平成27年度・事例Iのストーリーを読み解く

こんにちは、うみのです。

先週から始まった「平成27年度2次試験分析シリーズ」、今日は「俺の事例I」ということで、考えてみました

事例を解くのは一年ぶりですが、楽しかったです。

2次試験の翌日にも書きましたが、今年の事例Ⅰはおおむねオーソドックスな問題構成だったかな、と思います。

 

※事例Iの与件文はこちら を参照

 

☆今年のA社の特徴をまとめてみると、

 

①創業期

いち早く流行の兆しをとらえてスポーツ市場に参入→コア技術で業容拡大→価格競争で経営危機

②第一の転換期

成形技術の高度化、特許取得で新規事業開拓→関連会会社化→経営安定

③成長期

・祖業であるスポーツ用品事業の拡大→自社ブランドで市場拡大→人気低迷で次なる事業を模索→シニア層向けグラウンドゴルフ市場参入、過半シェア獲得

・成形技術の高度化で売上安定

④第二の転換期

・自治体や大学と連携→福祉事業参入

・シニア向け事業で培ったノウハウ・ネットワークを活用→スポーツ関連分野事業を健康ソリューション事業としてサービス事業を拡大→グループ全体売上16%まで成長

 

…とまあ、たいそうアクティブな事業展開をしてきています。

事例企業は往々にして過去の失敗と成功に学ぶことで成長スタイルが決まるものですが、新社長になってからその傾向がはっきりしていますね。

もともとはスポーツ用品の製造に特化して技術を高度化したり、特許を取ったり、自社ブランドを展開したりすることで市場拡大を図ってきたA社ですが、そこには良い面も悪い面もあるようですね。

第1問はまさにその点について問うています。

「A社を支えてきた」と制約条件があるので、一般論で答えないように気をつけたいところです。

「市場特性」を外部環境と捉えるならば、「機会/脅威」の両面で解答できそうですね。

私が答えるとしたら、

 

機会:

・流行によって市場拡大しやすく、早期に参入できれば売上や市場シェアを大きく伸ばせる

・シニアなどターゲット層が明確であり、知識・経験・ネットワークを活用した関連多角化が図りやすい

脅威:

・参入が容易なため、輸入製品などにより価格競争にさらされやすい

・流行による需要変動が大きく市場が不安定なため、常に新規事業を模索する必要性がある

 

あたりかなあと思います。

100字と文字数が少ないので、与件文の表現をうまく引用しながら機会と脅威で1点ずつ盛り込めたらそれなりに点数が取れる問題かな、と思います。

与件文におおむね根拠があるので、いわゆる【みんなができた】問題ですかね。

 

☆上記を踏まえると、スポーツ用品市場は流行の流れをいち早く踏まえ、早期に参入して市場の優位性を確保して 売上を伸ばしつつ、需要動向に応じて撤退と新規市場参入のタイミングを常に見計らっていく「身軽さ」が求められる環境だと言えますね。

その迅速な判断力こそが当該市場における生命線であることは、A社が経営危機に陥った経緯を見ればよくわかります。

そうした外部環境の不安定さを乗り切ることができたのが、成形技術の高度化ですね。

しかしこの技術で得た新事業を、新社長はすぐ関連会社として独立させています。

なぜそのような組織変革を行ったかについて問うているのが第2問です。

組織は戦略に従う、で考えてみると、

 

事業の考え方が異なるため、既存の主力事業とのシナジーを起こしにくい

事業の考え方が異なるため、新規事業に合わせた組織文化を形成することでスムーズな成長を図る

・技術難度が異なるため、専門分化することでより効率的に技術の高度化を図る

・自社ブランド展開など従来の市場浸透戦略とは異なる戦略が求められるため、別会社化することで経営上のリスク分散を図る

・顧客が少なく市場規模が小さいため、意思決定を迅速化することで効率的に市場拡大を図る

 

あたりかなあと思います。

こちらも120字なので、与件文と一次知識をバランスよく盛り込みつつ、論点が2~3ほど書けていれば十分かなと思います。

こちらも比較的一次知識を対応させやすいと思うので、【みんなができた】問題の可能性が高い気がします。

 

☆さて社長の組織戦略が当たり、新規事業は順調に成長してA社は経営危機を乗り越えます。

そこで創業時からの主軸事業であるスポーツ用品事業で新たな事業(ゲートボール)に参入し、さらなる成長を目指します。

過去にバドミントン市場で成長した経験を踏まえ、工場の全面改装、自社ブランド展開で売上を伸ばしていきますが、ゲートボール自体の人気に陰りが出て市場縮小の脅威にさらされます。

せっかく投資したのに、需要変動が激しいためすぐにまた新たな事業を模索しないといけないという、なんともハイリスクな市場で頑張っていますね…。

この時点では、成型製品事業のほうが安定した売上を出せるようになっていて、経営を下支えしてくれるようになっていますね。社内の売上構成も60%を占め、数字だけ見ればむしろこちらの方が主力事業になっています。

なんとかグラウンドゴルフという次の流行市場にいち早く参入して市場シェアの過半数を獲得するようになりますが、多分A社社長は、「この市場もいつ需要変動の脅威にさらされるか分からない」と、このままのやり方では安定成長が図れないことを深刻に考えるようになったのではないでしょうか。

そこでスポーツ用品事業をもとに、安定成長できるような事業の関連多角化を図ろうと、福祉事業に参入したのではないかと思います。

ここで、創業以来ずっと製造業としての技術を磨いてきたA社に大きな転換期がやってきます。

スポーツ関連分野を健康ソリューション事業と位置づけ、ソフト開発などのサービス事業に参入。

従来のリソースや外部との連携が生かせるとは言え、思い切った多角化ですね。定款も変更したのでしょうねー。

これが恐らく、A社のこれから向かうべき方向性なのでしょう。

という、新たな方向性に応じた組織人事の変革について問うているのが第5問

サービス事業という、これまでの製造技術高度化や自社ブランド展開とは全く異なる戦略が求められるであろう戦場で、どのような「組織文化の変革」や「人材育成」が求められるかという問いです。

「組織人事の観点から」などと漠然とした制約条件ではなく、かなり具体的に絞られてますね。文字数も100字と少ないですし、助言系の問題の中では比較的答えやすかったのではないかと思います。

新たな市場で、既存の知識やノウハウ、ネットワークを活用して新たなソフト商品を開発していく必要性があるという点から

 

組織文化:

・アイデア創出やチャレンジを推奨する

・自治体や大学等外部機関とのネットワーク形成を重視する

人材育成:

・自治体や大学など外部機関との連携を通して学ぶ機会を充実させ、社員の企画・開発能力向上につなげる

・市場のニーズを幅広くとらえるための研修などを充実させ、高付加価値なサービスの開発・改善技術力向上につなげる

 

といったところを、私だったら答えたかと思います。

もう少し文字数があれば、さらに、「こうした組織文化改革や人材育成を通して、事業の高付加価値化を図り、A社を高利益体質へ成長させる」まで書いたと思いますが文字数が足りなさそうなので、せめて人材育成のところで「高付加価値」を入れる程度に留めたかもしれません。

これは【勝負の分かれ目】になった問題かな、と思います。事例I全体の中で相対的に位置づけるなら、【難し過ぎた】寄りな気もしますが…。

 

☆ところでA社は関連会社を含め、ほとんどが正規社員かつ年功ベースの人事制度を採っています。

ここまでA社の成長の軌跡を見てくるとだいたいその理由もつかめるかと思いますが、それを問うているのが第4問です。

さらに、ここでひとつヒントとして明確に与えられているのが、売上構成に対してアンバランスな従業員構成ですね。

まとめると、

 

・グループ全体で事業の考え方が異なるため、成果主義の基準を定めにくい

・コア技術の高度化や関連多角化により事業拡大してきた経緯があるため、短期的な業績のみでは評価できず、長期的に人材を育成していく必要性がある

・事業の需要変動が激しいため、成果重視型にすると事業転換の時期を見誤るリスクがある

・1人当たり売上高の高い製造事業と低い健康ソリューション事業との間で成果の水準が異なるため、成果主義導入により社員の士気が低下するリスクがある

 

私だったら、このあたりから3点ほど選んで答えたかなと思います。

ここも、多面的に解答できたかどうかが【勝負の分かれ目】になった問題ではないか、と予想されます。

 

俺の事例Ⅰ」はここまで。

私の解答も足りていない箇所は必ずあると思います。

どの事例も完璧に答えられる人などいませんし、そもそもそんなことは求められていません。

後から振り返ると、「書けていなかった」箇所ばかりが目についてしまうものですが、それは受験生のほとんどが同じです。

また、得点開示請求した人の多くが言いますが、自分の手応えと実際の点数はまったく相関性がありませんので、合格発表まではあまり思い悩まず、今できることをめいっぱい充実させて楽しみましょう

 

——-ここからは蛇足/来年の2次試験を受ける方向けです——-

 

 

最後に、今日のタイトルを「ストーリーを読み解く」にした理由について、簡単にお伝えしたいと思います。

私の「読む」解答プロセスは少し変わっていて、「ストーリー型読解」と勝手に呼んでいるのですが…具体的に説明しますと、

与件文を読みながら「事例企業のストーリーを構成する2つの軸」で要点を書き出して整理する

という方法を採っていました。

下記は今年の事例Iの与件文を読みながら書き出したものです。(クリックで拡大)

(手書きで汚くてすみません…)

だいたい30分くらいかけて読みながら、これくらいのポイントを書き出します。

「事例企業のストーリーを構成する2つの軸」とは、

 

①時系列

②因果

 

だと私は考えていました。

私の上記のメモで言えば、縦に書いた流れが時系列、横に書いた「→」が因果です。

 

そもそも与件文は、受験生の診断士としての読解力を問うために、一度組み立てたストーリーをわざとバラバラにし、一見してとりとめのない分かりにくい文脈にしています。

以前、「なぜ書けないのか?」というテーマで書いた通り、書けない理由の多くは「与件文や設問文の読み落とし」にあるものですが、ではなぜ「読み落とし」が生じるかというと、

 

与件文や設問文を、意図的にバラバラにされた状態のまま、“点”で拾おうとしている

 

可能性が高いと私は考えています。

 

「人の注意力の量には上限がある」と以前書きましたが、全ての‟点”にバランスよく注意を傾けることは非常に難しく、「ある点に注意を向けすぎた結果、別の点を見落としてしまった」という結果を引き起こしがちです。

与件文を読んだときはちゃんとマークしていたのに、解答に使ってなかった…」という経験をした受験生は多いのではないでしょうか。

 

要は、‟点”で拾おうとするから頭に残りにくいのだと思います。

事例企業のストーリーを

 

①時系列で、過去にどのような成長を遂げ、現在はどのような環境変化にさらされているのか? 

②因果関係で、どのような変革を行い、それによってどう成功/失敗したのか?

 

この2つの軸で整理すると、‟点”に見えていた与件文の要素が‟線”で捉えられるようになり、それぞれの要素がより頭に残るようになります。

私は、線=ストーリーで捉えるという読み方を取り入れるようになってからは、読み落としが減っただけではなく、出題の意図をより正しく理解できるようになり、「与件文の要素には実に無駄がない」ということがよくわかるようになりました。

整理しながら読んでみることで、 最初に作問者が描いたであろう、筋の通った構成が少しイメージできるようになるのかな、と思います。

そんなやり方もあるということで、来年受験される方のご参考になれば幸いです。

基本はいつでも「パクってカスタマイズ」ですからね

 

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平成27年度・事例Iのストーリーを読み解く”へ2件のコメント

  1. うみの より:

    アラフォーマン様
    コメントありがとうございます!
    いつも道場をご愛顧くださり、たいへん嬉しく思います。
    お褒めの言葉も恐縮ですが、とても励みになります。ありがとうございます。
    6代目のメイン執筆は2月までですが、これからもなるべく有用な情報をお届けできるように心がけます(^^)

    二次試験で求められていることの肝は、「とりとめのない社長のヒアリングシート=与件文」を診断士として理解・要約・説明できるか、だと思います。
    理解や要約する上での軸の一例として時系列や因果をご紹介しましたが、ストーリーや流れを意識するとロジックフローで全体を俯瞰できるようになり、読みやすく分かりやすい解答作成にも自ずと繋がっていくと私は思っています。
    ただ、これはあくまで合格のための一つの手段に過ぎませんので、アラフォーマン様にとって解きやすい解答プロセスがすでにあればそれでOKだと思います(^^)
    合格をお祈りしております。

  2. アラフォーマン より:

    うみの様
    うみの様の2次試験関係記事はいつもテンポ良く、今回の記事の試験解説にも見入ってしまいます。自分も先日本試験を受験してきましたが、時系列、因果という観点で問題文を解釈していく点に今更ながら気付きました。(;^_^A
    今は結果待ち状態ですが、毎日道場ブログは拝見しており、楽しみにしています。今後も受験生に有効な記事の配信を期待しています。

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