事例Ⅳの経営指標をはやくマスターするコツ

中小企業診断士を目指す皆様、こんにちは。
がんちゃん/岩間と申します。
(6代目のおとさんの紹介で、記事を書かせていただきます)

2次試験対策は順調に進んでいますか? 1次試験とは出題形式ががらりと変わり、苦戦している方がほとんどではないかと思います。
今日は【事例Ⅳの経営指標をはやくマスターするコツ】を紹介します。

「経営指標を3つ選んで記述しろ」って言われたって、いったい何をどうしたらよいか分かりませんね。そういう方の参考になればと思います。

先に結論だけお伝えしますと、
経営指標は、収益性・効率性・安全性のそれぞれから1つずつ
検討する経営指標は9個だけ
記述は与件中心に

です。

 

 

【最初に質問】

はじめに皆さんに質問です。
【質問】あなたは中学校時代の学校の成績はどうでしたか?(25字以内)

いかがでしょうか?

ここから5つの回答例を見てみます。
A:「文系科目は得意でした。一方で理系科目は苦手でした。」
B:「英語と国語は得意だったけれども、数学は苦手でした。」
C:「体育のような実技は得意でしたが、学科は苦手でした。」
D:「英文法は得意でした。リスニングや読解は苦手でした。」
E:「戦後史は得意でしたが、英語は、全体的に苦手でした。」
このうち良いものと悪いものはどれでしょうか?

私の見解です。まず、A~Cは良い回答です。いずれも質問者が聞きたい「学校の成績」の全体を対象にし、それらの対象をバランスよく分割して説明しています。
A:全体=文系科目+理系科目
B:全体=英語+国語+数学 (主要3科目)
C:全体=実技系科目+学科系科目

一方で、DとEはそうはなっていません。Dは、説明する対象が英語のみです。これでは「他の科目はどうなのか」が分からず、質問者には疑問が残るでしょう。Eも同様で、「歴史のなかで戦後史以外はどうなのか」や「歴史と英語以外はどうなのか」が分かりません。

余談ですが、全体が漏れなく重複なく分割されているとき、その状態のことをMECE (Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive、互いに重なりなく網羅されている)といいます。「MECEに分割できているね」といったりします。これは、物事の全体像を正しく把握するために役立つ考え方です。また、読み手に分かりやすく伝達するためには、MECEであることに加えて、分類がバランスよくてかつ直観的であることも必要です。

(なお、A~Cも厳にはMECEではありません。たとえばAでは文系科目でも理系科目にも分類されない科目が漏れていたり、Bでは主要3科目以外が漏れていたりします。)

長々と説明しましたが、「ふつうは意識せずにA~Cのように答えるよ」と思うかもしれません。ではその感覚を忘れないようにしつつ、本題の「経営分析の取り組み方」を見てみましょう。

 

 

【経営分析の3本柱】

経営分析の設問で聞かれていることは、端的にいうと「D社の財務状況はどうか?」ということです。設問指示はいろいろとありますが(「特徴をもっともよく表す指標」とか「優れている点を1つ、課題を2つ」とか)、本質的には上記のとおりです。冒頭で見た中学時代の成績の例と似ていますね。

ですから、経営分析では、財務状況の全体像をMECEでバランスよい複数の柱に分けて説明する必要があります。(MECEでなければ採点者に「他の観点はどうなの?」という疑問が湧いてきますし、バランスよくなければ採点者には伝わりません)

それでは、どういう柱に分ければよいでしょうか?

答えは、「収益性、効率性、安全性」です。

理由は、この3本柱が、財務状況を表す損益計算書(P/L※)と貸借対照表(B/S※)を漏れなく説明できるからです。大雑把にいえば、P/L⇔収益性、B/Sの借方(左側)⇔効率性、B/Sの貸方(左側)⇔安全性 に対応づけられます。

※ P/L:Profit(利益) and Loss(損失) statement(計算書)、B/S:Balance Sheet(バランスシート:貸方と借方が必ず均衡することから)

他にも、企業の存在意義の一つである「株主から得た資金を使って利益を出すこと」を、これら3つの要因で説明できることも挙げられます。これは次の式から分かります。
株主資本に対する利益率(自己資本利益率、ROE)
=利益÷自己資本
=利益÷売上高 × 売上高÷総資産 × 総資産÷自己資本
=《収益性》×《効率性》×《安全性》
(ただし、この式が示す安全性は、「資本構造の安全性」であり、「短期安全性」や「長期安全性」には言及していないことに注意しましょう)

ということで、企業の財務状況をバランスよく説明するためのポイントは、「収益性・効率性・安全性のそれぞれに触れること」です。

(なお、設問での指示がある場合やP/Lが与えられていない場合など、設問上の制約がある場合はこの限りではありません。)

 

 

【確認する要素は3×3=9個(経営指標は9個だけ検討する)】

続いて、3本柱:収益性・効率性・安全性のそれぞれについて、深堀してみます。

【質問】収益性を説明するうえでの主要な構成要素は何でしょうか。また、効率性・安全性についてはどうでしょうか(たとえば、「国語」だったら、その構成要素は「現代文、古文、漢文」です)。

答えはいくつか考えられます。以下はその一例です。
《収益性》 売上総利益、営業利益、経常利益
《効率性》 売上債権、棚卸資産、(有形)固定資産
《安全性》 短期、長期、資本構造
(これらもおおよそ、MECEでかつバランスよくなっていることを確認しましょう)

従って、
収益性を知りたい⇒売上総利益・営業利益・経常利益 を調べればよい
効率性を知りたい⇒売上債権・棚卸資産・(有形)固定資産 を調べればよい
安全性を知りたい⇒短期安全性・長期安全性・資本構造の安全性 を調べればよい
といえます。

 

 

【%や回転数で比較する意味】

ここで少しだけ話がそれますが。

ある日、中学1年生の太郎君は、お母さんにテストの結果を報告しました。
太郎君: 「今日のテスト、10点だったよ。びっくりしたよ。」
お母さん:「え、勉強しなかったの?」
太郎君: 「頑張って勉強したよ」
お母さん:「ふざけないで」
こんな感じでお母さんに激怒され、太郎君は困惑してしまいました。

太郎君とお母さんとの会話がかみ合わない原因は何だったでしょうか。
お気づきだと思いますが、「実際は10点満点のテストなのに、お母さんは100点満点のテストだと思い込んでいたこと」です。

日常生活においてもビジネスにおいても、物事・性質の良し悪しを判断するときには「数値」を使います。逆に、「数値」を使うときにはそれを評価しています。そして、基準との比較を必ず行っています。たとえば、
70点を取れてよかった!
→ 70点は合格基準の60点と比較して上だから良い / 平均点の55点と比較して上だから良い
いま7:08だからセーフ!
→ 7:08は、電車の出発時刻7:10と比較して前だから良い
今日は32度で暑い!
→ 32度は、昨日の気温31度より高いから暑い / 例年の平均気温29度より高いから暑い / 真夏日の基準30度より高いから暑い
買い上げ金額は864円になります
→ 864円は、感覚的にいつもの買い上げ金額500円~1,000円の範囲に収まっているから問題ない

当たり前のことですが、このことを忘れずに、経営分析の話に戻りましょう。

先ほど出てきた、3×3=9個の構成要素は、財務諸表からどのように見ていけばよいでしょうか。営業利益を例にしてみてみましょう。

D社の営業利益を見ると、10百万円だったとします。先ほど太郎君とお母さんのやり取りの例で見たように、これだけでは良いとも悪いともいえません。比較していないからです。

では、同業他社の営業利益(例えば8百万円)と比較すればよいでしょうか?
…というわけにもいかなそうです。D社と同業他社とでは一般に企業規模が異なるため、単純な比較が意味をなさないからです。

そこで、まずは同業他社と比較できるようにするために、(企業規模を端的に示す)売上高で標準化します。具体的には、単位売上高あたりの営業利益(売上高営業利益率)で表します。

このような考え方で、収益性と効率性(計6項目)については、まず「売上高」に対する割合を計算し、そのあと同業他社と比較し、良し悪しを判断します。(なお、効率性は、いろいろ理由があって分母と分子が反対になることに注意しましょう)

安全性(3項目)は、資産と負債のバランスや、負債と自己資本のバランスを見るものです。ですから、売上高で換算する必要はなく、B/S内の項目どうしで割り算をします。

このようなことを踏まえ、これまで学習した経営比率9個を理解していきましょう。

《収益性:売上総利益》 売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100%
《収益性:営業利益》  売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100%
《収益性:経常利益》  売上高経常利益率=経常利益÷売上高×100%
《効率性:売上債権》  売上債権回転率=売上高÷売上債権
《効率性:棚卸資産》  棚卸資産回転率=売上高÷棚卸資産
《効率性:有形固定資産》有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産
《安全性:短期》    流動比率=流動資産÷流動負債×100%
《安全性:長期》    固定比率=固定資産÷自己資本×100%
《安全性:資本構造》  負債比率=負債÷自己資本×100%

なお、安全性の指標は3個としましたが、慣れてきたら「当座比率」、「固定長期適合率」、「自己資本比率」も含めて考えましょう。

 

 

【記述は与件中心に】

多くの年度では、経営指標名や指標値だけではなく、原因・理由等の記述が求められました。ここには何を書くべきでしょうか。

結論的には、「与件に書かれていること」です。
経営指標値は単なる結果を表すのみですので、説明することはありません。

たとえば、「今日は32度で、昨日より2度高い」や、「前回より成績が上がって70点になった」といっても、それは結果しか表しません。そうなった理由である「高気圧に覆われたから」や「毎日計算練習をするようにしたから」といった情報は、いくら数値を見ても知り得ません。経営分析の設問でも同様で、数値をいくら眺めていてもその理由を書くことはできず、与件を見る必要があります。

なお、「D社の売上高営業利益率が10%で、同業他社の8%より良いため、収益性が高い」といった自明なことは求められていないと考えるべきです。うっかりすると指標の説明をしてしまいがちですので、気を付けましょう。

 

 

まとめ

1. 経営指標は、収益性・効率性・安全性のそれぞれから1つずつ
2. 検討する経営指標は9個だけ
・収益性: 売上総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率
・効率性: 棚卸資産回転率、有形固定資産回転率、売上債権回転率
・安全性:
特に収益性と効率性は「実額を企業規模である売上高で標準化」することで、他社比較をできるようにしていることがポイントです。
3. 記述は与件中心に

 

 

 

事例4対策記事(全4回)

第1回
事例Ⅳを苦手としている受験生のために
https://rmc-oden.com/blog/archives/94419

第2回
事例Ⅳの経営指標をはやくマスターするコツ
https://rmc-oden.com/blog/archives/94644

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