【美しき過去事例の変遷③】事例Ⅲの19年は「工場と取引先」のドキュメンタリーだった ~過去問19年(H19-R7)の時代背景とテーマ~ byすーじー

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- 1. 第1章 C社19年の全記録
- 2. 第2章 19年のドキュメンタリー(五幕構成)
- 2.1. 第一幕 H19〜H21「好調のかげりと、デジタルの入口」
- 2.1.1. 第1話 H19(2007):印刷会社は、情報を預かる会社になれるか
- 2.1.2. 第2話 H20(2008):年率10%成長に、かげりが見えた
- 2.1.3. 第3話 H21(2009):170アイテムが生んだ、在庫と欠品の同居
- 2.2. 第二幕 H22〜H25「取引先が海を渡った」
- 2.2.1. 第4話 H22(2010):家電を失い、自動車で立ち直り、中国へ
- 2.2.2. 第5話 H23(2011):OEMの天井と、自社ブランドの壁
- 2.2.3. 第6話 H24(2012):スーパーの加工部門は、外食のセントラルキッチンになれるか
- 2.2.4. 第7話 H25(2013):関西の会社は、首都圏を攻められるか
- 2.3. 第三幕 H26〜H30「集約と選別、人が来ない工場」
- 2.3.1. 第8話 H26(2014):選ばれた先に待っていた、1週間の納期
- 2.3.2. 第9話 H27(2015):投資してきた工程は、ネックではなかった
- 2.3.3. 第10話 H28(2016):限界利益がマイナスの工場
- 2.3.4. 第11話 H29(2017):ITに強い後継者と、木工加工機
- 2.3.5. 第12話 H30(2018):工業団地の仲間と、自前の金型で乗り越えた
- 2.4. 第四幕 R1〜R3「かんばん、注記、手縫い」
- 2.4.1. 第13話 R1(2019):外注かんばんと、人が採れない前提の新工場
- 2.4.2. 第14話 R2(2020):納期遅延の正体は、運搬と歩行だった
- 2.4.3. 第15話 R3(2021):職人の手縫いか、分業と標準化か
- 2.5. 第五幕 R4〜R7「戻ってきた仕事、上がり続けるコスト」
- 2.5.1. 第16話 R4(2022):コロナが、事例Ⅲの与件に初めて書かれた年
- 2.5.2. 第17話 R5(2023):受注は戻ったが、人は戻らなかった
- 2.5.3. 第18話 R6(2024):戻ってきた仕事と、追いつかない価格
- 2.5.4. 第19話 R7(2025):2024年問題と、ホワイトボード
- 3. 第3章 データで見る事例Ⅲの19年
- 3.1. 3-1 第1問は、ほぼ毎年「C社の今」を問う
- 3.2. 3-2 「中小企業診断士として」「助言」の文言
- 3.3. 3-3 「この設備、買ってよいか」という相談
- 3.4. 3-4 図表
- 3.5. 3-5 規模のレンジ
- 4. 第4章 19年変わらない診断・助言のために意識しておくべき軸
- 5. おわりに
平成22年度のC社は、取引先から「一緒に中国へ出てほしい」と言われていました。 令和6年度のC社は、その取引先が中国から国内に戻した仕事を受けて、忙しくなっていました。
事例Ⅰ編、事例Ⅱ編に続く3回目は、事例Ⅲの過去問19年分(平成19年〜令和7年)です。
今回も試験としての解法からはいったん離れて、19社のC社の物語として読んでみます。
工場見学動画って面白いよね。だから製造業の話はワクワクするで!
※今回も長文ですが、スクロールバーの半分あたりで本文は終わります。安心?してね!
第1章 C社19年の全記録
まず全体観です!
事例Ⅲの「C社」は19年間、毎年違う業種・規模・悩みを抱えて登場してきました。
問題PDFは中小企業診断協会の過去問ページで公開されているものです。
平成中期(H19〜H24)
| 年度 | C社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H19 (2007) | 商業印刷業 | 年商13億円・70人 | 広告代理店経由の受注増と印刷機への投資判断 | |
| H20 (2008) | プラスチック製品用金型メーカー | 売上高42億円・102人 | 成長のかげりと大型金型の要請 | |
| H21 (2009) | 木製家具製造業 | 年商約18億円・120名 | 170アイテムの過大在庫と欠品、OEMの打診 | |
| H22 (2010) | 自動車部品メーカー | 年間売上高約24億円・125名 | 家電から自動車への転換と中国進出 | |
| H23 (2011) | 金属製オフィス家具製造業 | 80名 | OEMから自社ブランド、特注品事業へ | |
| H24 (2012) | 食肉製品製造業 | 100名(うちパート60名) | セントラルキッチン化とトレーサビリティ |
平成後期(H25〜H30)
| 年度 | C社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H25 (2013) | 通信施設用部材の製造・据付 | 年間売上高約25億円・95名 | 首都圏市場への参入と過去の撤退経験 | |
| H26 (2014) | 超精密小型部品メーカー | 年商7億円前後・48名 | 取引先の国内調達集約と業務移管 | |
| H27 (2015) | 鋳物製品メーカー | 年商約10億円・50名 | 見えていなかったネック工程 | |
| H28 (2016) | カット野菜製造業 | 2013年設立 | 限界利益マイナスからの収益改善 | |
| H29 (2017) | 金属部品の賃加工業 | 24名 | 下請から最終製品メーカーへの挑戦 | |
| H30 (2018) | プラスチック射出成形加工業 | 年商約9億円・60名 | 海外移転の後、戻り始めた受注 |
令和(R1〜R7)
| 年度 | C社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| R1 (2019) | 金属熱処理・機械加工業 | 年商約5億円・40名 | 外注かんばんと量産の新工場 | |
| R2 (2020) | ステンレス製品の製作・据付 | 30名 | 納期遅延の根絶とモニュメント事業 | |
| R3 (2021) | 革製バッグ製造業 | 50名 | 熟練職人の手作りか、分業と標準化か | |
| R4 (2022) | 業務用調理器具の金属製品製造業 | 60名 | サプライチェーンの混乱と新規取引 | |
| R5 (2023) | ホテル・旅館向け業務用食品製造業 | 60名(うちパート40名) | 受注の回復と人の不足、自社企画 | |
| R6 (2024) | 搬送機器製造業 | 年商約14億円・70名 | 増える受注とコスト高、価格交渉 | |
| R7 (2025) | 紙パイプ製造業 | 年商約8億円・40名 | 2024年問題と、製品在庫を持たない判断 |
食べ物の工場が3社(食肉・カット野菜・総菜)。金属加工の話し一辺倒じゃないで。
第2章 19年のドキュメンタリー(五幕構成)
ここからが本題です。19年を五つの幕に分けて、1年ずつ読んでいきます。
第一幕 H19〜H21「好調のかげりと、デジタルの入口」
第1話 H19(2007):印刷会社は、情報を預かる会社になれるか
昭和初期に活版印刷で始まったC社は、いまはすべてオフセット印刷で、紙面づくりにはDTPを採用しています。
取引先は大手電機メーカーなどの最終ユーザーと、増加が著しい中堅の広告代理店です。
ところが広告代理店経由の受注では、ほぼ完成品に近いデータが持ち込まれ、印刷データへの変換トラブルや色調のトラブルが増えていました。
工場は繁忙期に深夜まで残業し、両面刷りの最新印刷機が欲しいと考えています。
一方の経営者は、繁忙期が限られることなどを理由に踏み切れません。
さらにC社は、取扱説明書の印刷・在庫・配送の一括受注から一歩進めて、名簿管理を基軸とした新事業を検討していました。
与件には、名簿管理にかかわる個人情報の取り扱いと管理体制の整備が必要になる、と書かれています。
診断士への依頼:
印刷機への投資について「投資を実行するか否かの立場を明確に示して」助言すること。
そして、名簿管理を基軸とした新事業への助言です。
第2話 H20(2008):年率10%成長に、かげりが見えた
C社は、自動車・電機・日用品と幅広い分野のプラスチック製品用金型をつくる会社です。
売上高42億円は、19年のC社のうち売上の記載がある年で最大です。
ここ数年は年率10%ほど伸びていましたが、与件によれば平成19年頃からかげりが見え始めました。
理由として挙がっているのは、自動車部品の標準化・共通化、新車開発の動きの鈍化、そして携帯電話の外装用金型の減少です。
取引先の海外工場での金型調達や修理に応えられる会社と評価される一方、金型の現地調達の進展や国内需要の縮小も与件に書かれています。
そこへ、乗用車のバンパーのような大型製品用の金型をつくってほしいという要請が来ます。
受注が一時的か継続するかは分かりません。 仕上げ工は20人のうち11人が50歳を超えています。
診断士への依頼:
活用できる経営資源と戦略、大型金型要請の受け止め方、外注企業と共有すべきデータ、仕上げ工の育成と増員の意味です。
第3話 H21(2009):170アイテムが生んだ、在庫と欠品の同居
C社はダイニング用のテーブルやチェアをつくる木製家具メーカーです。
有害物質を含まない塗料や接着材を使い、20〜30歳代の主婦に喜ばれる家具をコンセプトにしています。
与件には、家具専門の中小小売店が低迷する一方で、ライフスタイル提案型の小売店やSPA(製造小売)型の大型小売店が比較的好調だと書かれています。
C社の販売先の約80%は、インテリア用品・生活用品を扱う小売店です。
営業担当者の提案で新製品を積極的に出してきた結果、自社製品は170アイテムに増えました。
見込生産でロット生産しているため、製品在庫は増え続けているのに、製品によっては欠品が起きています。
診断士への依頼:
在庫と欠品が同時に起きる理由と対策、大手インテリア小売チェーンからのOEMのメリットと課題、見込生産と受注生産の違いです。
印刷機を買うか、金型の大型化に応じるか、170アイテムの在庫をどうするか。
3社とも、好調だった時期の後に判断を迫られています。
設備も製品も増やしたあとで身動きが取りにくくなるのは、支援の現場でもよく見る形です。
第二幕 H22〜H25「取引先が海を渡った」
経済産業省「海外事業活動基本調査」によると、製造業の海外生産比率は1997年度に12.4%で、1985年度のプラザ合意時の約4倍強の水準でした(経済産業省)。
この年以降の与件文に登場する「取引先の海外移転」は、こうした長期的な上昇が続く中で出題されていました。
第4話 H22(2010):家電を失い、自動車で立ち直り、中国へ
C社の出発点は家電製品の金属プレス部品でした。
取引先から樹脂成形加工の技術供与も受けて事業を広げましたが、家電製品の生産が海外へ移り、部品も現地調達になったことで受注が激減した時期があります。
現社長はこの流れを早くから予測し、自動車部品メーカーへと時間をかけて会社を転換させました。
いまの家電部品の受注はごくわずかです。
それでも与件には、国内自動車生産台数の停滞や、ハイブリッド車・電気自動車の普及で駆動制御系部品の需要が減る恐れが書かれています。
そして取引先の一社Y社からは、従来のY社の製造原価より15%低い単価を見込んだ工程移管の提案が、もう一社X社からは中国進出の要請が届いていました。
診断士への依頼:
移管計画でのコストダウンの方法と、生産現場の混乱への対策、Y社と共有すべき情報、そして中国進出の中でC社独自の方向性を示すことです。
第5話 H23(2011):OEMの天井と、自社ブランドの壁
C社は書庫やロッカーなどの金属製オフィス家具メーカーです。
電力制御盤の筐体づくりで苦労して磨いた塗装技術が評価され、大手事務機メーカーX社のOEMを獲得しました。いまも売上の60%がX社向けOEMです。
与件によると、約10年前から官公庁の予算減少や民間企業の業績悪化で業界が低迷し、OEMは頭打ちになりました。
C社は学校・図書館・病院向けの自社ブランド「ビルトインシリーズ」を開発しますが、X社からの受注が再び減り、次は特注品の「フリーデザインシリーズ」を検討しています。
その中心にいる設計要員は、設計開発に加えて資材や外注の発注業務まで担当し、業務が滞りがちです。
診断士への依頼:
生産計画の精度向上策(19年で最も長い単一の解答欄、200字)、特注品事業に向けた営業スタイルと設計・生産の課題、CAD/CAM化のメリットです。
第6話 H24(2012):スーパーの加工部門は、外食のセントラルキッチンになれるか
C社は、食品スーパーX社の加工部門を分離して1990年に生まれた食肉製品メーカーです。
品目を絞った少品種多量生産で成長し、外食チェーンにも販路を広げました。
しかしスーパー向けは横ばい、外食向けは減少傾向で、既存顧客からは単価引き下げの要請もあります。
与件には、製品別の販売数量グラフと、2製品の流動数曲線が載っています。
そこへ、国産牛を使って急速に店舗を増やす外食Y社から、セントラルキッチンの機能を担ってほしいという相談が来ます。
求められたのは、国産牛の個体管理によるトレーサビリティと、前日発注・翌日全店直接配送でした。
診断士への依頼:
創業からの成長要因、グラフも踏まえた課題と改善策、セントラルキッチン化に必要な対応と情報、そしてY社以外で収益性を高める提案です。
第7話 H25(2013):関西の会社は、首都圏を攻められるか
C社は関西に本社を置き、通信施設で使われる配線用ケーブル支持器具などの部材をつくり、据え付ける会社です。
年間売上高は約25億円、従業員95名です。
与件には、通信機器の高速化やダウンサイジング化が進み、通信施設も省スペース化している、と書かれています。
C社は新製品開発力と提案力、施工品質で評価される一方、納期と価格では評価が低い状況です。 設計業務にはCADを使っていますが、使い方もデータも担当者ごとにバラバラでした。
さらにC社には、大手建材メーカーY社と共同開発したOAフロア事業から撤退した過去があります。
診断士への依頼:
首都圏市場に参入するための競争優位性と関東工場の役割、技術部内で共有すべき情報と業務効率化、そして過去の共同開発の失敗要因と、そこから学ぶ新規事業の留意点です。
家電が海外進出し、公的な予算が減り、通信機器が小さくなる。
4社とも、自社の努力とは別のところで需要が動いています。
外部環境の変化を自社の強みでどう受け止めるかという問いは、2次試験の全事例に共通するところです。
第三幕 H26〜H30「集約と選別、人が来ない工場」
第8話 H26(2014):選ばれた先に待っていた、1週間の納期
C社は、世界で著名な高額精密機器に組み込まれる超精密小型部品をつくっています。
生産する部品の約90%は大手X社の精密部品事業部を経由して納品され、生産技術や管理技術の指導もX社から受けてきました。
X社からの確定受注数量は、毎月FAXで届きます。
そのX社が生産拠点を海外へ移し、国内の部品調達をC社1社に集約する計画を進めていました。
在庫管理と受注・発送の業務もC社に移管され、C社の納品リードタイムは1.5カ月から1週間に短くなります。
診断士への依頼:
加工不良率の改善策、唯一の国内調達先になるメリットと、必要な生産計画・資材調達計画の改革、そしてX社以外への販路開拓の提案です。
第9話 H27(2015):投資してきた工程は、ネックではなかった
C社はマンホール蓋を主力とする鋳物メーカーです。
1954年の創業で、作業環境が影響して若手人材の確保が難しく、高齢化が進んでいると与件にあります。
公共事業予算の縮小と海外製品との競争でマンホール蓋の受注が減った時期に、農業機械や産業機械の部品へ事業を広げてきました。
C社は工場全体の能力を鋳造工程で把握し、鋳造工程に投資してきました。
ところが改善チームが工程を分析すると、ネック工程は機械加工工程で、その設備稼働率は48%でした。
診断士への依頼:
自動車部品参入の強みとメリットと短納期化の策、鋳造優先の投資が生んだ問題、IT化による納期管理、そして「今後も国内生産を維持する」ために強化すべき点です。
第10話 H28(2016):限界利益がマイナスの工場
C社は、農業法人が規格外野菜の活用のために始めたカット野菜事業を、2013年に分離して生まれた会社です。
与件のコスト管理資料では、変動費が売上高を上回り、限界利益は▲11.4%、営業利益は▲27.5%です。製造グループは顧客ごとに分かれ、それぞれが原材料の調達から出荷まで行い、グループ間で作業員の移動はありません。
クレームは年間107件、うち半数(54件)がカット形状の不均一で、特性要因図も掲載されています。
診断士への依頼:
強みと弱み、収益改善の生産管理面の対応策、最も効果的なクレーム改善、そして二つの新事業案(高付加価値製品か、消費者向けカット野菜パックか)からの提案です。
第11話 H29(2017):ITに強い後継者と、木工加工機
C社は1947年創業、社長以下24名の賃加工型の下請製造業です。従業員数は19年のC社で最少です。
10年前、CAD等のITの技能を備えた社長の長男が入社し、設計のCAD化や設備更新を進めてきました。いまは常務として、後継者と期待されています。
現場は機械ごとの専任担当制で、担当以外の機械を操作できない作業者が多く、技術情報も各自が持ったままです。
常務は異業種交流の場で聞いた声をヒントに、CNC木工加工機を開発しました。
展示会の実演で注目を集め、注文も入りました。
ただし、C社には新規顧客を開拓する営業の経験も、販売チャネルもありません。
この年は、19年で唯一、第1問がC社の強み・弱みなどの現状分析から始まりません。
診断士への依頼:
木工加工機の生産管理上の課題、既存業務の整備で生まれる余力、ホームページの活用と社内対応、設備投資や人員増をせずに高付加価値化する方策です。
第12話 H30(2018):工業団地の仲間と、自前の金型で乗り越えた
C社は1974年創業のプラスチック射出成形加工業です。
1980年に高度化資金を活用して、同じ悩みを抱える中小企業とともに工業団地へ移りました。
1990年代後半から顧客企業の工場が海外へ移り、受注の減少が続きます。
C社は金型の設計・製作部門をつくって技術力を強化し、工業団地組合でも共同受注などで助け合って乗り越えてきました。
与件によると、近年は国内需要分の家電製品の生産が国内に戻る傾向があり、以前の国内生産品が戻り始めました。
ただし1回の発注量は少なく、受注量全体は以前の水準まで戻っていません。 与件には製品在庫の推移グラフと、成形機2台持ちのマン・マシン・チャートが載っています。
診断士への依頼:
業績が維持されてきた理由、段取り作業と生産計画の問題点と改善策、生産管理のコンピュータ化の前に整備すべき内容、立地環境と経営資源を生かした今後の戦略です。
生産管理の改善と経営戦略が必ず一対で問われているのが分かります。
工程だけ直して終わる助言では足りない、ということですね。
第四幕 R1〜R3「かんばん、注記、手縫い」
第13話 R1(2019):外注かんばんと、人が採れない前提の新工場
C社は熱処理専業で出発し、機械加工も手がけるようになった会社です。
約10年前、工業会の商談会で自動車部品メーカーX社と出会い、いまX社は売上の約20%を占めます。
X社から、機械加工の工程を移管したいという話が来ます。
受託すれば機械加工の生産量は現在の約2倍です。あわせて、外注かんばんによる後工程引取方式を、通信回線でのデータ交換で運用したいという提案もありました。
社長が示した新工場の方針には、作業標準化、一人当たり生産性の最大化、そして「近年の人材採用難」を踏まえて新工場要員の採用を最小限にとどめることが並んでいます。
診断士への依頼:
事業変遷から見た強み、受託の効果とリスク、生産性を高める新工場の在り方、かんばん方式の導入に必要な生産管理上の検討、新工場稼働後の戦略です。
第14話 R2(2020):納期遅延の正体は、運搬と歩行だった
事例Ⅰ・事例Ⅱと同様にこの年の問題用紙には【注意事項】として、新型コロナウイルス感染症とその影響は考慮する必要はない、と明記されています。
C社はビル建築用のステンレス製品と、デザイナーが設計するステンレス製モニュメントを手がける、1955年創業の会社です。
3代目の現社長が、ある建築プロジェクトでデザイナーから依頼を受けたことをきっかけにモニュメントに進出し、いまは売上高の40%を占めます。
大きな悩みは納期遅延です。
製造部長が作業者の稼働状態を調べると、「材料・工具運搬」「歩行」といったモノの移動にかかわる作業や、打ち合わせのための「不在」が多く発生していました。
診断士への依頼:
強みと弱み、営業部門と製造部門それぞれの納期遅延の問題点と対応策、IT活用、モニュメント事業の拡大です。
第15話 R3(2021):職人の手縫いか、分業と標準化か
C社は革製バッグのメーカーです。
バッグメーカーX社の下請として創業しましたが、X社がコスト削減のため東南アジアの企業に生産を委託したことで、生産量が減りました。
その後に始めた自社ブランド製品が旅行雑誌で特集され、手作り感のある高級仕様が注目されます。
いまは自社のウェブサイトによるオンライン販売が自社ブランド販売の中心で、自社ブランドは売上高の20%程度です。
社長は直営店の開設を考え、自社ブランドを熟練職人の手作りで続けるか、若手も含めた分業化と標準化でアイテム数を増やすか迷っています。 この年の与件には、コロナへの言及はありません。
診断士への依頼:
強みと弱み、受託生産品の効率化の課題と対応策、自社ブランド開発強化の課題、そして「どちらを選ぶか」の助言です。
中小企業、かつ製造業のIT化を感じられる事例もありますね
第五幕 R4〜R7「戻ってきた仕事、上がり続けるコスト」
第16話 R4(2022):コロナが、事例Ⅲの与件に初めて書かれた年
C社は、ホテルや外食の調理場で使われる鍋やトレー、調理台などをつくる金属製品メーカーです。
与件には、観光需要で毎年増えていた受注が、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大による外国人の新規入国規制や外食産業の営業自粛で減った、と書かれています。
事例Ⅲの与件にコロナが登場したのはこの年が最初で、事例Ⅰと同じ年、事例Ⅱより1年後です。
一方、ホームセンターX社はアウトドア商品が好調でしたが、中国や東南アジアに委託しているPB商品の納品に支障が出ていました。
そこで、生産委託先をC社に変更することを両社で検討します。 C社の社内業務では、各業務でパソコンを使いながら、情報の交換と共有はいまだに紙ベースでした。
診断士への依頼:
2020年以降の環境変化の中での販売面・生産面の課題、新規受注の短納期化、小ロット化への対応、優先すべきデジタル化と社内活動、X社との取引が戦略に持つ可能性です。
第17話 R5(2023):受注は戻ったが、人は戻らなかった
C社は、温泉リゾート地の高級ホテルや旅館向けに、総菜や菓子、パンを受託製造する会社です。
販売先のホテルや旅館では、増加する訪日外国人観光客に向けて、地元食材を使った特色のあるメニューを出す傾向が強まっていました。
2020年からのパンデミックで受注は激減しましたが、観光客の増加で回復してきています。
ところが、工場稼働の低下に伴う出勤日数の調整で、高齢のパート従業員が退職していました。 製品仕様は販売先の料理長から口頭で指示され、レシピはメモ程度のまま整理されていません。材料価格の高騰で収益性も下がっています。
診断士への依頼:
生産面の強み、人手不足下の生産面の対応、材料高騰への対応、受託一筋の会社の製品企画の進め方、そして工場増築構想の妥当性と留意点です。
第18話 R6(2024):戻ってきた仕事と、追いつかない価格
C社は2011年設立の搬送機器メーカーです。
工作機械メーカーX社で工場レイアウトを提案してきた社長が独立して創業し、いまもX社からの受注が6割を超えます。
X社は中国企業に委託していた搬送機器の生産を、現地生産コストの上昇とコロナ禍以降の納品の不安定さから国内に移しました。
その結果、C社の受注量は近年さらに増加しています。
一方で、契約金額は材料費や人件費の高騰に対応しきれていません。
見積もりは過去の契約金額を参考に営業部員が算出しています。 なお、C社では受注情報を受注管理システムに入力し、部品構成表をデジタルデータとして発注や在庫管理に使っています。
診断士への依頼:
強み、工程改善による生産能力向上、工程管理業務の改善、価格交渉を円滑に行うための社内の事前対策、自社企画製品での直接契約事業の進め方です。
第19話 R7(2025):2024年問題と、ホワイトボード
C社は1947年創業、紙パイプのメーカーです。
ペーパーレス化で紙の需要は縮む一方、プラスチックから紙への転換やサステナビリティ意識の高まりで、紙加工品への期待もあります。
与件には、運送業者の2024年問題などによるドライバー不足で流通条件が厳しくなり、出荷に間に合わせる製造時間の短縮が課題だと書かれています。製造人員も足りず、深夜・早朝の残業が増えていました。
工場長は週次製造計画を製造現場のホワイトボードに書いて指示し、突発的な変更は紙のメモで伝えています。ベテランの定年退職で技術の承継も進んでいません。
経営者は、倉庫を建てて見込生産に切り替える案を検討した末に、経営上のリスクを考えて、製品在庫を持たずに工程管理を改善する道を選びました。
診断士への依頼:
強みと弱み、コストダウンの課題と改善策、在庫を持たずに納期に対応する工程管理、食品用・医療用紙パイプへの参入に必要な社内の取り組みです。
令和の4社が抱えているとされていることは、いま実際の中小企業が相談したい内容です。
二次試験の勉強がそのまま実務の予習になっていると感じられる事例です。
第3章 データで見る事例Ⅲの19年
3-1 第1問は、ほぼ毎年「C社の今」を問う
第1問は、強み・弱み、特徴、経営資源、成長要因、業績が維持された理由など、表現を変えながらC社の現状分析を問うのが基本です。
例外はH29の1年だけで、この年はいきなりCNC木工加工機の生産管理上の課題から始まります。
3-2 「中小企業診断士として」「助言」の文言
設問に「中小企業診断士として」または「助言」という文言が入っている年を数えました。
- あり:H19、H22、H24、H26、H28、H30、R2〜R7
- なし:H20、H21、H23、H25、H27、H29、R1
H22からH30までは1年おきに「あり」と「なし」が交互に並び、R2以降は6年連続です。
①の事例Ⅰは全年度、②の事例Ⅱは平成23年度に初登場でした。同じ試験でも、事例ごとに文言の出方が違います。
3-3 「この設備、買ってよいか」という相談
19年を並べると、設備や工場への投資をどう判断するかという相談が繰り返し出てきます。
| 年度 | 投資の対象 | 設問の求め方 |
|---|---|---|
| H19 | 両面刷りの最新印刷機 | 投資を実行するか否かの立場を明確に |
| H20 | 大型金型に対応する機械設備 | 生産面で検討すべき課題 |
| R1 | 量産加工の新工場 | 社長方針に基づく新工場の在り方 |
| R5 | 工場増築と専用設備 | 社長構想の妥当性と理由、留意点 |
| R7 | 製品在庫を置く倉庫 | (経営者は見送り)在庫を持たない工程管理の改善 |
H29には「大きな設備投資や人員増をせずに」高付加価値化する方策を問う設問もあります。
事例Ⅲは生産管理の科目ですが、経営者の投資判断に寄り添う相談も19年間続いてきました。
3-4 図表
H24(販売数量グラフ・流動数曲線)、H27(工程別加工時間・設備稼働状況)、H28(コスト管理資料・クレーム件数・特性要因図)、H30(在庫数量推移・マン・マシン・チャート)、R4(生産プロセス図)、R5(フローダイアグラム)といったように事例Ⅲでは多くの年で図表が出てきています。
1次試験の運営管理で学ぶ図表なので、1次の知識が2次の与件を読むための知識となっています。
3-5 規模のレンジ
従業員は24名(H29)から125名(H22)、売上高は記載のある年で約5億円(R1)から42億円(H20)です。
事例Ⅰの15名〜300名と比べると幅は狭く、どの年も自社の生産工程を持つ会社として描かれています。
第4章 19年変わらない診断・助言のために意識しておくべき軸
業種も時代も違う19社ですが、並べて読むと、同じ論点が形を変えて何度も出てきます。
一つ目は、人に依存した仕事を、仕組みに移すことです。
H25のCADは担当者ごとにバラバラ、H29は機械の専任担当制で技術情報は各自が保有、R3は熟練職人の手縫い、R5のレシピはメモ程度、R7はベテランの経験と勘。
表現は変わっても、「特定の人に頼っている仕事を、標準化や共有で会社の力にする」という論点は19年続いています。
二つ目は、計画と変更のせめぎ合いです。
H19の工場は毎日生産変更を繰り返し、H21は月後半の追加生産依頼で生産が不安定になり、H23は外注品の納品遅れで計画変更が多く、R6は週次日程計画表の変更が常態化し、R7は特急受注や仕様変更のたびに工程が混乱していました。
計画をどう立て、変更にどう備えるかは、事例Ⅲの中心にある問いです。
三つ目は、情報を誰とどう共有するかです。
H19の営業と工場、H20の外注企業、H22のY社、H26のX社、R1の外注かんばん、R4のデジタル化。
共有する相手は社内から取引先まで広がりますが、「必要な情報を、必要な相手と、使える形で共有する」という論点は変わりません。
この三つの軸があるので、古い年度の過去問にも取り組む価値があります。
FAXで受注が届くH26も、ホワイトボードで指示するR7も、問われている軸は変わりません。
題材の古さに引っ張られず、「この年は三つの軸のどれを、どんな形で問うているのか」と考えながら解くと、年度をまたいで知識がつながっていきます。
おわりに
事例Ⅲの19年は、製造業の中小企業が直面する問題を疑似体験できるストーリーです。
積み重ねるうちに、「だれに・なにを・どのように」を初見の商売に当てはめる自分の中の「診断士」の感覚が育ちます。
それは10月25日の80分のためだけの力ではなく、将来の診断士活動でも確実に活きます。
令和8年10月25日。 事例Ⅱの歴史に、20社目のB社が加わります。その相談相手は、あなたです!
二次試験も突破して、一緒に中小企業の力になろうな!
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