事例III:雇われ・素人・工場長の身になって

こんにちは。ハカセです。今日は事例IIIについて少しお話を。

◇ 事例IIIは取り組みやすい? ◇

事例 III は、生産管理が中心です。初学者にとって取っつきにくい話題ではありますが、実は、何かのきっかけで急激に得点が伸びる事例でもあります。もしかしたら、すでにこれを実感している初学者の方もいるかもしれません。また、経験者の皆さんにとっては「安定科目」として確実に得点したいところです。

何故事例IIIが得点しやすいかというと、中小企業診断士は「その道の専門家」ではなく、「幅広い知識を持ったゼネラリスト」であるというところに尽きます。もちろん、生産管理や効率化・最適化を専門にする診断士の諸先輩もいらっしゃると思いますが、診断士私見では主にゼネラリストとしての資質が問われることになります。そうなると「知らないと書けない」という設問にはしにくい。これが理由の第一。

もう一つの理由は、そもそも生産管理という壮大なテーマを、文字だけでしかもたった2-3ページで説明することには限界があります。だから、受験者は、所詮、「その2-3ページの事例」と、「生産管理のセオリー」を突き合わせることになります。だから事例から離れないこと逆にそこに執着すること。ここに気付くと、急激に得点しやすくなります。

ちなみにボクは、建設系の会社で外注契約や購買関係の仕事をしています。よって、自ら生産管理を行っているわけではありませんが、発注側として生産管理が適切に行われているかどうかをマネジメントする立場にいます。だから、当初は「事例IIIは比較的得意かな」と思っていたのですが、思わぬ苦戦を強いられました。全然得点できなかった。その経験を踏まえて、自分が事例IIIにどう取り組んだかを紹介します。

◇ 「雇われ」工場長というキャラ ◇

ボクは、事例を解く際、自分のキャラ(立ち位置)を決めて取り組みました。以前紹介した 事例 I では「経営企画室のペェペェ社員」というキャラ でした。事例IIIは「雇われの素人工場長」というキャラ で解きました。

  • あなたは突然、B社工場長に任命された。 
     
  • 「素人」なので、「QCD」「QCD」とつぶやきながら歩いている。
     
  • 「素人」なので、「全体最適」「全体最適」とつぶやきながら歩く。
     
  • 「雇われ」工場長なので、常に経営課題を意識する。経営者の目を常に意識する。自分の手法を「だって経営課題のためには」と正当化することに固執する。
     
  • 「雇われ」なので、常に自分の成果をアピールしなければいけない。たとえ小手先の改善でも、それを、オーバーに「全社的な成果」や「経営課題の解決」に常に結びつける。「すごいでしょ?」をアピールすることを忘れない。だって「雇われ」なんだもん。首になっちゃう。
    例えば・・・
    ◇ コスト削減 → 収益の改善に寄与 (大げさな!)
    ◇ 取引先の拡大 → 経営基盤の安定化 → 環境変化への対応力強化 (ここまで言う?!)
     
  • とはいえ、所詮、「素人」の「雇われ」工場長。知識はたかが知れている。工場のことについて何も知らない。工場中駆けずり回って、ようやくその問題用紙3枚の知識を得た。
     
  • 致し方ない、それを基に改革を断行するしかない。社長もそれでいいと言ってくれている。だから気が楽といえば楽。「だってこれしか知らされてないもん」とむしろ開き直って、その紙に書いてある範囲で最大効果を得るように頑張る。
     
  • 書いてないことを「想像」して実行すると、現場から総スカンを食らう。それはルール違反。「雇われ」の「素人」工場長であることを忘れない事例から絶対に離れない。知ったかぶりをすると(事例から離れると)すぐに上げ足を取られる(事故を起こす)。

◇ ハカセの悩み ◇

どうして僕がこういうキャラを作り上げたかというと、いくつかの悩みがあったから。

  1. 事例IIIが最も事故が多かった : 事例IIIが、事例本文の根拠の使い分けミスがものすごく多かったのです。また、事例本文との「喧嘩」が多かった。経験者の方は覚えておられる方がいらっしゃるかもしれません。昨年2009年のTAC二次公開模試の事例IIIは、「静音技術」を他分野に応用しようというものでした。事例をそのまま素直に読めば「他分野応用」はスっと出てくるのですが、その時のボクは「静音技術なんて、簡単に他分野に応用できない。ましてや鍛冶屋の静音と家電の静音?全く別物!これは罠だ!」と、その根拠を使わなかったのです。その他、色々と事例と「喧嘩」した結果、上位92.5%という結果をとりました(笑)。はい。下位7.5%です。これはヒドい (T_T)。なまじっか「生産現場を知っている」という自分の誇りが、事例に対する素直さ、愚直さを失わせていたのです。どうすればよいか。「素人になろう」。そう決めたのです。素人はどうする? 素直になります。信じます。だから、そのまま書く。必要であれば「抜く」。
     
  2. 因果が甘い: 事例IIIの点が伸びない原因を、ボクは自己分析(事故分析ともいう)をしました。こちらの記事 (https://rmc-oden.com/blog/archives/4076)にも書きましたが、失敗を類型化することは非常に大事です。僕の場合は因果が甘い ことに気付きました。「AだからB。」これは書けているのです。でも、「AだからB。それによってCという経営課題まで解決しちゃう。」ここまで書くことで、さらに加点され、合格答案に近付くことが出来ると考えたのです。特に事例IIIは、慣れてくると「抜き」で加点されます。経験者は「抜き」を多用して安定科目にしています。それに対抗するにはどうすればいいか。「雇われになろう」。そして「小さな成果も大げさにアピールしよう」。そう決めたのです。

以前ご紹介したように、二次試験対策はある程度のレベルに達すると急激に得点が伸びます。

ボクの場合は、事例IIIが一番最初に「伸び」が訪れた科目です。受験生の皆さんもあきらめずに、愚直に、取り組まれることを願っております。

by ハカセ

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事例III:雇われ・素人・工場長の身になって”へ5件のコメント

  1. ヤマフリ より:

    みなさま
    私の「ぼやき」じみた質問に真摯にお答えいただきまして心からお礼申し上げます。

    ハカセさま
    私はある勉強会に参加しておりまして、来年に向けてどのようなカリキュラムを組むべきなのか熟考しておりました。こちらの記事に質問させていただいたのは、「勉強方法」で検索した際にあるまとめサイトにたどり着き、そこからリンクが張られた記事だったからです。無関係なレスポンス失礼いたしました。

    多くの受験生と接しているであろうハカセさまが、Sランク未合格受験生になんてアドバイスをするだろうか…。その言葉が知りたかったのかもしれませんし、その実おっしゃるとおり活を入れてほしかったのかも知れません。

    質問にあるような「誰もが合格を疑わない」多年度受験生は私のことではありません。今年1年そのような仲間を目指してきたつもりですが、そこに何かしらの齟齬があり、これからの1年に活かしたいなどと考えたのですが、それこそ間違いだったのでしょう。不確実性に理由を見出そうとする私の弱さだったと肝に銘じることにします。

    3215さま

    合格発表日の道場OPENDAYのコメントに錦織選手を例に挙げ、合格するには高い技術より楽しく打ち合えるスキルが必要と書きました。

    試験攻略するには勝負に挑むのではなく、相手が打ちやすい球を返してあげる思いやりとか優しさとかそういった心構えなのでしょうね。
    ありがとうございました。

    ふうじんさま

    道場アンケートにも記したのですが、私には解答の優劣をつける弱いところがあり、必死に人より優れたものを追求してきたところがあります。

    人から学び、多くの優秀な仲間の答案とそろえられるようさじ加減をマスターしたいと思います。
    ありがとうございました。

  2. ふうじん より:

    上の2人が的確な回答をしているので、少し違う立場から述べさせてください。
    .
    ①上位20%の答案を書く
    ②上位20%の人が作る答案を書く
    .
    の違いという見方はいかがでしょうか?まさやーん説によると②は上位20%でなく45%です。
    .
    Sランク合格者には普段の実力通りの高得点を叩き出す人もいますが、その大半は人並み答案にするためのさじ加減の勝負と聞いています。
    .
    余計な補足ですが、ハカセの合格は「Bたまたま」でなく「Aたまたま」です。ハカセの実力を褒めているのでなく、Aの下値が相当低いという意味です。

  3. 3215 より:

    >ヤマフリさん

    多年度受験生の話と聞いて、横からですが出てきましたよ。

    >議論をリードする姿勢、その豊富な知識、回答を導き出すプロセスの完成度の高さに誰もが合格を疑わない存在…。でありながら、何故昨年も一昨年も複数のA評価を受けながら、総合判定B。

    あぁ、僕も合格するまでの数年、これに近いようなことを言われていたような気がします。(ここまで優秀ではありませんでしたが…)

    しかし、合格してからわかるのですが、これら「議論をリードする姿勢」「その豊富な知識」「回答を導き出すプロセスの完成度の高さ」「誰もが合格を疑わない存在」というファクターは診断士二次試験合格には決して求められていないのです。

    求められてるのはあくまで「当日出題された4事例に対して」「満点でなくてもよくて」「上位20%前後に入る解答」だけなのです。

    僕もヤマフリさんのおっしゃる「大きな何か」が何を指すのかハッキリしませんが、ハカセの想定するようなことなのであれば、そのような「大きな何か」はないと思います。

    自分が受験生として数年過ごした経験からお話しするならば、これまでに得た「知識」や「お作法」や「手順」みたいなものが、逆に二次試験合格の「障害」になっている可能性も否定できないと考えています。

    上記のような「素養」や「評判」もいったん全部忘れてデトックスしてみるのも一案です。

    僕も同じ経験をしていますので、ヤマフリさんの胸中痛いほどよくわかります。
    どうぞこれからも応援しておりますのでよろしくお願いいたします。

  4. ハカセ より:

    >ヤマフリさま。コメントありがとうございます。心中お察し申し上げます。
    .
    「多年度生が涙を呑む」「誰もが認める実力者が足をすくわれる」というのは、今年のみならず、毎年少なからずみられる光景です。
    .
    理由はいくつか考えられます。体調管理、緊張による実力発揮不足、実力者ならではの考え過ぎ、といった、「本来ならば自分でコントロールしなければいけない何かを結果的に怠った」という理由もありましょうし、出題された事例企業と相性が合わなかった、採点者と相性が合わなかった、など、ややコントロールしにくい外的要因の場合もあるでしょう。
    .
    ただ、その理由のいかんにかかわらず、「診断士試験の二次試験はそういうもんなんです」っていうのが、小職の見解です。道場の「サイコロ理論」に代表されるように、実力Sランクの人でも何人かは落ちる、Aランクの人は相当数落ちる。逆にBランクの人でももしかしたら受かる。そういう「実力とは違う不確実性が他の試験より多い試験」なんだと思っています。

    でも、Sランクで落ちる人の確率はAランクよりは少ない。Aランクで落ちる人の確率はBランクより少ないと思われます。だから、Bランクの人はAランクに、Aランクの人はSランクに入れるよう、そしてそのランクをどのような状況下でも発揮できるよう、試験日までたゆまぬ努力を続ける必要がある、それが診断士試験の二次試験の本質なのではないかと思います。
    .
    ヤマフリさんがおっしゃる「共通する影響力大きい何か」というのが何を意味するのか判然としませんが、小職は上記以外の特別な要素はないと思っています。例えば「受験回数によって採点の甘辛が違う」というようなことはない」と思っています。
    .
    熱心な読者であるヤマフリさんだからこそ、「そんなこと考えるよりも、Sランクに入って、Sランクで居続ける努力(不確実性の影響を最小化する努力)をなさいませ」と敢えて厳しく申し上げます。
    .
    ヤマフリさんがおっしゃる「大きな何か」はあるかもしれませんが、でも、ないかもしれません。ジャーナリストや研究者であれば「あるかもしれないその何か」を追い求めるのもいいでしょう。でも、受験生は「あるかないか分からない」何かを考え続けるのは時間の無駄、と敢えて申しあげましょう。上記のような不確実要素は確かにあります。でもそれ以上の「何か」はない前提で、Sランクに入る努力、そして不確実性への対策を取り直してみてはいかがでしょうか。
    .
    当日の体調管理をきちんとする(ピーキングの記事が参考になると思います)、緊張せず実力を発揮できるように準備する(マシーン化する)、考え過ぎないよう事例に愚直に取り組む、どのような事例業種であっても対応できるようケーススタディをしておく、採点者に誤解されないように分かりやすい(点が入りやすい)文章力を磨く。などなど、不確実性をなるべく抑える努力を続けるのが合格への最短かつ唯一の道だと思います。
    .
    ・・・と、こんな偉そうなことを言っていますが、小職はどちらかというと「Bランクでたまたま合格」してしまった部類です。そんな小職にこんな上から目線でいわれる筋合いはないのは分かっています。間違えてストレート合格してしまった小職に、多年度受験生の気持ちが(表面的に分かったとしても)本質的には「分かってない」部分もあるでしょう。しかし、ご質問内容とは全然関係生が薄いこの記事に、この質問をしてきたヤマフリさんの心境は「ハカセにガツンと目を覚まさせてほしい」というお気持ちがあるのではないかと勝手に判断させていただき、敢えて厳しい言葉を申し上げました。
    .
    また二次試験の結果が出たばかり。まずは英気を養うことも重要です。疑心暗鬼でいると事例に素直にも愚直にもなれません。しばらく事例から離れてリフレッシュして、むくむくとやる気が湧いてきた頃に再挑戦への歩みを開始されることをお勧めします。暴論・乱筆・無礼・長文はご容赦くださいませ。応援しております!

  5. ヤマフリ より:

    いつも道場にはお世話になっております。

    今年度の2次試験ですが、多年度受験生が涙を呑む姿が散見されました。

    議論をリードする姿勢、その豊富な知識、回答を導き出すプロセスの完成度の高さに誰もが合格を疑わない存在…。でありながら、何故昨年も一昨年も複数のA評価を受けながら、総合判定B。

    当然、当日のコンディションなどいくつかの誘因はあろうかと思いますが、そこには共通する影響力大きい何かを感じずにはいられません。

    知りすぎているがゆえに合格に到達できない誘因がなんなのか、またそれをブレイクスルーする方法はあるのか、はたまたそこに何か共通する誘因があるとの仮定は間違っているのか、ハカセ様はどうお考えですか。

    それが分かれば、一歩合格に近づけるような気がします。

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