ですので,アウトプットを繰り返して知識の定着を図ることは試験対策の王道を歩んでいると思います。
    今の時期はいわゆる怒涛の7週間で,つらく感じる時期ですが,ここを充実して乗り越えれば,合格する実力をつけることができますよ。
    応援しています。

  2. おと より:

    はんた様

    相続に関する記事ありがとうございます。

    昨年の法務の本試験でも、相続に関する問題がありました。

    当時の私は、会社法と知財はしっかりと準備をしていたものの、相続に関しては全くの想定外であったため、設問を読んだだけで、あわててしまい、60点に到達しませんでした(泣)。

    今年は相続についても準備はしているものの、この記事のおかげで頭の整理ができました。

    ありがとうございます。

    本試験まであと74日。
    毎日、アウトプットの繰り返しで、知識の抜け穴をうめています。

    毎回、このブログには、お世話になりっぱなしです。本当にありがとうございます。

    おと

  3. はんた より:

    みやっち様、コメントありがとうございます!
    このような反響のコメントをいただけると、筆者としても嬉しくなります。おっしゃるとおり、これまでの相続がらみの出題は多くありませんでしたが、事業の継承という観点からすると、今後は出題が増えるかもしれないと思ってこの記事を書きました。ただ、法務の頻出分野は会社法と知的財産なので、そちらもしっかり抑えてくださいね。
    応援しています!

  4. みやっち より:

    はじめて書き込みします。
    初学者のみやっちと申します。

    相続の範囲は難しく、
    また診断士の試験に必要ないのではと思いこみ、
    さらっと流そうと考えていたところで、
    はんたさんの記事を読み考えが改まりました。
    財産の分配比率と、事業継承にともなう障害、
    そしてそれを軽減する方々は
    きっちり落とし込みたいです。
    ありがとうございます!

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