【美しき過去事例の変遷②】事例Ⅱの19年は「大手と戦う小さな会社」のドキュメンタリーだった ~過去問19年(H19-R7)の時代背景とテーマ~ byすーじー

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- 1. 第1章 B社19年の全記録
- 2. 第2章 与件文は、「街の商売」の時代ドキュメンタリー
- 2.1. 第一幕 H19〜H21 大型店がやってきた――商店街と郊外の攻防
- 2.1.1. H19:大手ホームセンターの進出に、単独店舗で立ち向かう
- 2.1.2. H20:外資のホテルと若女将、伝統の宿が岐路に立つ
- 2.1.3. H21:商店街のスポーツ用品店が、市民マラソンに懸ける
- 2.2. 第二幕 H22〜H25 地元に還る――絆・エコ・農商工連携
- 2.2.1. H22:赤字だったスーパーが、「地元への感謝」で再建する
- 2.2.2. H23:低価格チェーンの挑戦を、手書きの顧客カルテが受けて立つ
- 2.2.3. H24:焼酎蔵が、水害に遭った商店街に売上の一部を還す
- 2.2.4. H25:システムエンジニアだった次男が、さつまあげに旬を入れる
- 2.3. 第三幕 H26〜H30 データで診る、訪日客が来る
- 2.3.1. H26:介護付きツアーの売上を、デシル分析が解剖する
- 2.3.2. H27:商店街そのものが、B社になった
- 2.3.3. H28:しょうゆの統計が、市場の縮小を静かに語る
- 2.3.4. H29:寝具店の井戸端会議が、次の商売を連れてくる
- 2.3.5. H30:観光客500万人の街で、一軒の旅館だけが取り残される
- 2.4. 第四幕 R1〜R3 SNSの追い風、コロナの逆風
- 2.4.1. R1:1枚のネイル写真が、店の運命を変えた
- 2.4.2. R2:「コロナは考慮不要」――事例Ⅱの問題用紙にも、あの注記があった
- 2.4.3. R3:豆腐の移動販売が、試食をやめた日
- 2.5. 第五幕 R4〜R7 オンラインとリアルの両輪へ
- 2.5.1. R4:売上半減の食肉卸が、最終消費者へ舵を切る
- 2.5.2. R5:野球用品の買い替え負担に、「新しいプライシング」で応える
- 2.5.3. R6:ファッション業界帰りの3代目が、動画で産地を売り出す
- 2.5.4. R7:開業3年目のマッサージ店が、時間と情報を武器に変える
- 3. 第3章 データが裏付ける、時代の反映と試験の進化
- 4. 第4章 題材は時代とともに変わり、問いは変わらない
- 5. おわりに――10月25日、20社目の相談へ
前回の事例Ⅰ編に続き、事例Ⅱの過去問19年分(平成19年〜令和7年)を回顧する記事です。
二次試験の事例Ⅱについては、こんな疑問がわくかもしれません。
マーケティングは流行り廃りが激しいのに、10年前の過去問を解く意味はあるん?
SNSもサブスクもない時代の問題は、古くって勉強にならんのちゃう?
結論から言うと、題材と道具は毎年入れ替わりますが、問われる本質は19年間変わっていません。
「だれに・なにを・どのように売り、どんな効果を得るか」、この軸で毎年”B社”はずっと大手や低価格の競合と戦い続けています!
その戦いの記録は、平成から令和にかけての「街の商売」のドキュメンタリーです。
今回も「解き方」から一旦離れて、ストーリーとして読んでみたいと思います。
今回はB社19社の物語。前回のA社とはまた毛色が違います!
※今回も恐ろしく長文に見えますが、スクロールバーは半分くらいのところで記事は終わりますので安心してください。
第1章 B社19年の全記録
まず全体観です。
事例Ⅱの「B社」は19年間、毎年違う業種・規模・悩みを抱えて登場してきました。
問題PDFはすべて中小企業診断士協会の過去問ページで公開されているものです。
平成中期(H19〜H24)
| 年度 | B社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H19 (2007) | ホームセンター(単独店舗) | 売上10億円・50名 | 大手ホームセンターとの差別化 | |
| H20 (2008) | 老舗温泉旅館(客室10室) | 20名 | 伝統と改革の狭間の若女将 | |
| H21 (2009) | スポーツ用品店(城下町商店街) | 20名 | 市民マラソンと銭湯との共同事業 | |
| H22 (2010) | 食品スーパー(1914年創業) | 年商65億円・250名 | 経営再建と地元密着・エコ活動 | |
| H23 (2011) | 眼鏡専門店(1959年設立) | 80名 | 低価格新業態と顧客カルテの戦い | |
| H24 (2012) | 芋焼酎メーカー(1899年創業) | 20名 | 提携による再建と地域への恩返し |
平成後期(H25〜H30)
| 年度 | B社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H25 (2013) | 水産練物の製造小売(さつまあげ) | 10名 | SE出身の承継者と農商工連携 | |
| H26 (2014) | 旅行業者(1990年創業) | 12名 | 介護付きツアーとデシル分析 | |
| H27 (2015) | B商店街(約180店) | ―(組合運営) | 総合スーパーとのすみ分けと再開発 | |
| H28 (2016) | しょうゆメーカー(1770年創業) | 50名 | 縮む市場の統計と11代目の挑戦 | |
| H29 (2017) | 寝具小売業(1955年創業) | 社員・パート数名 | 井戸端会議と娘への承継 | |
| H30 (2018) | 老舗日本旅館(約150年) | 7名 | インバウンドの波に乗り遅れた宿 |
令和(R1〜R7)
| 年度 | B社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| R1 (2019) | ネイルサロン(2017年創業) | 2名 | SNSで生まれた店と低価格チェーン | |
| R2 (2020) | 農業生産法人(島のハーブ) | 10名 | 大手依存からの脱却と島の再生 | |
| R3 (2021) | 豆腐の製造販売(1953年創業) | 15名 | コロナ禍の移動販売と置き配 | |
| R4 (2022) | 食肉・食肉加工品の製造販売 | 販売額約9億円・45名 | 売上半減からの事業再構築 | |
| R5 (2023) | スポーツ用品店(野球特化) | 8名 | 買い替え負担とサブスクの発想 | |
| R6 (2024) | 陶磁器の産地問屋(X焼) | 12名 | 動画とECで産地を立て直す3代目 | |
| R7 (2025) | スポーツマッサージ店(2022年開業) | 6名 | 時間帯別価格と顧客情報の活用 |
従業者2名のネイルサロンから、年商65億円・250名の食品スーパーまで。
事例Ⅰと比べると、より小さな「街の商売」が主役です。私たちがお客さんとして日常的に接している業種ばかりなのも、事例Ⅱの特徴です。
ホームセンター、スーパー、眼鏡屋さん、お豆腐屋さん、ネイルサロン……
お商売をイメージしやすい業種ばかり。
ちなみに19社中7社が食品を商う会社。事例Ⅱはおなかが空いちゃいそうですね。
第2章 与件文は、「街の商売」の時代ドキュメンタリー
19年を5つの幕に分け、1年を1話として全19話でたどります。
前回同様、与件文はおおむね「前年までの日本」を映して作られています。ただ、後で見るとおり、事例Ⅱは時代を映すスピードが少し速いようです。
もう一つ、書きながら気づいたことがあります。
事例Ⅰ編では各年の背景を内閣府の景気基準日付などの公的資料で補いましたが、事例Ⅱではその必要がほとんどありませんでした。
大店法の廃止、市民マラソン、東京オリンピック、リモートワーク。時代を示す言葉が、与件文そのものに書き込まれているからです。
事例Ⅱの与件は、それ自体が消費と商売の「時代の一次資料」になっています。
第一幕 H19〜H21 大型店がやってきた――商店街と郊外の攻防
H19:大手ホームセンターの進出に、単独店舗で立ち向かう
2007年の与件文には、時代がそのまま書き込まれています。
「大店法の廃止により、都市近郊や郊外での他の業態との業態間競争が激化し」、そして「2007年の11月を過ぎると、郊外への大型店の出店が規制されることになっている」。
まちづくり三法の見直しが進んだ、郊外出店の転換点です。
その年のB社は、郊外バイパス沿いのホームセンター。
駅前商店街の建材・金物店から転換した単独店舗で、売上10億円・従業員50名です。プロ用の専門性とDIYブームの品揃え、園芸教室や木工教室、社員表彰と「一日店長」制度。地域に根を張る工夫を重ねてきましたが、近隣に大手ホームセンターを含むショッピングセンターが出店し、売上は少しずつ低下し始めます。
診断士への依頼は、大手に対抗する差別化戦略と、店を広げずに売上を伸ばす方法です。
「大手がやらないことをやる」。
年続く事例Ⅱの基本方針が、この19年の第1話からすでに示されています。
H20:外資のホテルと若女将、伝統の宿が岐路に立つ
2008年の与件には、来客数の減った旅館が「外国資本に買収され」大型温泉ホテルに生まれ変わる場面と、「アジア地域の富裕層」を中心とする外国人観光客の増加が描かれます。
インバウンドという言葉が広まるずっと前に、事例Ⅱはその傾向を捉えていました。
その年のB社は、大正10年創業の老舗温泉旅館。
客室10室、仲居が一人一部屋を担当し、一泊5万円からの高価格でも予約困難でした。
ところが平日に空きが出始めます。少子高齢化を映すライフケアマンション、車で30分の場所に持ち上がったアウトレットモール計画。環境が動く中、3代目となる若女将は建替えと和洋折衷への転換を構想します。
依頼は、その拡大構想の問題点の指摘と、設備を変えずに顧客を増やすプロモーション、そして温泉組合の協業による新規事業でした。
「伝統と改革の狭間」という主題は、10年後のH30に別の旅館で再演されることになります。
H21:商店街のスポーツ用品店が、市民マラソンに懸ける
2009年の与件が描くのは、郊外ショッピングセンターに客を奪われ、後継者問題で閉店を考える店も出てきた商店街です。
一方で、公園周辺にはウォーキングやジョギングをする人が増え、「全国各地で定着しつつある市民マラソン」の計画が持ち上がります。
ランニングブームが地方都市に届いた頃です。
その年のB社は、蔵造りの町並みが残る城下町の商店街にあるスポーツ用品店。
学校の体操着やユニフォームを一手に受け、草野球リーグの事務局をボランティアで引き受けてきました。SC内には大手チェーンとファッション系の競合2店。少子高齢化で生徒数も草野球人口も減っていきます。頼みの綱は、増え続けるランナーたちと、ランナーの社交場になっている商店街の銭湯でした。
依頼は、競合2店との差別化、新しいターゲット層の設定、銭湯との共同事業、そしてインターネットでの地域コミュニケーションです。
自社の資源だけでなく、地域の資源と組んで戦う。事例Ⅱらしい戦い方が形になった年でした。
第一幕はぜんぶ「大型店 vs 地域密着」の構図やった!
第二幕 H22〜H25 地元に還る――絆・エコ・農商工連携
H22:赤字だったスーパーが、「地元への感謝」で再建する
2010年の与件は、価格志向の強い消費者と大手スーパーとの熾烈な競争を背景に、レジ袋の有料化、マイバッグ、生ゴミのリサイクルといった取り組みを描きます。
エコとソーシャルが商売のテーマになった時代です。
その年のB社は、1914年創業の食品スーパー。
年商65億円・従業員250名は、19年間で最大のB社です。価格競争で1995年に大幅赤字に陥り、現社長が経営再建に着手。地元の中高年女性に絞った売場づくり、高齢単身世帯への宅配は「安否確認」の役割も担いました。生ゴミを堆肥化して契約農家の有機野菜として店頭に還す循環システムと、地元自治体へ寄付される「グリーンポイント」も考案します。
依頼は、この一連の再建策とエコ活動の狙いを、マーケティングの言葉で読み解くことでした。
差別化の武器が「価格」ではなく「地域との絆」であること。事例Ⅱの価値観がはっきり打ち出された年です。
H23:低価格チェーンの挑戦を、手書きの顧客カルテが受けて立つ
2011年の与件には、眼鏡一式を低価格で売るスリープライス・ワンプライスという新業態の急成長と、総人口減少の推計、そして”モッタイナイ”やスローライフといった言葉が並びます。
デフレと価値観の多様化が注目されていた頃です。
その年のB社は、1959年設立の眼鏡専門店。
テレビ広告を打つディスカウント型チェーンが商圏内に出店してきます。B社の武器は、コンピュータ導入以前から続く顧客カルテでした。購買履歴だけでなく「いつどこに旅行したか」まで記し、次の来店でさりげなく話題にする。生涯価値の考え方を早くから実践してきた店です。
依頼は、これまでの競争戦略の言語化、低価格チェーンへの対抗策、サービス・リカバリー・システム、そしてインターナル・マーケティングでした。
今でいうCRMの原点のような事例です。データベースは道具にすぎず、中身は人の記憶と関係性なのだと教えてくれます。 そしてこの年の与件には、「中小企業診断士であるあなたに診断と助言を求めてきた」という一文があります。
事例ⅡのB社が与件の中で診断士を呼ぶのは、実はこの年が最初でした。詳しくは第3章で!
H24:焼酎蔵が、水害に遭った商店街に売上の一部を還す
2012年の与件は、チューハイブーム、麦焼酎の全国ヒット、本格焼酎ブームとその沈静化という酒類消費の歴史を一気に描きます。
そして舞台のX市は、経済縮小と人口減少、2000年代中頃の洪水被害という地方都市の課題を抱えていました。
その年のB社は、1899年創業の芋焼酎メーカー。
経営再建の切り札は提携でした。大手酒造メーカーとの共同開発(垂直的な提携)で全国へ、地元酒販店のプライベートブランド(水平的な提携)で県内へ。さらに5代目社長は、市内向け製品の売上から一定額を、水害を受けた商店街の復興イベントに寄付します。
依頼は、提携が相手企業にもたらしたメリットの分析と、このコーズリレーテッド・マーケティングの考察でした。
売上の一部を地域の大義に還す。この年の与件は、商売と社会貢献を結ぶ視点を正面から問うています。
H25:システムエンジニアだった次男が、さつまあげに旬を入れる
2013年の与件の背景には、観光農業と地域ブランドづくりに力を入れ始めた地方都市があります。
農業と商工業が連携して新しい商品を生む、農商工連携が政策の言葉として広まっていた時期です。
その年のB社は、1916年創業の水産練物の製造小売業。従業員10名です。
後継者不在で廃業寸前だったこの店を継いだのは、大都市圏でシステムエンジニアとして働いていた次男でした。常連客の何気ない一言をヒントに、市内農家と組んだ月替わりの「旬のさつまあげ」を開発。取引先スーパーの食育イベントに協力すると、バイヤーからPOSデータの分析報告を求められます。
依頼には、そのPOSデータの集計表が付いていました。事例Ⅱの問題に数表が本格登場した年です。
そしてもう一つ。IT出身の承継者が、販売サイトの構築そのものではなく「どう受注を増やすか」に悩む姿も描かれました。作れることと売れることは別物だという、耳の痛い教訓です。
旬のさつまあげを焼酎と・・・いいね・・・
第三幕 H26〜H30 データで診る、訪日客が来る
H26:介護付きツアーの売上を、デシル分析が解剖する
2014年の与件には、「2008年9月のリーマンショック後には…研修予算が大幅にカットされ」と、金融危機がはっきり書き込まれています。
事例Ⅱでのリーマンの明記はこの年でした。企業の販促費や研修費という「出口」で影響が描かれたのが、マーケティングの科目らしいところです。
その年のB社は、1990年創業の旅行業者。従業員12名です。
低価格化とネット予約で一般向けツアーが衰退する中、現社長は高齢の元顧客の声から介護付きツアーを開発します。ホームヘルパー資格を自ら取得し、1家族の添乗から始めてノウハウを積み上げました。
依頼には、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の図と、顧客データベースから算出したデシル分析の表が添えられていました。
ストーリーを読むだけでなく、フレームワークと数値で構造を掴む必要があります。
第三幕の事例Ⅱは、分析の色を強めていきます。
H27:商店街そのものが、B社になった
2015年の与件の主役は、会社ではなく商店街です。19年間で唯一の例外でした。
B商店街は、明治中期の大規模織物工場とともに生まれ、戦災と復興、公害問題による工場移転という産業史を歩んできました。
工場跡地に出店した総合スーパーとの「補完関係」のもくろみは外れ、非食品小売店の多くが廃業。しかし2000年以降、別の工場跡地に高層マンション街が生まれ、周辺人口の構成が入れ替わり始めます。
依頼には、商店街周辺の概略図と、2005年・2015年の年齢別人口グラフが付いていました。
図から新住民の姿を読み取り、ターゲットを定め、誘致すべき業種とテナントミックスを考える。都市の新陳代謝を一枚のグラフで捉える、圧巻の出題でした。
H28:しょうゆの統計が、市場の縮小を静かに語る
2016年の与件には、統計表が2点も掲載されました。
しょうゆメーカーの数は1955年の6,000社から2013年には1,330社へ。出荷数量も一人当たり消費量も右肩下がり。数字が市場の縮小を示します。
その年のB社は、1770年創業のしょうゆメーカー。現社長は10代目です。
観光地化が進む市街地には、アジアからの観光客も訪れます。11代目予定者の発案で直営店に併設した飲食店は、健康に配慮した定食が人気で大行列。一方、50年来の食品卸との関係から、インターネット販売には踏み出せずにいました。
依頼は、製品アイテムの見直しとターゲットの明確化、飲食店直営の効果、そしてネット販売のブランド戦略です。
縮む市場で、どこを捨ててどこに集中するか。統計の裏にある意思決定を問う事例でした。
H29:寝具店の井戸端会議が、次の商売を連れてくる
2017年は人手不足が数字に表れた年です。
平成29年平均の有効求人倍率は1.50倍まで上昇しました(出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」)。与件のX市でも、大型スーパーに客が流れ、商店街の閉店が続いていました。
その年のB社は、1955年創業の寝具小売業。
店の一角の休憩コーナーが、いつしか地域の「井戸端会議」の場になります。そこで拾った声から婦人服の予約会を始めると大盛況。保育士の勤務経験がある現社長の娘が次期社長となり、入園準備のアドバイスをきっかけに子育て世代の来店も増えていきます。
依頼は、強みと競合の整理、顧客データベースを活用した予約会の成功策、そしてシルバー世代の次のメイン・ターゲットの選定でした。
売り込む前に、集まる場をつくる。顧客との接点そのものが資産になることを、この寝具店は体現しています。
H30:観光客500万人の街で、一軒の旅館だけが取り残される
2018年の与件が描くX市は、連続ドラマの舞台となって脚光を浴び、2017年時点で観光客約500万人・うちインバウンド客約20万人という活況です。
食べ歩きグルメは「写真映えし、SNS投稿に向く」とまで書かれていました。
インバウンドとSNSの最盛期が、そのまま与件に反映されています。
その年のB社は、明治初期創業・約150年の老舗日本旅館。
2年前に父が急死し、民間企業に勤めていた30歳代後半の長男が急きょ8代目に就任しました。周囲の店々が観光需要で高収益を上げる中、創業以来ビジネス手法を変えてこなかったB社だけが、その波に乗れずにいます。打てる手は限られる中、朝食の献立と器を変えただけで宿泊客に喜ばれた経験が、8代目の背中を押します。
依頼は、3C分析による現状整理と、メインターゲットを明確にした情報発信、クチコミを生む交流、夜の活気の取り込みでした。
第1問で3C分析(150字)を求める現在の定型は、この年に始まっています。
H20の温泉旅館とH30の日本旅館、10年ごしの2部作として読むと面白い!
インバウンドが「兆し」から「最盛期」に変わってるね
第四幕 R1〜R3 SNSの追い風、コロナの逆風
R1:1枚のネイル写真が、店の運命を変えた
2019年の与件の主役は、従業員2名。19年間で最小のB社です。
美大の同級生だった40代の女性2人が、出産を機に退職したのち開いた完全予約制のネイルサロン。開業当初は顧客がほとんどいませんでしたが、社長が写真共有アプリに投稿した1枚のネイル写真が拡散し、技術の高さを評価した周辺住民が来店するようになります。
予約のやり取りはインスタント・メッセンジャー。SNSが小さな店の生命線になった時代を、与件が表しています。
そこへ、近隣の小型ショッピングモールに大手チェーンの低価格ネイルサロンが出店するという知らせが届きます。
依頼は、SWOT分析(この年から第1問のド定番に加わりました)、メッセンジャーを使った客単価向上、そして商店街の他業種との協業による新規顧客獲得です。 低価格チェーンとの戦い方は、H23の眼鏡店と同じ構図。
ただし武器は、顧客カルテからSNSへと進化していました。
R2:「コロナは考慮不要」――事例Ⅱの問題用紙にも、あの注記があった
2019年、訪日外国人旅行者は3,188万2千人と過去最多を記録しました(出典:日本政府観光局(JNTO)報道発表)。そして2020年、世界は一変します。 その年の10月、事例Ⅱの問題用紙にも、事例Ⅰと同じ注記が付きました。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とその影響は考慮する必要はない」。
与件が描くB社は、本州から海を隔てたX島の農業生産法人。 島に自生していたハーブの栽培方法を確立し、大手製薬メーカーの原材料供給者として設立された会社です。しかしその製品も発売から約10年で売れ行きが鈍り、2〜3年での製造中止の可能性を告げられます。社長は自社ブランドのハーブティーをオンラインサイトで販売し、手応えを掴み始めていました。
依頼は、SWOT分析、大手依存から脱する取引先構成、顧客を巻き込むオンラインコミュニケーション、そして島のファンを生む宿泊ツアーの企画です。
一社依存の怖さと、最終消費者と直接つながる価値。コロナ直前の世界で、その後の時代の宿題が先取りされていました。
R3:豆腐の移動販売が、試食をやめた日
2021年、コロナは事例Ⅱの与件文に登場します。「新型コロナウイルス感染症のまん延に伴い、以降、試食を自粛した」。
事例Ⅰでコロナが与件に現れるのは翌R4ですから、事例Ⅱのほうが1年早かったことになります。消費の現場を描く科目だからこそ、時代の反映が速い――そう考えたくなります。
その年のB社は、1953年創業の豆腐の製造販売業者。
プライベートブランドの受注をコンペで失い、フランチャイズ方式の冷蔵販売車による移動販売で再起しました。駐車場での販売は高齢者の井戸端会議の場になり、試食が高単価商品を売る決め手でしたが、コロナでその試食を自粛。戸別訪問を断る顧客も増え、売上は3割落ち込みます。一方で、リモートワークの浸透を背景に「手作り豆腐セット」が主婦層にヒットしました。
依頼は、SWOT分析、全国向けネット販売、置き配導入時の高齢者対応、菓子類による主婦層開拓です。
接触を減らしながら関係は切らない。コロナ下の商売の難題が凝縮された、時代の証言のような事例です。
時代背景の影響を受けやすい中小企業だからこそ・・・
第五幕 R4〜R7 オンラインとリアルの両輪へ
R4:売上半減の食肉卸が、最終消費者へ舵を切る
2022年の与件は、コロナの打撃を数字で示しています。
ホテル・旅館や飲食店を主要取引先とするB社の売上は、2020年度に前年のおよそ半分へ。東京オリンピック・パラリンピックに向けて積み増した冷凍在庫も行き場を失いました。一方、巣ごもり需要で直営の食肉小売店だけが急上昇します。
その年のB社は、1955年開業の食肉・食肉加工品の製造販売業者。
販売額約9億円・従業員45名です。 大手ネットモールへの出店は「ページが埋もれて」失敗。診断士との対話を通じて社長は、自社の売上が他社の動向に左右されてきたことに気づき、最終消費者と直接結びつく事業への再構築を決意します。
依頼は、3C分析、県の一次産業と連携した商品開発、直営店の販売力強化、そしてオンライン販売事業者との協業です。
最後の設問には、日本政策金融公庫『消費者動向調査』の「献立の考案を簡便化したい」というデータが添えられました。 BtoBの会社がBtoCへ。コロナが強制的に開けた扉の先を、設問が照らしています。
R5:野球用品の買い替え負担に、「新しいプライシング」で応える
2023年の与件は、少子化の時代の少年野球を描きます。
成長のたびに必要な用具の買い替えが保護者の負担となり、それを理由に野球をやめる子どもがいる。女子軟式野球は盛んになってきたのに、メンバー集めに各チームが苦しんでいる。
その年のB社は、1955年に衣料品店として開業し、1970年代に転換したスポーツ用品店。野球用品への特化で量販店と戦います。 そして、ICT企業に勤める30代の長男が事業承継を決意して戻ってくることが、見直しの号砲になりました。
依頼は、3C分析に加えて、「プライシングの新しい流れを考慮して」買い替え負担に応える販売方法――サブスクリプションを想起させる問いです。
さらに女子チームの部員獲得支援、ホームページ・SNS・アプリによる関係性強化。
H21のスポーツ用品店から14年。市民マラソンとフットサルの時代から、サブスクとアプリの時代へ。
同じ業種の課題の入れ替わりが、時代を表しています。
R6:ファッション業界帰りの3代目が、動画で産地を売り出す
2024年の与件は、陶磁器産地の盛衰史です。
最盛期100軒強あった窯元は50軒ほどに、一窯元あたりの陶工は10〜20人から1〜2人に。100円ショップと安価な輸入陶磁器が、日用品としての国産陶磁器を追い詰めてきました。
その年のB社は、1953年創業の産地問屋。 ファッション業界で働いていた3代目(35歳)が呼び戻され、デザイナーズホテルの食器企画で手応えを掴んだ矢先、コロナ禍に見舞われます。そこで作ったオンライン動画――盛り付け方の紹介と、郷土料理×X焼の実演――が思わぬ再生数を呼び、ECサイト開設へと進みました。
依頼は、SWOT分析、ふるさと納税返礼品の企画(ブランド価値構造の感覚価値・観念価値を意識して)、食器愛好家の「収納スペースがない」を解く新規事業、そして店舗とECの両方を使う顧客を増やす施策です。
オンラインで知られ、リアルで愛される。両輪で回す設計図が、正面から問われました。
R7:開業3年目のマッサージ店が、時間と情報を武器に変える
2025年の与件の主役は、2022年開業のスポーツマッサージ店。19年間で最も「若い」B社です。
有名店で10年修行した社長が独立し、有名トップアスリートの来店が評判を呼びました。しかし周囲には格安チェーンや回転の速い大型接骨院。お試しコースの利用者はリピーターにならず、18時〜21時に予約が集中して混雑と空きが同居しています。
顧客情報は氏名・年齢・連絡先・施術コースのみで、「顧客に寄り添った対応」にはまだ遠い状態です。
依頼は、3C分析、時間帯の偏りを解く価格戦略、蓄積すべき顧客情報とその活用、部活生を呼び込む動画の内容でした。
時間帯で価格を変える発想も、情報を資産として設計する発想も、令和の商売の標準装備です。
19年の最終話は、開業まもない小さな店が「これからの定石」を問われる回になりました。
R7は価格・情報・動画と、今だからこそのマーケの道具が勢ぞろい!
第3章 データが裏付ける、時代の反映と試験の進化
物語だけではありません。数字で見ても、事例Ⅱは時代とともに進化しています!
解答字数は19年で大きく減りました。
| 年度 | 解答要求字数の合計 |
|---|---|
| H19 | 700字 |
| H22 | 680字 |
| H26 | 500字 |
| H30 | 450字 |
| R3 | 420字 |
| R7 | 500字 |
H19・H22の700字近い水準から、R3には420字まで約4割減りました。
近年は500字前後で安定しています。
書く量が減った分、「だれに・なにを・どのように・効果」を短く詰め込む密度は上がり続けています。
第1問の環境分析には、事例Ⅱならではの節目があります。
第1問で3C分析やSWOT分析を求める型は、H30の3C(150字)とR1のSWOT(40字×4欄)から始まりました。
以降はSWOT(R1〜R3・R6)と3C(R4・R5・R7)を行き来しながら、毎年必ず出題されています。
実は事例Ⅰの第1問がSWOT型に定型化するのはR4以降ですから、環境分析の定型化は事例Ⅱが4年先行していたことになります。 ちなみにR4とR5は、配点構成(30/20/20/30)も解答字数の合計(500字)も完全に一致しています。
図表・データの登場にも歴史があります。
H25のPOSデータ集計表が最初でした。
以降、H26のPPM図とデシル分析表、H27の商圏概略図と年齢別人口グラフ、H28のしょうゆ統計表、H30のインバウンド推移グラフ、R1の価格表、R4の消費者調査データと、ほぼ常連化しています。
与件文を「読む」だけでなく、データを「読み取って」戦略に落とす。第三幕以降の事例Ⅱは、その訓練の場でもあります。
「競合」の移り変わりも振り返ります。
19年間、B社の前にはほぼ毎年、大型店や低価格の競合が現れました。
大手ホームセンター(H19)、SC内チェーン(H21)、大手スーパー(H22)、ディスカウント眼鏡チェーン(H23)、総合スーパー(H27)、低価格ネイルチェーン(R1)、100円ショップ(R6)、格安マッサージチェーン(R7)。
この流れは、そのまま日本の小売・サービス業態史です。
そして答えの方向はいつも同じです。
価格で殴り合わず、大手がやらないきめ細かさ・関係性・地域資源で戦うのです。
事業承継は事例Ⅱでも重要な論点でした。
しかも承継者には異業種からの人材が目立ちます。
システムエンジニア(H25)、保育士経験(H29)、民間企業勤務(H30)、ICT企業勤務(R5)、ファッション業界(R6)。 前職の経験や外の視点が、そのまま新しいマーケティングの資源として描かれるのが事例Ⅱ流です。
「診断士」が与件に登場するのは、H23からでした。
意外な発見もありました。H19〜H22の与件文は状況の描写だけで終わり、診断士は登場しません。
設問も「答えよ」「述べよ」「説明せよ」だけです。 「中小企業診断士であるあなたに診断と助言を求めてきた」という一文が現れるのはH23。以降は「診断士に相談することとした」で与件を締める型が定着し、平成後期からは「助言せよ」という設問が主流になっていきます。
事例Ⅰでは「中小企業診断士として助言せよ」という依頼が19年すべての年度にあったのと対照的です。事例Ⅱは途中から、単なる「事例の分析」ではなく「経営相談のドキュメンタリー」へと語り口を変えたように見えます。
女性が主役になるのは、事例Ⅱが14年早い。
事例Ⅰ編で、A社に女性の後継者が登場するのはR4・R6からだと書きました。
事例Ⅱはずっと早く、H20では3代目若女将が改革の主役、H29では保育士経験のある娘が次期社長、そしてR1では40代女性2人による創業そのものが物語の中心です。
消費の現場を描く科目だからこそ、商売の担い手の多様さも早く映る。そう読めると思います。
フレームワークの「名指し」は、事例Ⅱの十八番。
サービス・リカバリー・システム(H23)、コーズリレーテッド・マーケティング(H24)、PPMとデシル分析(H26)、アンゾフの製品・市場マトリックス(R2)、ブランド価値構造(R6)。
設問文が理論の名前をそのまま指定してくるのは、事例Ⅰの設問にはほぼ見られない、事例Ⅱの際立った特徴です。
1次試験の企業経営理論で覚えた用語が2次でそのまま問われる、1次と2次の接続を一番実感できる科目でもあります。
B社の規模は、従業者2名(R1)から250名(H22)まで、年商は10億円(H19)から65億円(H22)まで。
事例ⅠのA社より一回り小さな、私たちの生活圏にある商売です。
事例Ⅰよりも、流れが速いのが事例Ⅱなんやな
第4章 題材は時代とともに変わり、問いは変わらない
ここまで見てきたとおり、業種も競合も道具も、毎年入れ替わっています。
チラシとミニコミ誌の時代から、SNSと動画とサブスクの時代へ。過去の事例は使う道具は確かに「古い」感は否めません。
それでも、設問の問いかけの本質は19年間一貫しています。
だれに(ターゲット)・なにを(製品・サービス)・どのように(チャネル・プロモーション)売り、どんな効果を得るか。
ホームセンターの品揃えでも、島のハーブでも、マッサージ店の価格でも、設問が求めたことの本質は同じです。
売り手の都合ではなくターゲットの姿から発想し、与件の中の経営資源で実行できる打ち手を組む、という一点です。
だから、古い年度の過去問も演習として成り立ちます。
むしろSNSやサブスクという「使い慣れた道具」が封じられるからこそ、与件の中の経営資源と顧客だけを頼りに「だれに・なにを・どのように」を組み立てる基礎練習になります!
道具が古い過去問は「時代遅れ」なのではなく、「軸だけで勝負する筋トレ問題」ととらえて取り組むことができます。
もう一つ、事例Ⅱだけの強みがあります。
B社は私たちが客として通っている業種ばかりなので、自分の消費体験がそのまま教材になることです。 行きつけの店はなぜ自分をリピーターにできているのか。あのチェーン店とあの個人店は何が違うのか。買い物のたびに「だれに・なにを・どのように」で眺める癖をつけると、日常が事例Ⅱの演習場になります。
| テーマ | 年度 |
|---|---|
| 環境分析(3C/SWOT)の型 | H30以降ほぼ毎年(3C:H30・R4・R5・R7/SWOT:R1・R2・R3・R6) |
| 低価格・大手との差別化 | H19・H23・R1(さかのぼるならH22・H27) |
| データ・図表の読み取り | H25・H26・H27・H28 |
| 顧客関係性・CRM | H23・H29・R7 |
| 協業・連携 | H21・H24・H25・R1・R4 |
| SNS・オンライン活用 | H30・R1・R2・R6・R7 |
| コロナ禍への対応 | R3・R4 |
| 価格戦略(サブスク・時間帯別) | R5・R7 |
| 承継者の外部経験の活用 | H25・H29・H30・R5・R6 |
古めの事例も、心構え次第でより有益な演習になるね!
おわりに――10月25日、20社目の相談へ
19個の与件文は、19社分の経営相談です。
過去問を解くことは、19の店先に立つことにほかなりません。
ホームセンターの売場から、温泉旅館の帳場から、移動販売車の運転席から、大手と戦いながら地域に愛されようとする小さな商売の奮闘が見えてきます。
積み重ねるうちに、「だれに・なにを・どのように」を初見の商売に当てはめる自分の中の「診断士」の感覚が育ちます。
それは10月25日の80分のためだけの力ではなく、将来の診断士活動でも確実に活きます!
令和8年10月25日。 事例Ⅱの歴史に、20社目のB社が加わります。その相談相手は、あなたです!
二次試験も突破して、一緒に中小企業の力になろうな!
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