【美しき過去事例の変遷①】事例Ⅰの19年は中小企業のドキュメンタリーだった ~過去問19年(H19-R7)の時代背景とテーマ~ byすーじー

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- 1. 第1章 A社19年の全記録
- 2. 第2章 与件文は、中小企業の時代ドキュメンタリー
- 2.1. 第一幕 H19〜H21 実感なき回復と、雇われ方が変わった頃
- 2.1.1. H19:回復の実感なき売場で、満足度の謎を解く
- 2.1.2. H20:国際価格競争の波が、機内食の厨房に届く
- 2.1.3. H21:後継者を失った洋菓子店を、老舗が引き受ける
- 2.2. 第二幕 H22〜H25 リーマンの後で――円高・震災下のもがき
- 2.2.1. H22:相場の時代が終わり、機能で選ばれる問屋へ
- 2.2.2. H23:創業家なき会社が、「ゆでガエル」を恐れて動く
- 2.2.3. H24:円高の中、技術とともに海を渡る
- 2.2.4. H25:正社員26名で、70億円を売る
- 2.3. 第三幕 H26〜H30 人手不足の足音、承継の秒読み
- 2.3.1. H26:良品率40%の壁と、博士たちの定着
- 2.3.2. H27:成果主義を、あえて入れないという判断
- 2.3.3. H28:3,000校の卒業アルバムと、少子化の現実
- 2.3.3.1. H29:破綻した銘菓を復活させた会社の、第三の創業
- 2.3.3.2. H30:バブルもリーマンも越えた技術者集団の、次の一手
- 2.3.4. 第四幕 R1〜R3 縮む市場、止まった世界
- 2.3.4.1. R1:たばこ乾燥機の会社が、コア技術を再定義する
- 2.3.4.2. R2:「コロナは考慮不要」――試験問題が歴史の証人になる
- 2.3.4.3. R3:活版からウェブへ、15名のファブレスが挑む
- 2.3.5. 第五幕 R4〜R7 買収する側へ、探索する組織へ
- 2.3.5.1. R4:与件に「コロナ禍」がやってきた
- 2.3.5.2. R5:三重の高齢化の中で、蕎麦店が事業を譲り受ける
- 2.3.5.3. R6:「物流の2024年問題」が、そのまま試験に出た
- 2.3.5.4. R7:木のおもちゃと、探索できる組織
- 2.4. 第3章 データが裏付ける、時代の反映と試験の進化
- 2.5. 第4章 題材は時代とともに変わり、問いは変わらない
- 2.6. おわりに――10月25日、20社目の相談へ
「物流の2024年問題」がニュースをにぎわせたその年、事例Ⅰの与件文に現れたのは、3PL事業者への飛躍を目指す運送会社でした。
2次試験の勉強を始めると、多くの人が同じ疑問にぶつかります。
過去問は何年分解けばいいのか。
10年前、15年前の過去問に、今解く価値はあるのか。
事例Ⅰの過去問19年分(平成19年〜令和7年)を並べて読むと、それは単なる二次試験問題の束ではないことに気づきます。
その時代の中小企業のリアルと、診断士に求められる仕事を映し出すドキュメンタリーです。
試験の解法は巷に溢れています。予備校が威信をかけて研究してくれています。
このブログでは、「解き方」から一旦離れてストーリーとして捉えて読んでみたいと思います。
二次試験事例Ⅰのドラマティックな旅が始まっちゃうよ~!?
※恐ろしく長文かと恐れ慄きますが、スクロールバーは半分くらいのところで記事は終わりますので安心してください。
第1章 A社19年の全記録
まず全体観です。
事例Ⅰの「A社」は19年間、毎年違う業種・規模・悩みを抱えて登場してきました。
問題PDFはすべて中小企業診断士協会の過去問ページで公開されているものです。
平成中期(H19〜H24)
| 年度 | A社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H19 (2007) | インポート・アクセサリー販売業(15店舗) | 66名(正社員15名) | 従業員満足度調査の謎を解く | |
| H20 (2008) | 機内食製造の食品加工メーカー | 売上約18億円・約300名 | 国際価格競争と権限移管 | |
| H21 (2009) | 老舗和菓子メーカー | 売上約12億円・約130名 | 後継者難の洋菓子F社を買収 | |
| H22 (2010) | 食品原材料の一次問屋 | 年商約170億円・125名 | 相場から機能提供への転換 | |
| H23 (2011) | 医療品メーカー(絆創膏・膏薬) | 売上約37億円・約230名 | 二度の危機と産学連携の多角化 | |
| H24 (2012) | 金属表面加工処理メーカー | 売上40億円・109名 | 東南アジア進出と技術移転 |
平成後期(H25〜H30)
| 年度 | A社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| H25 (2013) | サプリメント通信販売業 | 売上約70億円・135名(正社員26名) | OEM活用の少数精鋭経営 | |
| H26 (2014) | 精密ガラス加工メーカー | 売上約3.5億円・40名 | 良品率改善と博士人材の定着 | |
| H27 (2015) | プラスチック製品メーカー | 売上14億円(単体)・75名 | 市場を乗り換えて生き延びる | |
| H28 (2016) | 老舗印刷業(学校アルバム) | 売上約15億円・約150名 | 少子化と「社員は宝」の経営 | |
| H29 (2017) | 菓子製造業(銘菓の再興) | 約90名(正社員18名) | 破綻銘菓の復活と第三の創業 | |
| H30 (2018) | エレクトロニクスメーカー(ファブレス) | 売上約12億円・約50名 | ニッチ集中と混成チーム |
令和(R1〜R7)
| 年度 | A社 | 規模 | 物語のテーマ | 問題 |
|---|---|---|---|---|
| R1 (2019) | 農業用機械メーカー(葉たばこ乾燥機) | 売上約11億円・約80名 | コア技術の再定義 | |
| R2 (2020) | 老舗の蔵元(酒造+レストラン+土産物) | 売上約5億円・実質42名 | 友好的買収と孫への承継 | |
| R3 (2021) | 印刷・広告制作会社(ファブレス) | 15名 | 事業ドメイン拡大の是非 | |
| R4 (2022) | 農業法人(6次産業化) | 40名 | コロナ禍の6次産業化と承継 | |
| R5 (2023) | 蕎麦店(X社を事業譲受) | 15名 | 三重の高齢化と経営統合 | |
| R6 (2024) | 物流サービス企業(3PL志向) | 売上30億円・120名 | 物流2024年問題と組織再編 | |
| R7 (2025) | 木材加工会社(木製知育玩具) | 売上約8億円・30名 | 理念の再定義と両利きの組織 |
従業員15名のお蕎麦屋さんから、年商約170億円の問屋まで。この幅こそ、日本の中小企業のリアルの幅そのものです。
業種も規模も毎年ここまで違う!
従業員15名から約300名まで、「中小企業」ってほんと幅広い!
第2章 与件文は、中小企業の時代ドキュメンタリー
19年を5つの幕に分け、1年を1話として全19話でたどります!
与件文はおおむね「前年までの日本」を映して作られています。
試験問題は実施のかなり前に作り込まれるため、直近の大事件はすぐには反映されません。
本文中の時代とA社の関連づけは、公的資料や与件の記述をもとに考察したものですやで
第一幕 H19〜H21 実感なき回復と、雇われ方が変わった頃
H19:回復の実感なき売場で、満足度の謎を解く
2007年の日本は、2002年1月を谷に始まった景気拡張のさなかにありました。この拡張は2008年2月の山まで73か月続きます(出典:内閣府「景気基準日付」)。ただ、好況の実感は乏しいと言われ、雇用では非正規で働く人の増加が長期的に続いていました(出典:厚生労働省「非正規雇用の現状と課題」)。
その年のA社は、15店舗を展開するインポート・アクセサリー販売業。
従業員66名のうち正社員は15名で、売場の主力は47名の契約社員でした。会社が実施した従業員満足度調査には、不思議な結果が出ます。高級ブランドを担当する、社歴の長い従業員ほど満足度が低かったのです。
診断士への依頼は、この調査結果の分析と収益構造の改善策です。
雇用形態が多様化した現場で、人のやる気をどう”診る”か。後の事例Ⅰに繰り返し現れるテーマの原点が見えていました!
H20:国際価格競争の波が、機内食の厨房に届く
2008年2月、73か月続いた拡張は山を越え、景気は後退局面に入りました(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。そして試験直前の9月、米リーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界金融危機が始まります。ただし、10月の試験問題には、9月の金融危機の影響はまだありません。
その年のA社は、航空会社に機内食(アントレー)を納める食品加工メーカーです。
売上約18億円、従業員約300名。航空業界の国際価格競争によるコスト削減圧力で、営業利益率は8.0%から0.9%へ急落していました。料理長から工場長への権限移管、作業の標準化、一般消費者向けの新規事業が動き出します。
依頼は、職人の世界から管理された工場への移行と、収益構造の立て直しです。
H21:後継者を失った洋菓子店を、老舗が引き受ける
景気後退は2009年3月に谷を打ちました。山からわずか13か月の急な落ち込みです(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。世間には、消費の冷え込みが広がっていました。
その年のA社は、売上約12億円の老舗和菓子メーカー。
与件には「昨年来の景気低迷」への言及があり、前年の与件にはなかったリーマンの影が、1年遅れでここに写り込みます。物語の中心は、後継者問題で事業継続を断念した洋菓子メーカーF社を、信用金庫の仲介で買収する場面です。買収されたF社側の従業員のモラール低下が課題となります。
依頼は、買収後の人と組織のマネジメント(今でいうPMI)と、景気低迷下の短期売上策です。
M&Aは令和のテーマだと思われがちですが、事例Ⅰでは17年前に本格出題されていました!
時代背景が影響してる!
第二幕 H22〜H25 リーマンの後で――円高・震災下のもがき
H22:相場の時代が終わり、機能で選ばれる問屋へ
2009年3月の谷を境に、景気は回復局面に転じます(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。ただし物価の下落基調と消費者の強い価格志向が続いていました。
A社は食品原材料の一次問屋。年商約170億円は19年で最大のA社です。
相場の値動きで稼ぐ商売が終わり、取引先に機能を提供して選ばれる問屋への転換を迫られていました。転廃業する地方問屋の救済型の友好的買収、家族主義と成果主義のせめぎ合い、高齢社員に偏った年齢構成。問屋の生き残りが多面的に描かれます。
依頼は、ビジネスモデル転換期の組織と人事の再設計。
商売のかたちが変わるとき、人の処遇をどうするか、という問いです。
H23:創業家なき会社が、「ゆでガエル」を恐れて動く
2011年3月、東日本大震災が起きた年です。社会では高齢化が着実に進み、中高年向けの「健康・美」の市場が広がっていました。景気は翌2012年3月の山に向かう回復途上にあります(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。
A社は絆創膏や膏薬を作る医療品メーカーで、売上約37億円・従業員約230名。
創業家が経営から離れ、所有と経営が分離した会社です。二度の経営危機と再建を経て、産学連携による化粧品・健康食品への多角化に踏み出します。与件が警戒するのは、ゆっくり進む環境変化に気づかない「ゆでガエル」現象が起こっていました!
依頼は、危機の教訓を踏まえた多角化と組織づくり。じわじわ来る変化への感度が主題でした。
H24:円高の中、技術とともに海を渡る
特に製造業には歴史的な円高が重くのしかかっていた時期です。景気も2012年3月を山に、11月の谷まで短い後退を挟みます(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。
A社はアルミの自動車重要保安部品を手がける金属表面加工処理メーカー。
売上40億円・従業員109名。与件には「リーマンショックを契機とした世界金融危機」と明記され、時代がそのまま書き込まれています。取引先の要請を受けて東南アジアS国への進出を決断し、ベテランが持つ品質保証のノウハウを海の向こうへ移す挑戦が始まります。
依頼は、海外拠点への技術・品質移転の体制づくりと、成果主義型賃金制度の設計。円高時代の製造業の悩みが凝縮された一年です。
H25:正社員26名で、70億円を売る
2012年11月を谷に、景気は長い拡張局面へ入っていきます(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。団塊の世代が65歳に達し始め、シニアの健康市場と通信販売が伸びていた時期です。
A社はサプリメントの通信販売業者。
売上約70億円に対して正社員はわずか26名で、OEMと外注の活用で身軽なまま急成長してきました。コールセンターを支えるのは中高年の主婦オペレーターたちで、離職率は5%と低く保たれています。
依頼は、非正規が従業員の8割を占める組織のマネジメントと、少数精鋭を成り立たせる仕組みの分析です。「大きくならずに強くなる」中小企業の一つの型が表現されていました。
時代背景が影響してる!(2回目)
第三幕 H26〜H30 人手不足の足音、承継の秒読み
H26:良品率40%の壁と、博士たちの定着
2012年11月に始まった景気拡張が続いていました(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。
A社は精密ガラス加工の研究開発型メーカー。
売上約3.5億円・従業員40名。試験管のOEMとレーザー装置を柱に、良品率40%から90%への改善に挑みます。物語の軸は、博士号を持つ人材の採用と定着、そして公的助成金による研究開発資金の確保です。
この年の第1問は「研究開発型中小企業が増えている背景」を直接問いました。与件の外にある時代そのものを問う珍しい設問で、設問自体が、この時期の日本でそうした企業への注目が高まっていたことを映しているように読めます。小さな会社が高度人材を抱えることの難しさと価値が主題。
H27:成果主義を、あえて入れないという判断
拡張局面が続く一方、少子高齢化を見据えた健康・シニアスポーツ市場の広がりが意識されていた時期です(景気局面の出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。
A社はプラスチック製品メーカー。
バドミントンのシャトルコックで創業し、オイルショックの危機を越え、ゲートボール、そしてグラウンドゴルフ(シェア60%)へと市場を乗り換えて生き延びてきました。次の一手は健康ソリューション事業です。そして与件は、この会社が成果主義を「あえて導入しない」理由を丁寧に描きます。
依頼は、市場の栄枯盛衰を乗り越える事業展開の分析と、家族的な組織を保つ人事の是非です。流行の制度を入れない判断も戦略でありうる、と教えてくれる事例です。
H28:3,000校の卒業アルバムと、少子化の現実
少子化は学校の数を確実に減らしていました。公立小学校は平成元年の24,608校から平成28年には20,011校へ、児童数は約950万人から約637万人へ減っています(出典:平成28年度学校基本調査に基づく文部科学省説明資料)。
A社は大正創業の老舗印刷業。
全国約3,000校の卒業アルバムを年30万部手がけ、売上約15億円・従業員約150名です。与件にはリーマンの余波、ネット普及による印刷需要減、少子化、地方の労働人口減少が次々に書き込まれ、時代語の宝庫になっています。A社は「社員は宝」を掲げてリストラを避け、事業の多角化と機能別組織の改変で活路を探ります。
依頼は、縮む本業と多角化の功罪の整理、そして組織構造の見直し。市場が縮む中で雇用を守る経営の重みが伝わります。
H29:破綻した銘菓を復活させた会社の、第三の創業
人手不足が数字にはっきり表れた年です。平成29年平均の有効求人倍率は1.50倍で、前年の1.36倍から大きく上昇しました(出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」)。団塊の世代の引退も本格化していました。
A社は、経営破綻した老舗X社の銘菓を、元営業課長が仲間とともに復活させた菓子製造業。
従業員約90名のうち正社員は18名の少数精鋭です。創業をともにした「戦友」たちが定年を迎え、会社は「第三の創業期」に入ろうとしていました。
依頼は、世代交代期の組織と人材の再構築です。人が採れない時代に、どう育て、どう引き継ぐか。H29の日本の悩みがそのままA社の悩みでした。
H30:バブルもリーマンも越えた技術者集団の、次の一手
2012年11月から続いた拡張は2018年10月に山を迎えます。71か月は戦後2番目の長さでした(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。オフィスではICT化・ペーパーレス化が静かに進んでいました。
A社はエレクトロニクスの研究開発型ファブレスメーカー。
売上約12億円、従業員約50名の9割が技術者です。バブル崩壊とリーマンの両方を生き延びてきましたが、売上の6割を占める複写機関連市場に先細りの影が差します。打ち手はニッチ市場への集中、混成チームへの組織改編、UターンIターンの中途採用でした。
依頼は、技術者集団の戦略転換と、それを支える組織・採用の設計。実力主義と家族主義の両立も問われました。
時代背景が影響してる!(3回目)
第四幕 R1〜R3 縮む市場、止まった世界
R1:たばこ乾燥機の会社が、コア技術を再定義する
2018年10月を山に、景気は緩やかな後退局面に入っていました(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。健康志向の高まりと受動喫煙の社会問題化は、与件文にもそのまま書き込まれています!
A社は葉たばこ乾燥機のメーカー。
売上約11億円・従業員約80名。喫煙をめぐる環境変化と、葉たばこ生産者の高齢化・後継者不足で、主力市場は縮小の一途でした。3代目の長男はリストラという試練をくぐり抜け、自社のコア技術を「農作物の乾燥技術」と再定義します。ホームページで試験乾燥サービスを始めると、思いもよらない需要が見えてきました。
依頼は、縮小市場からの脱出戦略です。強みの再定義という、事例Ⅰ屈指の頻出論点でした。
R2:「コロナは考慮不要」――試験問題が歴史の証人になる
2019年、訪日外国人旅行者は3,188万2千人と、統計を取り始めた1964年以降で最多を記録しました(出典:日本政府観光局(JNTO)報道発表)。そして2020年、新型コロナで世界は一変し、景気は5月に谷を打ちます(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。
その2020年10月、試験問題の表紙には異例の注記が付きました!「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とその影響は考慮する必要はない」。
与件が描くA社は、温泉地の老舗蔵元です。
後継者不在の旧家を地元の実業家が友好的に買収し、金融機関出身の孫が承継して、酒蔵にレストランと土産物店を再興していく。物語の中は、インバウンドが盛り上がっていくコロナ直前の世界のままでした。
依頼は、買収された老舗の再生と承継です。
R3:活版からウェブへ、15名のファブレスが挑む
2020年5月の谷を過ぎ、景気は回復途上にありました(出典:内閣府「景気基準日付」前掲)。コロナ2年目、対面からオンラインへ、紙からデジタルへの移行が一気に進んだ時期です。
A社は従業員15名の印刷・広告制作会社。
19年で最小のA社です。活版からオフセット、デジタルへという印刷技術の歴史を一社で体現し、2020年に広告代理店出身の3代目が承継しました。紙の印刷からウェブ・広告制作へ、事業ドメインを広げるべきかが問われます。意外なことに、与件にコロナへの言及はありません。
依頼は、事業ドメイン拡大の利点と欠点の整理でした。小さな会社の生存戦略と、承継直後の舵取りが主題です。
時代背景が影響してる!(4回目)
第五幕 R4〜R7 買収する側へ、探索する組織へ
R4:与件に「コロナ禍」がやってきた
コロナ禍は3年目に入り、外食から中食・デリバリーへの需要シフトと食の安全志向が定着しつつありました。
その年、与件文に初めて「このコロナ禍にあっても」という言葉が現れます。R2の「考慮不要」、R3は言及なし、2年遅れの登場でした。リーマンがH21で1年遅れて登場したことと合わせて、「大事件は1〜2年遅れて与件にやってくる」という作問時差の法則に沿っていると考えられます。
A社はサツマイモなどを手がける従業員40名の農業法人。
有機JASやJGAPの認証を取り、大手中食業者への依存から、直営店・食品加工・カフェへと6次産業化を進めます。新規就農者の定着の難しさを抱えつつ、後継者は常務の娘(40歳・飲食サービス出身)です。
依頼は、6次産業化を支える組織づくりと、人材の定着・承継でした。女性の後継者が事例Ⅰに登場した年でもあります。
R5:三重の高齢化の中で、蕎麦店が事業を譲り受ける
物価の上昇が生活の話題になっていました。2022年平均の消費者物価指数(総合)は前年比2.5%の上昇と3年ぶりのプラスで、光熱・水道は14.8%上昇しています(出典:総務省統計局「2020年基準消費者物価指数 2022年平均」)。水際対策の緩和を受けて、外国人観光客も急速に戻り始めていました。
A社は従業員15名の蕎麦店です。
コロナの営業自粛期に持ち帰り半調理品を開発してしのぎ、今度は原材料の高騰に向き合います。与件が描くのは、仕入先、常連客、そして近隣同業X社の経営者という「三重の高齢化」。後継者のいないX社から2023年に事業を譲り受けて経営統合に踏み出しますが、X社従業員の人材流出への不安が残ります。追い風は、戻ってきた外国人観光客とSNSでした。
依頼は、事業譲受・統合のプロセス設計と、統合後の組織・人材マネジメント。令和でいうM&Aは「後継者不在の受け皿」として描かれます。
R6:「物流の2024年問題」が、そのまま試験に出た
2024年4月、トラックドライバーに時間外労働の年960時間上限が適用されました。対策がなければ輸送能力が2024年に約14%、2030年に約34%不足するとの試算も示され、「物流の2024年問題」と呼ばれます(出典:国土交通省 関東運輸局)。
A社は売上30億円・従業員120名の物流サービス企業です。
1990年の規制緩和(物流二法)による競争激化から現在まで、運送、倉庫、そして3PL事業者への飛躍を目指す歩みを一社で描きます。2020年に大手物流会社出身の長女が2代目社長に就任し、情報システム部門出身の長男を抜擢。問題用紙には組織図まで掲載されました。
依頼は、3PLへ向かう戦略と、それを支える組織・人材の設計です。時事がそのまま試験になった、この記事の冒頭で触れた一年でした。
R7:木のおもちゃと、探索できる組織
国産材への追い風が吹いていました。2023年の木材自給率は43.0%。かつて2割を切る水準まで落ち込んだ時代から、着実に回復しています(出典:林野庁「令和5年木材需給表」)。木に触れて学ぶ「木育」への関心も高まっていました。
A社は従業員30名の木材加工会社。公共案件中心の内装材から、木製知育玩具へと軸足を移してきました。県や大学、木工職人のネットワークと連携し、経営学を学んだ社長の子息が新規事業の責任者を務めます。与件が描くのは、経営理念の再定義と、既存事業を深めながら新しい市場を探索できる組織体制。いわゆる「両利きの経営」です。
依頼は、探索を担う組織のつくり方と理念の共有でした。19年の最終話は、変化を待つのではなく、自ら変革する中小企業の姿で幕を閉じます。
時代背景が影響してる!(5回目)
木材自給率データはちょっとこじつけやったかも・・・
第3章 データが裏付ける、時代の反映と試験の進化
物語だけではありません。数字で見ても、事例Ⅰは時代とともに進化しています!
解答字数は19年で大きく減りました。
| 年度 | 解答要求字数の合計 |
|---|---|
| H19 | 750字 |
| H24 | 520字 |
| H30 | 500字 |
| R5・R6 | 440字 |
| R7 | 520字(SWOT各30字×4欄を含む) |
ピークのH19(750字)から、R5・R6には440字まで約4割減りました。
書く量が減った分、1文字あたりの重みは増しています。
R7はSWOT4欄の新設で520字に戻りましたが、「短く要素を詰める」方向性は変わっていません。
設問構成にも節目があります。
第1問で現状分析(強み・弱み/SWOT)を問う型が定着したのはR4以降です(R4:100字→R5・R6:30字×2欄→R7:SWOT30字×4欄)。
「事業承継」は19年間の通奏低音です。 後継者や承継の物語は、H20の叔父から創業者長男への承継に始まり、ほぼ毎年のように登場します。
一方でM&A・買収・事業譲受が登場したのは、H21・H22・R2・R4・R5の5回。
平成の2回(H21・H22)は「買収した後の人と組織の管理」が論点でしたが、令和は「後継者不在の会社の受け皿となる譲受と統合プロセス」へと視点が移りました。M&Aの出題は令和になって始まったのではなく、論点が時代とともに進化してきています。女性の後継者はR4(常務の娘)とR6(長女)から登場しています。
A社の規模も振り返ります。
従業員は15名(R3・R5)から約300名(H20)まで、売上は過去の推移として記された5千万円台(R5)から約170億円(H22)まで。この振れ幅の大きさも中小企業のリアルですね。
そろそろ・・・なにがくるかな!?
どんな与件、設問でも、経営者に寄り添って答えることは変わらんけどね
第4章 題材は時代とともに変わり、問いは変わらない
ここまで見てきたとおり、業種も規模も事件も、毎年入れ替わっています。
それでも、設問の骨格は19年間一貫しています。
環境の変化を捉え、戦略を定め、組織と人でそれを実行する。 この一本の軸といえます。
その証拠に、「中小企業診断士として助言せよ」という形式の依頼は、19年すべての年度に存在します。売場の満足度調査でも、海外進出でも、蕎麦店の統合でも、A社が診断士に求めたことの本質は同じでした。
古い年度の過去問でも問いかけたい構造は今も同じなので、演習として十分成り立ちます。むしろ状況が現在と違うからこそ、「環境→戦略→組織・人」という型を初見の状況に当てはめる応用力が鍛えられます!
古い過去問は「傾向が違うから無駄」なのではなく、「型を試す新しい初見問題」ととらえて取り組むことができます。
| テーマ | 年度 |
|---|---|
| M&A・経営統合 | R5・R2(さかのぼるならH21・H22) |
| 事業承継 | R3・R6 |
| 組織構造(組織図の読み解き) | R6 |
| 買収後の人心掌握(PMI) | H21 |
| 成果主義・人事制度 | H24・H27 |
| 研究開発型・技術者組織 | H26・H30 |
| 市場縮小と強みの再定義 | R1・H28 |
| 両利き(深化と探索) | R7 |
少しでも楽しんで二次試験対策ができるようになると嬉しいな~
おわりに――10月25日、20社目の相談へ
19個の与件文は、19社分の経営相談です。
過去問を解くことは、19人の社長の悩みを追体験することにほかなりません。
売場の販売員の表情から、深夜の工場の処理槽から、蕎麦屋の厨房から、日本の中小企業の波乱万丈が見えてきます。
積み重ねるうちに、環境の変化と戦略と組織と人を結んで考える「診断士の目」が育ちます。
それは10月25日の80分のためだけの力ではなく、将来の診断士活動でも確実に活きます!
令和8年10月25日。
事例Ⅰの歴史に、20社目のA社が加わります。その相談相手は、あなたです!
次回の私のブログは、【美しき過去事例の変遷②】事例Ⅱ編の予定です
※あくまで「予定」
※気分と反響による
二次試験も突破して、一緒に中小企業の力になろうな!
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まさに歴史ですね!
まさに!ですです!