【法務】ケース問題のヒント

1 はじめに

 みなさん,こんにちは,はんたです。

 前回は,法律学習の基本的な話をしました。まとめると,次のとおりです。

 ①法律学習の基本要素は,意義,制度趣旨,要件,効果 である。(特殊な論点もあるが,診断士試験では深入り無用)
 ②診断士試験では,要件と効果に関する出題が多いため,試験直前までには,テキスト(問題頻出分野)に記載されている要件と効果を正確に暗記しておく必要がある
 ③しかし,学習に際しては,制度趣旨を理解しておくことがポイントである。

 本日は,いわゆるケース問題を解くときのヒントとなるようなことをお話ししたいと思います。ただし,本日も必ずしも即効性はありません。

2 ケース問題

 診断士試験では,択一問題で出題されますが,まずは,論述式の事例問題(ケース問題)から考えてみます。

 論述式では,利害関係者が複数登場して,具体的な事実や複雑な利害関係が問題文に記載されていて,「AはBにどのような法的主張ができるか。」「AとBの法律関係について論じよ。」などと出題されます。解答としては,その事例における法的問題に関する説明を答案に書くことになります。なお,「法律関係」も,前回記事の「法的関係」と同じ意味で,「権利・義務に関する関係」と読み替えることができます。要するに,その事例に即して,登場する関係者の権利・義務の関係を説明することになります。

 実は,論述式の事例問題については,答案の構成,解答フレームがほぼ決まっています。すなわち,一般的に,問題提起,規範定立,あてはめ,結論という4段階を踏まえるフレームです。

 1問題提起とは,その事例でどのような法的問題があるのか,これからどのような論点について論じようとしているのかを明らかにするものであり,その際に,問題の所在,つまり,どうしてその論点が問題になるのかを説明できると,論点に対する深い理解をアピールすることができます。

 次に,2規範定立とは,その問題を解決するための一般的な規範(問題解決のための判断基準)を明確にすることです。この規範定立において,前回お話しした要件あるいは効果をかみ砕いて説明することになります。解釈が分かれている場合は,その解釈の正当性を論証する必要があります。 

 その次に,3あてはめとは,規範定立で明確にした基準に,その事例における具体的な事実関係を適用することです。つまり,規範定立で明確にした基準を満たすような事実が存在するのかしないのかということを,問題文の中から具体的な事実を拾ってきて説明する部分です。

 最後に,4結論ですが,問題文に対応するように結論を明記する必要があります。法律に関する結論ですから,要するに,権利・義務に関する結論を記載することになります。

 

3 具体例

 平成24年第3問の「濫用的会社分割」を例として,もしこれが論述問題として出題されていたらどのような答案を書くべきか,簡潔に考えてみます。分割前のA株式会社を旧A社,分割後のA設備会社を新A社とします。(ただし,論述問題の場合は,問題の所在として,濫用的会社分割が生じる理由が,債権者に連絡することなしに会社分割ができる場合があるという会社分割制度の法の間隙とでもいうものにあることを分析して説明する必要があるのですが,これは省略します。)
それぞれについて,1が問題提起,2が規範定立,3があてはめ,4が結論になっています。

 (債権者代位)

1 X社は,債権者代位によって,旧A社に対する売掛金を新A社から回収することができるか,問題となる。

2 債権者代位とは,債権者が自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる権利である。その要件は,①債権者が債務者に対して債権(これを被保全債権といいます。)を持っていること,②その債権を保全する必要があること,③債務者がある財産権を持っていることであり,効果は,債権者が債務者のその財産権を行使することが許される。

3 これを本件についてみると,①X社は旧A社に対して売掛金債権として被保全債権を持っている。②旧A社からの支払いがなくなり,閉められてしまったというのであるから,売掛金債権を保全する必要もある。③旧A社が新A社に対して有する権利は,親会社(株主)としての権利であり,株主は共益権及び自益権を持つが,売掛金債権という金銭債権を回収するためには,自益権である配当請求権の行使くらいしか考えられない。また,配当は配当可能利益の存在と株主総会決議等の手続きを経る必要があるところ,新A社に配当可能利益があるか,配当手続きを行うかどうか不明である。そうすると,③の要件を満たすかどうか分からない。

4 したがって,X社が債権者代位により新A社から売掛金を回収するのは不確実である


(詐害行為取消権)

1 X社は,詐害行為取消権によって,旧A社に対する売掛金を新A社から回収することができるか,問題となる。

2 詐害行為取消権とは,債務者が債権者を害することを知ってした法律行為について,債権者が裁判所に取消しを請求できる権利であり,要件は,①債権者が債務者に対して被保全債権を持っていること,②被保全債権の発生後に,債務者が財産権を目的とする行為をしたこと,③その行為が債権者を害すること(詐害行為),④行為の時に,債務者と受益者(あるいは転得者)が,債権者を害することを知っていたこと,⑤債権者が裁判所に請求すること,であり,効果は,債権者は詐害行為を取り消して,引き渡された財産の現物返還や価格賠償を受けることができる。

3 これを本件についてみると,①X社は旧A社に対して売掛債権として被保全債権をもっている。②その売掛債権の発生後に,旧A社は会社分割という財産権を目的とする行為をした。③その会社分割によって,X社は売掛債権の支払を受けられなくなったのであり,債権者であるX社を害している。④債務者である旧A社と転得者である新A社は濫用的会社分割として,実質的に債務を免れることを図ったのであり,債権者であるX社を害することを知っていた。⑤X社は弁護士に依頼して裁判所に請求することができる。

4 したがって,X社は,詐害行為取消権の要件を満たすことができるから,裁判所の判決が出れば,新A社に対して,旧A社から引き渡された財産の返還や価格賠償を求めることが可能であり,それによって,売掛金債権の回収を図ることができる。

 

(併存的債務引受)←注:併存的債務引受は,細かいので無視しても構いません。

1 X社は,併存的債務引受によって,旧A社に対する売掛金を新A社から回収することができるか,問題となる。

2 併存的債務引受とは,第三者が債務者の債務を引き受けて,同一内容の債務を負担するが,債務者は依然として債務を免れないものをいう。その要件は,①債権者が債務者に対してある債権を持っていること,②債務者と第三者との間,あるいは,債権者と第三者との間で,第三者が債務を引き受ける旨の合意をすることであり,効果は,第三者も債務者と同一の債務を負うことになる。

3 これを本件についてみると,①X社は旧A社に対して売掛金債権を持っている。②しかし,旧A社と新A社は債務を免れようとして濫用的会社分割を行ったのであるから,新A社が旧A社の債務を引き受ける旨の合意をするはずがない

4 したがって,併存的債務引受の要件を満たさないから,X社が併存的債務引受によって売掛金の回収を図ることができない

(連帯保証)

1 X社は,連帯保証によって,旧A社に対する売掛金債権を新A社から回収することができるか,問題となる。

2 連帯保証とは,主債務者が債務を履行しない場合に保証人がその履行を代わって行うという保証のうち,保証人が主債務者と連帯して保証債務を負担することをいう。要件は,①債権者が主債務者に対してある債権を有すること,②債権者と保証人との間で,書面で保証契約を締結すること,③その保証を「連帯保証」とすることの契約か,あるいは,主債務が債務者の商行為によって生じたか,保証が保証人の商行為であることであり,効果は,主債務者が債務を履行しないときには,債権者は連帯保証人に債務の履行を求めることが可能であり,連帯保証人は検索・催告の抗弁,分別の利益を持たない。

3 これを本件についてみると,①X社は旧A社に対し売掛金債権を持っている。②しかし,X社と新A社との間で書面による保証契約の締結をした事実はない

4 したがって,③を検討するまでもなく,連帯保証の要件を満たさないことは明らかだから,X社は連帯保証によって売掛金債権を回収することはできない

長々と回りくどい文章につきあわせてしまい,もうしわけありません

 本来は,もっと細かい論点についても論証しなければいけないことがあるのですが,正解肢を選ぶために必要な限度で,1問題提起,2規範定立,3あてはめ,4結論というフレームに即して文章にしてみました。
 もちろん,本試験で解答する際には,ここまで文章化して考えていたわけではありません。上記の太字の部分のみから,直感的に判断しています。
 なお,実際に,濫用的会社分割に対し詐害行為取消権を行使した事案が裁判となっていて,平成24年10月12日に最高裁判所の判断が示されました。

4 ケース問題のヒント

 長い前置きが終わって,ようやく本論に入ります。ここまで回りくどい話をしたのは,ケース問題の解答フレームを理解して欲しかったからです。つまり,1問題提起,2規範定立,3あてはめ,4結論というフレームです。
 
そこで,次に,ケース問題で間違えてしまう原因を考えてみます。受験時代に私なりに考えた結論は,以下の3段階に分けられるのではないかということです。

間違える原因1 問題提起の段階で,何が問題となるのかが分からない。

間違える原因2
 規範定立の段階で,要件・効果を間違える。

間違える原因3
 あてはめの段階で,問題文から具体的な事実を拾ってくることができない。
  そこで,それぞれの原因について考えた対策は,

対策1 結論が分かれるポイントをつかむ。

    問題とするべき論点は,それによって結論が左右されるからこそ,論じる価値があるのであって,結論に影響がなければ問題点として取り上げる必要がそもそもありません。結論に影響があるかどうかは,法的効果の問題です。まずは,その問題の結論に影響のある効果を持つ論点を問題として取り上げることになります。上の濫用的会社分割の例では,効果の面からは,いずれもX社の売掛金債権の回収に役立つものが選択肢に挙げられていました。ただし,例えば,「消滅時効」が選択肢に挙げられていたとすれば,売掛金の回収に役立つ効果はありませんから,この段階で誤りと判断することができます。

対策2 要件・効果を正確に覚える。

    やっぱり,要件・効果を,最後には暗記しなければならないのはやむを得ません。ただし,丸暗記は厳禁。趣旨から理解することが重要であることは前回の記事のとおりですし,他のメンバーも強調しているとおりです。


対策3 問題文を丁寧に読む。要件に使える事実を丁寧に拾う。 

    これも要件の理解,記憶が前提になってしまうのですが,要件に使える事実が問題文のどこかに埋め込まれているはずだと予想しながら問題文を読むことで,読み飛ばし,読み落としが減るのではないかと思います。また,あてはめの事実を拾ってくるには独特のコツがあるので,問題演習を積んである程度慣れる必要があります。

4 最後に

 本日の記事は,みなさんがケース問題を解いて間違えたときに,どの段階で間違えたのかを分析して,正解する力をつけるための対策を立てるためのヒントとなることを願い,1問題提起,2規範定立,3あてはめ,4結論というフレームがあることを紹介しました。

  法務のケース問題の解答フレームは,1問題提起,2規範定立,3あてはめ,4結論 ですが,これを,

1経営上の問題点あるいは課題
2経営学のセオリーに基づく対策・手法
3事例企業への落とし込み
4期待効果

 と変えてみると,2次の筆記試験のヒントにもなると思います。

  ふうじんの記事やまっきーの記事で,「論理的思考力」について書かれていますが,私なりに,法務のケース問題と2次試験の関連性について考えてみました。

by はんた

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